第二話

第4能力者訓練校への入学式は速やかに行われ、そして終了した。

それも当然だ。入学式という形は取られたが、その参加人数が少なかったのだ。


「5人…か」


入学式の後、これからの説明があるとの事で会議室に集められていた。


数百人は入るであろうこの学校で、能力者となる為に集まったのはたったの5人。

いや、5人しか見出せなかったと言えるのだろうか。


第七都市フヅキにて能力者の適合検査が行われる。

発現条件は18歳未満の少年少女であるという事。ただそれだけ。

適合率は年齢を重ねる際に変動があるという事で年に1回、必ず行われる。


そして、そんな適合検査に適ったのがこの5人だ。


「………」


会議室には、亮と美愛以外の残りの3人の姿もあった。

茶髪を逆立てさせた活発そうな少年、サイドテールに髪を纏めた黒髪の少女、短く切り揃えた黒髪で眼鏡をかけた少年。


会議室に入った直後は妙な緊張感があって誰もが黙ったまま席に座っていた。

と思っていたのだが。


「ねー、りょーう。何時までこうしてなきゃダメなんだにゃー」


「静かにしとけ」


「えー。それじゃつまんないって。此処何にもないしー」


「だからって騒ぐな。俺達だけじゃないんだから」


美愛は駄々っ子の様に声を上げた。亮の右腕に引っ付いたままである。

見た目相応と言えばそれまでであるが、もう少し落ち着きを持っていて欲しいものであった。


「……えーと、話し掛けてもよろしい感じ?」


茶髪のツンツン頭の少年から話し掛けられる。

どこか遠慮がちにだが、亮と美愛の様子に興味深々のようだった。


「あー……まあ、いいよ。遠慮せずに」


「そっかそっか。いやさー、俺達だけみたいだからいい加減自己紹介もしたいなーって思ってた訳よ」


あははは、と笑いながらその少年は亮の隣に座り直した。


「俺は裕。藤原 裕だ。よろしくな!」


「ああ。よろし…」


「あ、私も!いいかな?」


裕が自己紹介をした直後にサイドテールの少女もそれに乗り掛かる様に声を上げ、席を立った。

椅子から立ち上がった音に思わず他の皆からの視線が集中して少し恥ずかしそうに顔を俯かせながら亮達の席に歩み寄る。


「中沢 礼香です。えっと……そちらの女の子の耳って本物…?」


「……気になるかにゃ?」


「う、うん!すっごく気になって!さ、触らせてくれたりとかはー…」


「それはNG」


「だ、ダメかぁ~…」


緊張気味問い掛けるも拒否された為か礼香は見て分かる程大袈裟に肩を落としていた。

そんなに触りたかったのだろうか。


「私が触らせるのはぁ、亮だけだからねー?」


そうやって亮に身体を擦り寄らせながらニコニコする美愛。

と言うよりもそんな堂々と言わないで欲しい。と亮は礼香からの羨望の様な嫉妬の様な眼差しに晒されながらも溜息をつくばかりである。


「あの…僕からも少し、いいですか……?」


次はなんだ、と思いながら後ろから話し掛けられたので振り返る亮。

今まで黙ってこちらを見ていた短髪眼鏡の少年も本を片手に近くまで寄っていた。


その視線は亮と美愛を交互に見て……美愛を見る時だけ、妙に視線に熱が籠っているような気がするが。


「佐藤 洋です。えっと……お二人って付き合ってるんですか?」


「ああ、それそれ!俺も聞きたかったんだよね!」と亮の隣で裕が大きく頷いている。

礼香もそれは気になっていたのか、洋の質問に興味津々と言った様子で食い付いているようだった。

そんな質問される位にはやはり人前でのスキンシップは度が過ぎていたのかもしれない。


質問に対し、亮と美愛は思わず顔を見合わす。

亮は一瞬考える素振りをするが、美愛はそんな亮の反応に不満気だった。


だからなのか、より身体を密着させるように身体を傾け、照れてます!と言わんばかりの素振りをしながら


「……私達、小さい頃から一緒に暮らすくらいの仲なの。ぽっ」


などと言って裕と礼香が興奮した様に歓声を上げる事となる。

「ひ、一目惚れ……即終了…!」と洋は異様に落ち込んでいたが。


何やってんだこいつらは、と思いながらも亮はふと思い至る。

俺と美愛、まだ自己紹介出来てないなと。


「…とりあえずだ。俺は高坂 亮、こいつは猫山 美愛だ。まあ改めてというか…よろしくな」


裕、礼香、洋は三者三様の反応で皆応えてくれた。

たったこれだけだが、気のいい人達だという事で安心感も覚える。


これからの同期となる3人なのだ。

一旦、自己紹介がちゃんと出来た事に安堵するのだった。


そうして、こんなやり取りで幾らかの時間が経った後、会議室の扉が開かれた。


全員が席に座り直す。説明会を担当するであろう教師が正面の教卓……の前まで歩きながら可愛らしい声を上げた。


「皆、待たせたな!」


そう、女性の――と言うかそれは子供の声のように聞き取れた。

会議室で待機していた全員が目を見開いている。

それも当然の反応なのかもしれない。


「君達に今後の説明をさせて頂く―――」


膝下まで伸ばした鮮やかな赤髪。

右目を覆う黒い眼帯。黒一色の軍服。


そしてその身長は大体150センチほどしかない美愛よりも一回り小さいものだった。


「―――美玖・ルーシェだ。よろしく頼むぞ!」


はっきり言おう。

誰がどうみても幼女な女の子が、皆の前に堂々と現れたのだ。

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