第39話

「いいのおお! 発情シチュいいのおお!」


 スレイアと2人で抱き合う。

 スレイアから発情の状態異常をかけて欲しいと言われて最初は冗談かと思ったが本当にかけて欲しいようだったのでスレイアを発情させながら抱き合った。


 スレイアとの行為が終わるとドアがノックされた。


 モモがジト目で俺を見ている。


「モモ、どうした?」

「……」

「私は、抱いてくれないんですか?」

「……一旦入って欲しい」


 モモを部屋に入れた。


「ノワール、モモを抱いてあげよう、可愛そうだよ」

「スレイアはいいのか?」

「目の前で2人が抱き合うのも興奮するかも」


 スレイアは前から薄々変わった癖を持っている気がしていた。

 俺の見た目が好きなんだろうな。

 スレイアが俺に抱き着いた。

 そして耳元で囁く。


「ノワールの性格も好きですよ」

「俺も同じだ」

「ノワール、ノワール!」


「わ、悪い」

「私に魅力はありませんか?」

「いや、そうじゃない、でもさ、奴隷の上下関係があるのに抱こうとすれば断れないだろ? モモは美人だ。でも大事なパーティーでもあるから気は使う」

「本当ですか?」


 モモが魔装を解除した。

 そして俺に近づいてきた。


 まるでキスをする直前のように顔を近づける。

 いつものモモと行動が違う。


「本当だ」

「どうして、進化してすぐに抱いてくれなかったんですか?」


「そうだなあ、嫌かと思って」

「私は、抱いて欲しいです」

「もしかして、スレイアと抱き合っているの、聞こえてた?」

「はい、ばっちり聞こえていました」


「もし、良ければなんだけど、明日でもいい?」

「今じゃ、ダメですか?」

「あ、気になる事があって、さ」


「気になる事ですか?」

「あ、質問に答えていなかったな。モモはとてもきれいで魅力的だ。で、1つ前の話に戻るな」


 心臓がバクバクとリズムを上げる。

 焦ってしまうのだ。


「モモはアレクから酷い目にあった。で、そこから俺とスレイアが引き取って普通の生活に変わった。その落差で錯覚をして俺を好きだと感じでいる。そうなっていないか心配しているんだ」

「何となくノワールが言いたい事が分かったよ」

「分かりません」


「あー、そうだ。近所に住んでいるお兄ちゃんの事が好きだったけど大人になってから振り返ると何で好きだったのか分からない、みたいな感じだ。モモが今まで不幸だったから今錯覚を起こしている、そんな不安がある。なんだろう、明日にしないか? 明日ギルドで1番いい部屋を取っておく、あ、でもそうするとモモが本当は俺の事を好きじゃなかったとしても一緒に寝ないとおかしくなるか」


 俺は焦りながら言った。


「くす、分かりました。私を大事にしてくれているのは伝わりました」

「そ、そうか、明日い部屋を取るけど、明日の夜までに本当に俺の事が好きなのか? それともただの錯覚だったのか考えてみて欲しい。俺としてはモモと同じ夜を過ごしたいんだ。でも、錯覚を利用して騙すような事もしたくない」

「分かりました。明日、待っています」


 モモが出ていった。


「良かったの? モモとシタかったよね?」

「それもあるけど騙してスルのも良くは思わない」


 ノワールが俺に抱き着いた。

 そして耳元で囁く。


「大丈夫だよ、大丈夫」


 またスレイアと抱き合った。




 次の日、俺はギルドで一番いい宿部屋を予約した。

 今日は休みにした。

 朝食が終わるとモモは散髪に出かけてスレイアは本を借りてギルドで読んでいる。


 ストラクタさんが無言で同じテーブルに座った。


「ノワール」

「どう、しました?」


「モモを、頼むぞ」


 視界に入った受付嬢も俺を見ている。

 夜の事を知っているんだ。


 俺はいつもなら絶対に取らない一番いい宿を取った。

 そしてモモは散髪に行った。

 しかも俺達のパーティーが珍しく丸一日休みだ。


 ストラクタさんや受付嬢ならそれは、気づくよなあ。

 しかもストラクタさんは大人だ。

 ストラクタさんの『モモを、頼むぞ』の中にたくさんの言いたい事が詰まっている。


「モモが受け入れてくれれば、はい」

「それなら問題無い。モモの態度を見れば誰でも分かる」


 ストラクタさんが笑顔を浮かべて立ち上がり去って行った。

 捕まえた盗賊の取り調べで芋づる式に盗賊の場所が分かりストラクタさんは1日にたった8人のチームで30人以上の盗賊を捕まえた。

 次の日以降も盗賊を捕まえると盗賊が減った。


 そうなると街の人間が盗賊の情報を持ってくるようになり多くの盗賊を捕まえた。

 そうなると街の人間は次にゴロツキが気になるようになりギルドにゴロツキの情報も入るようになった。

 街で嫌がらせをする人間をストラクタさんがギルドの訓練場に連れていき訓練をさせた事でゴロツキがおとなしくなった。


 兄がいなくなり治安が良くなると街の目は少ない悪者に向かう。

 それを捕まえるストラクタさんの好循環が出来たのだ。


 街が平和になると冒険者ギルドの目は生産者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドは自警団や門兵の管理も行う治安維持の側面もある。

 生産者ギルドより冒険者ギルドの方が立場は強い。


 冒険者ギルドは生産者ギルドに注意をして生産者ギルドに対して肉の販売をかなり絞った。

 その事で工房に肉が流れ生産者ギルドの圧力効果は消えた。


 ギルドに工房の錬金術師が入って来た。


「ノワール君、今日は休みだと聞いた」


 噂がすぐに広まる。


「そうですね」

「昼に食事会を開きたい、ぜひ、来て欲しい」

「他の人も連れて行っていいですか?」


「もちろんだ」

「分かりました、昼前に工房でいいですか?」

「ああ、待っている」


 昼近くになってもモモが帰ってこない。

 俺はスレイアと一緒に工房に向かった。


 工房に入ると従業員の男が笑顔で出迎えた。


「待ってたぞ、入って」


 食堂に皆で集まり食事を囲んだ。

 鉄板の上に乗せられた工房で作る燻製肉が『じゅううう!』とおいしそうな音を鳴らす。

  燻製と焼いた肉の香ばしい香りが部屋に広がる。

 一緒にソテーした工房で作ったきのこが添えられて肉ときのこのてりが食欲をそそりよだれが出てくる。


 この工房ではきのこ、燻製肉からハウス栽培のように作った野菜、更にはポーションまで作れる物なら何でも作っている。


「工房産の食品を使ったフルコースだ! みんなで楽しんで欲しい」


 みんなが美味しそうに食事を食べる。

 前聞いた事がある。

 良い会社は社員がその会社の商品を買うような会社だ。


 まっとうに作った食材をみんなが安心して美味しく食べている。

 それだけでこの工房の良さが分かる。


 気さくな男が俺に話しかけてくる。


「俺貧乏だったんだけど、工房長が俺を拾ってくれたんだ。だから俺は工房長に一生ついていくって決めてるんだ。ノワール、工房長が困った時に、助けてくれてありがとな」


 反射的に『いえいえ、そんな事は無いです』と言おうとして言葉を変えた。


「役に立ててうれしいです」


 欲しいのは謙遜じゃない。

 みんなは俺に喜んで欲しいんだ。

 その後も皆が苦しかった過去を語る。


 みんな工房長が職を確保して街のみんなを救っている事が分かった。

 俺は何度もありがとうの言葉を貰って、『役に立ってよかった』『効果が見えるとやる気が出ます』と同じような意味の言葉を返した。


 江部長がステーキを口に入れたまま左手で口を押えた。

 そして呼吸を細かくするように泣き出した。


「ふ! ふう、やっと、ここまで、来た」


 工房長の顔を見て分かった。

 工房長は儲けを出したくて工房を広げたんじゃない。

 みんなを助けたくて工房を広げたんだ。

 その為に利益を出す必要があったし前のめりになって素材を確保するために動いたんだ。


 工房長はこの後何人の人を助けるんだろう?

 工房長はその気になれば自分だけが成功して幸せになる事は出来た。

 1人でポーションを作るだけで生活を出来た。


 前世に工房長のような会社の上司がいればどんなに良かっただろう?

 俺がやって来た事には意味があった。

 

 最初は評判を上げるための自分の為の行いだった。

 でも、人の助けになって喜んでもらえるのが心地いい。

 動けば動くほど感謝されるこの街が俺は好きだ。


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