第36話
次の日、3人で朝食を摂ると錬金術師の男がギルドに来た。
目の下にクマがあり体調が悪そうだ。
男は俺の前に歩いてくる。
「ノワール君、これを受け取って欲しい」
「これは?」
「HP成長ポーションだ、昨日の素材から作った」
「……昨日、寝ました?」
「いや、どうしても早く渡したかった。寝ないで作った」
「そ、そうですか、ありがたくいただきます。でも無理はしないでくださいね」
「ああ、では、仕事がある」
「無理はしないでくださいね!」
錬金術師の男が去って行った。
無理をするんだろうな。
「モモ、飲んで欲しい」
「ノワールじゃなくて私ですか?」
「うん、飲んで欲しい」
「で、でもこれは……」
「命令したくない、飲んで欲しい……うん、考えを聞いて欲しい」
「分かりました」
「まず、モモは俺より打たれ弱い。で、スレイアは遠距離で戦う、今パーティーで一番危ないのはモモだ。だから飲んで欲しい」
「でも、ノワールが飲んでください」
「モモ、もしモモが死んだら俺が嫌なんだ。飲んで欲しい、飲まないのなら命令する。俺に命令させないで欲しい」
「……」
「モモ、命令させないでくれ」
「私の為に、そこまでしてくれるんですね」
コモが涙を流す。
そしてHP成長ポーションを両手で大事そうに持って飲んだ。
モモの体が光った。
モモの背が伸び、体が女性的な曲線に変わっていく。
このタイミングで進化するのか!
きれいになったモモが泣きながら俺に抱き着いた。
「死が2人を分かつまで、ノワールにに尽くします」
「モモ、泣かないで、堅苦しく考えなくていいんだ」
「絶対に役に立ちます! これから役に立ちます!」
いつの間にか周りから拍手が聞こえた。
「ノワール、やるじゃねえか!」
「自分に成長アイテムを使わず奴隷にあげるのを見て思ったね。ノワールは人格者だ!」
「ノワール、お前最高にかっこいいよ!」
「食事をお願いします! とりあえず10人前お願いします!」
モモは進化した。
モモは進化した事でお腹がすくだろう。
「ノワールのやつ、せっかく色々貰ってもどんどん失ってねえか?」
「やめろ! またモモが泣くだろ!」
「でもよう、せっかく金を稼いでも錬金術師の工房に肉を配って、しかも報酬を受け取っていないらしいじゃねえか。おばあちゃんのポーションは俺達に配ってクッキーはモモとギルド職員にあげた」
「そうだな、ノワールは皆を助けている。でもノワールの事は誰が助けるんだ? 誰も助けてねえだろ?」
「ほらあ、またモモが泣いちゃった」
俺はその後何度もお返しをしする為森について来ようとするするモモを数日休ませた。
【盗賊視点】
俺達盗賊のトップが薄暗い部屋に集まる。
9人のトップが揃うと話を始めた。
「呼んだ経緯からもう一度話すぞ」
こいつらの中には頭が良くない奴もいる。
ただでさえ我が強くて癖の強い連中が集まっている。
何の為に皆を呼んだかはきっちりしておく必要がある。
「この街の外にある盗賊屋敷が燃やされ壊滅した。あそこはこの街で一番盗賊の頭数は多かった。でだ、それをきっかけに今冒険者ギルドは俺達の仲間を少しずつ捕まえている。このままじゃじわじわと俺達盗賊の力を奪われちまう」
「で、どうするんだ? 何をするかを言えよ」
「そのために呼んだんだろ? 早く何をするか言え」
「お前くどいんだよ」
周りが騒ぎ出した。
こいつらは話の腰をすぐに折る。
自分では案を出さずに文句ばかり言う。
お前ら結論だけ言っても考えを分からないだろう。
こいつらは自分がバカな事に気づいていない。
俺は言い返しそうになって堪えた。
「おい! 黙ってないで答えを言えよ!」
本当にイラつく。
人が話をしようとしている所で話の腰を折って怒り出す。
だから盗賊は仲が悪くてお互いのグループで好き勝手動いて冒険者ギルドに少しずつ戦力を奪われるように捕まっていく。
「待て、今から言う。俺達全員で一気に冒険者ギルドを襲撃する。このままギルドの好き勝手にされてしまえば俺達は捕まる」
「は! お前の所はそうだろうな! 俺は問題無い、手下が多少捕まる事はあっても俺は冒険者を返り討ちに出来る」
「お前らは雑魚だからな、お前らは全員捕まるだろうな」
「待て待て、ただ攻めるだけか? 誰かがおとりになるとか、やり方は色々あるだろう?」
「そうだな、夜に襲撃する。陽動はせずに寝静まった夜、一気に襲撃する」
「待て、お前が言い出したんならお前がおとりになれよ」
「夜襲は静まった夜にやるものだ。騒いでどうする?」
「分け前はどうするんだ? 大きくなったモモは俺が飼いたい。げへへ、たっぷり可愛がってやるぜ」
その後盗賊が言い争いを始める。
そして喧嘩が始まり話がまとまるまで3日間かかった。
話をしてみて分かった。
こいつらはもうダメだ。
嫌な仕事は押し付け合い、手柄は出来るだけ自分の物。
まだ街の外に拠点を構えた盗賊団が無事なら良かった。
だがもうこいつらは詰んでいる。
ギルドの奇襲が成功しても手柄を争い合って潰し合うだろう。
俺の盗賊団はこの街を出る事にした。
この日、地下牢を襲撃するイベントキャラが街を去った。
ノワールの盗賊拠点襲撃で歴史が変わったのだ。
【ノワール視点】
朝宿屋から1階に降りるとガラの悪い6人組がギルドに入って来た。
「へっへっへ、俺達冒険者になるぜ!」
「はい、かしこまりました。注意事項の説明と書類の記入があります。有料で代筆も承っております」
「注意事項? いらねえよ。バカにすんな」
「い、いえ、最初に話をする決まりです」
「まあ待て、話を聞いておこうぜ」
「ち!」
受付嬢が説明を始めるが聞いている様子はない。
「以上が注意事項の説明でした。次に書類の記入は自分で書きますか? それとも有料で代筆する事も出来ます」
「いくらかかる?」
「1人銀貨1枚です」
「代筆で頼む」
「かしこまりました。では名前をお願いします」
受付嬢が名前を聞いていく。
「えーと、名前はゴートだ」
「俺は……ガーガルだ」
あやしい。
あいつら、明らかに怪しい。
冒険者になるのにやる気があまり無いように見える。
依頼を勧められても受ける様子が無い。
依頼を受けずにギルドの宿に泊まる事にこだわりのような物を感じる。
新しく冒険者になった6人がギルド内にある宿に入っていく。
ストラクタさんが俺の前に歩いてきた。
「ノワール、少し、いや、午前中は手伝って欲しい」
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