第35話

「奥まで行こうか」

「うん、奥に大きなウリボーがいる気がするよ」


 3人でメインクエを進める為に動く。

 ボスを1体倒すだけで大量の肉が手に入る。

 俺達はモンスターを倒しつつ普段行かない奥に進んだ。


「こっちな気がするな」

「ノワールについて行こう」

「分かりました」


 モモは俺の動きに何か違和感を感じているようだ。

 俺とスレイアはボスへの道を知っている。

 もちろんゲームと同じ展開になるとは限らない。

 ゲームでは奥に進むと100体のウリボーを倒す雑魚ラッシュが始まる。

 その後ボスウリボーを倒しギルドに帰ればメインクエ達成だ。


「来たよ! 100体のウリボーが来る!」

「おう、余裕だな」

「え? 危険です」


「私にやらせて! 訓練の成果を見せるよ!」

「頼んだ、モモ、下がれ!」

「は、はい!」


「「ブヒイイイイイイ!」」


 前に出たスレイアにウリボーの集団が突撃を仕掛けた。


「アイスフラワー!」


 スレイアを中心に花のように氷のランスが発生してウリボーをくし刺しにした。

 多くのウリボーが倒れる。


「アイスランス! アイスランス!」


 スレイアが残ったウリボーに氷のランスを突き刺して100のウリボーをすべて全滅させた。


「す、凄いです」

「回収するね」


 スレイアがウリボーを回収する。

 俺は周囲を警戒した。


「ど、どうしたんですか?」

「いや、これだけウリボーがいたんだ。ウリボーを生み出すボスがいてもおかしくないと思った」


 ゲームだとボスウリボーが1体現れるはずだ。


「な、何かが来ます」

「やはりボスか!」


 木の枝をベキバキとへし折りながらボスウリボーが走って来る。

 ドスン!


「ブヒイイイイイイイイイイイイ!」


「ボスウリボー、やはりいたか」

「ま、まだ来ます!」

「……ん?」


 ドドドドドドドドドドド!


 ドスン!

 ドスン! ドスン! ドスン!


「そ、そんな! ボスウリボーが5体! 現れました」

「「ブヒイイイイイイイイイイイイ!」」


 5体いる内の1体はレア個体だ。

 レア個体からはレアな素材が手に入る。

 5体のボスウリボーが突撃のモーションに入った。


「モモ、今から使う力は皆には内緒だ」

「わ、分かりました!」


「サーバント13体! ボスウリボーを倒せ!」


 13体のサーバントが弓矢を構えて1体のボスウリボーに集中攻撃をすると1体が倒れた。


 ドスン!


 残ったボスウリボーが突撃して来る。


 俺は闇魔法で槍を作った。

 サーバントも弓矢を槍に変えた。

 そして突撃にカウンターの槍を繰り出す。


 突撃してくるボスウリボーが鼻に槍を受けてすべて倒れた。


「ボス5体を、一瞬で!」


 ボスをストレージに収納した。


「ふう、お昼休憩にしようか、サーバント! 周囲のモンスターを倒してきてくれ!」


 13体のサーバントが全方向に散開していった。

 俺達は休憩を挟みつつ朝から日が暮れるまで森で過ごした。


 錬金術師に素材を渡す為工房に行くと錬金術師の男が生産者ギルドの男4人に囲まれて色々と言われていた。


「何とか肉をかき集めたようだが、いつまで持つかな?」

「従業員の生活を守る為に生産者ギルドに入ったらどうだ? そうすれば肉を卸してやれる。協力も出来る」

「もう諦めろ、個人の経営には無理がある。工房を潰してから我らに吸収されるよりも今生産者ギルドの傘下に入った方がいいだろう」

「もう諦めろ」


「いや、もっと頑張ってみたいのだ」

「ふん、頑固だな」

「だが、肉な無くなればせっかく作った燻製室も宝の持ち腐れだ」


 錬金術師の男は毅然とした態度で接する。

 そして工房からは従業員が心配そうに何度も顔を覗かせる。

 生産者ギルドか、やはり厄介だな。


 直接殺しに来る盗賊なら返り討ちにすればいい。

 でも生産者ギルドは人を殺すまでの悪さはしてこない。

 なんだろう、日本によくある利権団体のような陰湿さを感じる。


 でも、肉のストックはたくさんあるんだよなあ。

 俺が朝大量に肉を配ったんだよなあ。

 でもそれを言うと違う嫌がらせが始まるかもしれない。


 こっちの手を見せない錬金術師のやり方は正解だと思う。

 気づいた時には工房が利益を上げていて付加価値の高い燻製肉が街に出回る。

 そしてギルドは生産者ギルドへの肉卸を制限しだした。

 生産者ギルドはやり過ぎた。

 それだけこの工房が脅威なのだろう。


 生産者ギルドは肉を売る方向に追い詰められるだろう。

 肉は売らないと利益が出ない。

 いずれストレージにストックした肉を放出するように追い込まれるだろう。

 俺は前に出た。


「こんばんわ。生産者ギルドの皆さん、もしかしてこの工房を乗っ取る為に肉の流通を制限してます?」


 俺はストレートに言った。


「な、何を言っているのだ? 訳が分からん」


 生産者ギルドの男が焦りだした。


「でも、冒険者ギルドで噂になってますよ。生産者ギルドが肉を貯めているって」

「そ、そんな事は無い。我らは街に貢献するために真面目に働いている」

「そうですか、勘違いでしたか」


 生産者ギルドの男たちは焦って去って行った。


「助かった」

「いえ、今この街は盗賊を倒す事に力を入れています。冒険者ギルドの方で盗賊に対処する余裕は無いでしょう。でも、やる気が出てきました。モンスターを納品しますが、毎日来た方がいいですか?」


「いや、週に1回でも十分だ。今ストックは十分にある」

「そうですか、今日納品してから一週間ごとに来ます、時間はいつがいいですか?」

「合わせよう。本当に助かる」


 錬金術師の男が俺に頭を下げた。


 俺はレアボスを含めたモンスターを納品してギルドに帰った。


 ギルドに帰ると冒険者の男が俺の肩を叩いた。


「聞いたぜ、生産者ギルドが工房を乗っ取ろうとしているらしいじゃねえか」

「気づいて、いたんですね」


 俺が噂を流す前に噂が広まっていたようだ。


「で、工房に肉を流すためにノワールのパーティーは朝から晩まで森に行っていた。いつものノワールたちなら午前は訓練、午後は森に行く、だが今日は丸一日森に行っていた。ノワールがやろうとしている事を当ててやる。工房の味方になってモンスターを渡していたんだろ?」

「さすがです。すべてお見通しでしたか」


 冒険者の男は得意げな顔で皆に大きな声で言った。


「ほら見ろ! 俺の考えた通りだろ!」


 他の冒険者が話を始める。


「そうか、今この冒険者ギルドは盗賊を捕まえる事に躍起になっている。その隙に生産者ギルドがずるい事をしているか」

「ノワール! 頑張ってね!」


「そう言えば、森でノワールのサーバントを見た」

「俺も見たぜ!」

「私も見たわ」


 今日からサーバントを24時間森に放っている。

 サーバントが倒したモンスターは自動でストレージに収納されて俺のストレージから取り出せるようになっている。

 

 本気で森にいるモンスターを倒せば大量の肉を効率的に手に入れる事が出来るだろう。

 何ならサーバントだけでモンスターが枯れ始めるだろう。


 3人で食事を注文すると受付嬢がテーブルに来た。


「ノワールさん、おばあちゃんからポーションのプレゼントです。それとクッキーです」

「ありがとうございます。モモ、食べるか?」

「はい!」


「受付嬢さん、職員のみんなも食べてください、おばあちゃんのクッキーは美味しいので」

「いいんですか?」

「はい、いつもお世話になっていますから」

「ありがたくいただきますね」


 サブクエをこなしていたおかげか、定期的にアイテムやお金が入って来る。

 冒険者が羨ましそうに俺を見た。


「ポーションか、今高いんだよなあ」

「私も欲しいなあ」

「ノワールはおばあちゃんに薬草をプレゼントしているわ。だから戻ってくるのよ」


「今もポーションが売り切れているからな」

「生産者ギルドが価格を釣り上げてやがるな」

「ああ、こっちは盗賊を対峙して生傷が絶えない、向こうはポーションを買うしかない事を知ってるんだよ」

「生産者ギルド、むかつくわ」


 俺はポーションの入った木箱を持って立ち上がった。


「あの、良ければプレゼントします」

「いいの!」

「なんでくれるんだ?」


「皆は街を守る冒険者です。ポーション1つで命が助かるかもしれないなら、安いです」


 みんながジョッキを掲げて立ち上がる。

 そして歓声が上がった。


「さすがノワール! 気前がいいねえ!」

「ありがたくもわうわ、でもいつか借りは返すわ」

「ノワール、盗賊の討伐は任せときな!」


「期待しています」


 みんなには頑張って欲しい。

 盗賊が街からいなくなれば次に悪者になるのは生産者ギルドだ。

 今生産者ギルドが本気で叩かれていないのはそれよりも悪い盗賊がいるからだ。


 街が平和になれば俺にとっても助かる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る