第34話

 下水のスライムを間引いたらスレイアの両親が喜んだ。

 やはりやって良かった。


 だが気になる事もある。

 最近サーバントで訓練をしても成長しない、試しに俺自身が訓練をしても成長出来ない。

 仕方がないので斧や槍の訓練、そして状態異常魔法を訓練した。

 だが次に使えるようになるスキルが無かった。

 闇系魔装の本を読んでもピンとくるものは何も発見できなかった。


 俺の能力はもう伸びない。

 サーバントの訓練はもう意味がない、となればサブクエをまた再開するか。

 スレイアとモモの3人でギルドの掲示板に向かうと錬金術師の男がギルド職員と揉めていた。


「ウリボーの肉を取ってこれないか!」


 この男はゲームでたくさんのサブクエを出す男だ。

 原木キノコ培養のクエを3回。

 次は菌床キノコ培養のクエを3回。

 その次は新しい工房を作るためのサブクエを3回。

 その次も納品ラッシュが次々と発生する。

 この男は稼いだ金をすべて次の投資につぎ込むような経営をしている。


「それが、最近森で死傷者が出まして、というか今ノワールさんのパーティーがたくさん市場にウリボーのお肉を流していますよね? お肉はたくさん手に入るはずです」


 俺達が森でモンスターを狩った。

 その結果冒険者は森の奥に行かないとモンスターを狩れなくなり、帰り道の危険度が増す結果になっている。

 モンスターの数は減っているけど運が悪ければ連戦で命を落とす危険が上がっている。


「その認識は違う。ギルドから肉は流れた。だが生産者ギルドが肉を買い占めてそこから肉が市場に流れていない。このままでは工房破綻の危機だ」


 生産者ギルドは街の生産職で構成されたグループでゲームにも出てくる。

 暴力を使った悪い事はしてこない。

 だが今のように肉を買い占めたり、ポーションの価格を釣り上げたりとアイテムを高く売る為にうまく立ち回るような悪さをしてくる。


 ストレージに入れた肉は腐らない。

 だから生産者ギルドは目を付けられない程度の悪事を仕掛けてくる。

 そして今は盗賊が人を殺したりしている。

 ギルドは人命を優先する為ギルドの目は盗賊に向けられている。

 治安の悪さのおかげで生産者ギルドはそこまで目を付けられていない。


 生産者ギルドは個人で利益を上げるライバルを狙い撃ちにしたり、冒険者に多くのお金を払わせたりと陰湿な事をやって来る。

 今回は急速に力を付け事業拡大を進めるこの男が脅威と認識されたんだろう。

 生産者ギルドはこの男を破産させて建物を丸々乗っ取りたい、そんなところだろう。

 これってまさか。


「メインクエ、だね」

「俺もそう思う」


「メインクエ? ですか?」

「あー、んと、錬金術師さんがとても困っているねと、そう言いたかった」

「そういうことですか」


 しかも、ゲームより状況が酷そうだ。

 主人公が死んで俺も一向にメインクエを進めなかった為今回の事態を招いたか。


 メインクエを進めず訓練を優先した、でもその結果がこれだ。

 メインクエを進めない悪影響が出ているようだ。


「あの、話をいいですか?」

「おお、君はノワール君!」


「ダメですよ、あなたはもう貧乏じゃないんですから。今奉仕依頼を受けるのはよくありません」


 受付嬢は冒険者が搾取されないように釘を刺す。

 貧乏で無いものが奉仕依頼を受けて荒稼ぎをする事をギルドは止めようとするのだ。


「分かっている、搾取はしない。適正価格で買い取ろう」

「少し、あなたの家で話をしましょう」

「分かった」


 男の家に行くと木のいい匂いがした。

 新しく建てた工房で従業員が俺達3人に笑顔で挨拶する。


「出来れば、人がいない所で話をしたいです」

「分かった。倉庫でもいいか?」

「ええ、人がいなければどこでも」


 俺は男に案内されて倉庫に入った。


「実は、内密で話をしたいです。ウリボーの肉はあります」


 俺は自分の強さを隠している。

 もし倒したモンスターをギルドに全部出せば俺の強さがバレてしまう。

 そしてこの男は悪役の生産者ギルドに脅威と思われるほど急速に力を付けている。


 もしこの男が生産者ギルドに取り込まれればまずい。

 生産者ギルドにライバルがいなくなれば生産者ギルドはアイテムなどの価格を釣り上げてくるだろう。

 この男は価格を釣り上げる売り方をしない為生産者ギルドへのカウンターになる。

 


「本当か! 適正価格で買い取ろう!」

「まだ続きがあります。ポイズンサーペントの肉も、サーベルベアの肉もあります。正確には倒した後の解体前のものではあります」


「全部買い取りたい」

「で、ですね。出来れば、内密に素材を引き取って欲しいです。そして魔石は全部こっちに下さい」

「それは良いが、ギルドに内密で取引をすればもし私がごまかしをした場合ノワール君が困らないか?」


 問題無い。

 この男は勢いはあるが嘘はつかない。

 ゲームで知っている。


 そして、この男は稼いだ分をすべて事業拡大にあてたいと思っている。

 満足いくまで事業を拡張させた後に報酬を払いたい。

 そういう男だ。

 なので更に条件を出す。


「あなたを信頼します。条件は内密でモンスターを買い取る事、もう1つは、事業が軌道に乗るまで魔石以外の報酬は出さないでください」

「ん? 意味が分からない。ノワール君にメリットが無い」


「あります。後で報酬を貰う事で報酬に色を付けて欲しいです。それが1点、2つ目は生産者ギルドに対抗できるのはあなただと思ったからです。もし生産者ギルドが力をつけてこの街の生産を支配すれば、冒険者は高いポーションを買わされ、ここに住む人は高い食品や素材を買わされる事になります。あなたのように適正価格で売ってくれる人に勝って欲しいんです」


「そ、そこまで裏を見抜いていたのか! 私が生産者ギルドに裏で圧力をかけられていることまで見抜いている! 君はどこまで先が見えているのだ!?」

「そこまでは、分かりませんでいた。で、受け入れてくれますか?」


「もちろんだ。経営の安定に貢献してくれる君には、経営が落ち着き次第、毎月配当を出し、ポーションも渡そう」

「まだ何もしていません」


「いや、今までの働きを見ていた。ノワール君はやると言えば早く奉仕依頼が終わった」

「重ねて言いますが、僕は実力を隠しています。皆にバレないようにお願いします」

「分かった」


「では、最初にウリボーを出します」

「ま、待ってくれ、シートを持って来る」


 床にシートが敷かれるとその上に山のようなウリボーを出した。


「ストレージに入れて欲しいです」

「こ、こんなに大量の素材を!」


 男がストレージにモンスターを収納した。


「2セット目行きます」

「は!?」


 更に2セット目のウリボーを出した。

 素材を回収すると次の用意をする。


「3セット目行きます」

「ま、待ってくれ! ウリボーだけで後何回出せる!?」

「全部で各10セットは行けます。そして薬草も納品します。後はきのこ培養の素材の木、それと木をチップにして固める為のスライム素材も出します」


「こ、これだけの量を市場に流せば流石にどこから手に入れたか疑われるだろう」

「……では、ある程度は僕達が納品した事にしましょう。他の冒険者にも声をかけて買ってください。でもたくさん出したことは絶対に言わないでください」

「わ、分かった」


 俺はストレージから素材を出した。


「追加で森に行って素材を取ってきます」

「も、もっと出せるのか! これなら生産者ギルドの圧力にも負けず商売が出来る! ありがとう」


 そしてパーティーで森に向かった。


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