第33話
俺は夢を見ていた。
前世の俺は父さんと母さん、おじいちゃんとおばあちゃんに可愛がって貰った。
お金持ちではないけど分からないことは何でも調べてくれたし、休日は仕事で疲れていても皆が俺に構ってくれた。
今思えばみんな疲れて休みたかっただろう。
木に止まったセミを見ているとおじいちゃんが俺を高い高いをしてセミを近くで見せてくれた。
その後おじいちゃんは筋肉痛になった。
目が覚めるとスレイアが隣で寝息を立てる。
俺は子供の頃は活発に動き回っていた。
でも、会社に入ってからはどんどん生きる気力が無くなって行った。
会社とアパートの往復をする生活をしていた。
振り返ると会社には人間性に問題がある人が残っていた。
家族も、友達も、すぐに辞めてしまった会社の後輩も悪い人間ではなかった。
「ノワール、おはよう」
「うん、おはよう」
この世界で俺は人に恵まれている。
治安の意味でこの世界は日本より危険ではある。
でも、少なくとも周りにいる人間はまともだ。
冒険者で厄介な人間と関わる必要もない。
スレイアもモモも人格的にはかなりまともだ。
ストラクタさんは俺の誤解を解いくれるしギルドの職員は人柄がいい。
サブクエはゲームでは報酬があまりなかったが実際は助けてもらった人がポーションなどのアイテム、そしてお金を定期的に渡してくれる。
みんな生活が安定すると恩を返そうとするのだ。
サブクエをこなすほどそれが複利のように増えていく。
もちろん全員がお返しをしてくれるわけではない。
だがギルドの方で義理堅さは見ている。
結果人格的に問題がある人は奉仕依頼を出しても次からギルドの方で依頼を断る仕組みになっている。
もし儲けたい人が困ったふりをして奉仕依頼を出せばズルをして荒稼ぎが出来る。
そうなれば冒険者のやる気も無くなるためギルドはしっかり記録を取っているようだ。
俺スレイアがギルドの部屋から出るとモモが出てきた。
「おはようございます」
「「おはよう」」
3人でカウンター前の食堂に行き食事を摂る。
「今日はお父さんとお母さんに会いに行ってもいいかな?」
「いいぞ、行くとしたら夕方か?」
「う~ん、午前中でもいい?」
「いいぞ、俺も行っていいか?」
「うん」
「私も行きたいです」
「そうだな、行こう」
スレイアの家に入ると母が出迎えるが元気がない。
「どうしたの?」
「実はね、お父さんがやっている下水管理の仕事がうまく行かなくて。スライムがたくさん出るのよ」
スライムは下水浄化の為に意図的に地下に放たれてはいる。
スライムは街の大人でも倒せる。
だが数が多いと危険だ。
となれば冒険者に依頼を出す形になる。
だがそうなれば大きな出費だ。
モモが手を挙げた。
「スライムなら私1人で行って倒してくる事も出来ます」
「うん、モモなら出来るけど、ちょっと、下水の入り口に行ってみないか?」
「いいの?」
「うん、スレイアの両親には世話になった。倒そう、とその前に地下からサーバントを回収する」
「ノワール君、本当にありがとう」
サーバントを回収して下水の入り口に向かうとスレイアの父とその部下4人がいた。
何やら話をしている。
「スライムが増え過ぎだ、冒険者に依頼を発注するしかない」
「だが、冒険者への依頼は高い、奉仕依頼は貧乏じゃないと受けられない。スライムを倒すには金がかかる」
話を聞いていたスレイアの父が言った。
「仕方がない、みんなの安全には変えられない、命よりも大切なものは無いんだ。お金がかかっても冒険者に依頼を出す」
「おはようございます」
「おお、スレイアにノワール君、それに、確か、モモだったかな?」
「はい、おはようございます」
「無料でスライムを倒しに来ました」
「うーむ、しかし下水は汚い。私は馴れているが無料でやって貰うのは悪い」
「いや、やってくれると言っているんだ、ありがたく頼もう」
「そうですよ、ありがたく受けましょう、それに冒険者に依頼を出してもいつ受けてくれるか分からない、今すぐに受けて貰った方がいい」
スライムが下水をきれいにしてはいる。
でもスライムは汚物がある所にやって来る為結果スライムは汚い所にいる場合が多い。
「そ、それはそうだが」
「僕はスレイアに世話になっています。それにスレイアとその家族みんなに僕は世話になりました。お礼をさせてください! ただでやらせてください!」
「分かった。後でお礼はさせてもらう」
「いえ、大丈夫です。サーバント、行け!」
4体だけサーバントを出して地下に放った。
「おお、サーバントか」
「はい、これならみんな汚れずに済みます」
モモの顔が暗くなった。
猫耳がフニャンと垂れている。
みんなの助けになりたかったんだろうな。
「モモ、せっかく汚れてでも助けようとしてくれたのにごめんな。下水はサーバントに任せる」
「……はい」
「午前中は訓練や勉強になっているけど、今日は今から森に行かないか?」
「行きます」
「そう言えば錬金術師のおばあちゃんが薬草が欲しいと言っていたな。薬草をたくさん持って行けばポーションを交換してくれる」
「薬草は匂いで分かります!」
モモの猫耳がシャキンと立った。
「そっか、合間合間で薬草を摘んで欲しい」
「はい!」
周りのみんながほんわかとした表情で俺とモモを見る。
「森に行ってきます」
「うん、気をつけてね」
5人が笑顔で手を振る。
みんな、温かいな。
今の俺は皆からよく思われているわけではない。
でも、温かくしてくれる人が増えている。
そして義理堅い人が多い。
よくしてくれる人が回りにいる。
それが凄くありがたい。
前世の家族を思いだす。
俺はサブクエを終わらせた気になっていた。
でも、もっと助けてもいいんじゃないか?
もう少し、みんなの為に動こうと思える今が心地いい。
【ノワールの父視点】
部屋の奥、窓の無い薄暗い部屋にワシは立つ。
ワシの横には屈強な2人の手下が立つ。
その前には暗殺者ギルドの3人が立ち向かい合う。
「なあ、契約した以上金を払ってくれねえか?」
「ワシは、前回来た時に金を払っている」
「その時にまだ足りないと言った。なあ、アレクはきっちり始末してあるんだ。息子の契約とはいえ契約を破りましたじゃ済まされない。それになあ、こっちは早い所金を貰って王都に帰りたいんだ。俺達はここにただいるだけで時間と金の無駄だ。分かるだろう?」
「息子が悪いのだ! 兄のラインは無様に正体を晒して死んだ! 弟のノワールは家族でありながらワシの為に動こうとせん!」
「そういうのはそっちの問題だ。それに弟は追放したんだろ? じゃあ自分で払う、それだけだろう?」
「い、今金がないのだ!」
「その指輪、首のネックレス、宝石を付けた服、全部金になる」
「こ、これは貴族としての最低限の身なりがある!」
「なんだ? 命より見栄が大事か? 暗殺者ギルドとの契約を破った場合、どうなるか分かるだろう?」
ワシはだらだらと汗を掻いた。
暗殺者ギルドは契約を破った相手をけして許さない。
金を払わなければワシを殺す、そう言いたいんだろう。
「つ、次払う」
「約束だな?」
「あ、ああ、ワシは嘘をつかん」
「ついてるんだけどなあ、これで3回目だぜ。まあいい、次、期待している」
暗殺者ギルドが帰るとワシは汗を流して椅子に座る。
喉を潤すためにワインを飲んだ。
「ワシはついていない。ワシは家族に、息子に恵まれない! 2人とも親不孝だ!」
2人の部下はワシを見て目を細めた。
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