第30話

 朝宿屋から出てカウンターに向かうとストラクタさんと俺の父が揉めていた。

 父の隣には2人の屈強な男が守りを固めている。


「ノワールを出せと言っている! ワシは貴族だぞ!」

「出来ません! 王の命令で強引にノワールと接触する事は止められているはずです」


「うるさい! 命令を聞かなければ貴様を殺す事も出来るんだぞ!」


 見慣れない男の冒険者が父の所に歩いて行く。

 その男は体が鍛えられていて体の軸が一切ぶれない。

 どこも見ていないようで視界に収まるすべてを見ているあの目、かなり優秀な冒険者だろう。


「私はこういう者だ」


 冒険者が首から銀色のプレートを取り出して見せる。


「銀等級! 貴様、まさか!」

「王家直属の騎士だ。ダークネス殿、王命により追放した息子に関わるなと命令が出ているはずだが、まさか忘れたのか?」


「わ、ワシは息子に一目会いに」

「追放しておいてか!? 王の命令を無視した挙句1度追放した息子に会いに行く、どういう理由か今ここで言って貰おう。もし納得できなければ王の名のもとにここにいる冒険者にお前を殺すよう命令する事すら出来る。そして私が直接手を下す事も出来る」


 男が魔装の剣を出現させて構えた。

 父がダラダラと汗を流す。

 貴族が正式に決めた決定を簡単に覆すのは上からよく思われない。


 特に家族の追放はかなり重要な決定だ。

 何度も家族の縁を切ったり戻したりする行為は一貫性の無い行動と取られ貴族としての能力を疑われる。

 追放しておいて追放した相手に会いに行く選択は貴族としてよい行いではない。

 

 更に父は王の命令を無視して動いている。

 王はあわよくばダークネス家を潰しておきたいんだろう。


 父が俺の顔を見た後ギルドの入り口に振り返り歩いて去って行った。


 騎士の男が魔装武器を消して俺を見た。


「見苦しい所を見せた」

「いえ、助かりました」

「ほう、所でノワール、今君の父が暗殺者ギルドに脅されてダークネス家は資金が枯渇しているらしい」


 騎士の男が俺の目を見ながら言った。

 俺がどう思っているか見極めたいんだろう。

 王家はダークネス家を潰したい、そう考えている。


 ダークネス家は暗殺者ギルドや盗賊と繋がりがあり、更に困った人に金を貸し付けて奴隷にする商売をしている。

 国を富ませず、自分の私腹を肥やす貴族には自然消滅に見せかけて潰れて欲しいのだろう。


「ダークネス家は早く潰れて欲しいですね」

「そうか、もっと詳しく聞きたい。君はダークネス家をどう思っている?」

「あまりいい思い出は無いです。兄には趣味で殴られて炎のスキルを使われ笑いながら追い回されました。父と母は不遇な闇属性の魔装を持つ僕をいない者のように扱わい追放しました。何かあると僕のせいにされて責任を押し付けられてきました。正直暗殺者ギルドとダークネス家で潰し合って貰ってどっちも潰れてくれれば今よりこの街は平和になるとさえ思っています」


「そうか、家族から恩は受けていないのか?」

「……お金を使えたのと、座学、勉強は受けられました。それ以外は何も」


「時間はかかるが悪い結果にはならないだろう。それと、奉仕依頼をこなす事で、ダークネス家が金を貸して返済できなくして奴隷化する悪行をしにくくはなるだろう。君には期待している」


 男が俺の肩を叩いてギルドを出ていった。


 ダークネス家とアサシンギルドが争っているか。

 都合がいい。


 だが、俺の行動は見られている。

 そこは注意が必要か。

 奉仕依頼を多めに消化した方がいいだろう。

 素材納品系のサブクエはあらかじめ用意しておけばすぐ終わる。


 だが、あまりにサブクエをやりすぎると負担が増える。

 かと言って騎士にはサブクエを消化した事を見せておきたい。

 ギルドは俺が無限にサブクエを受けると判断すればいくらでもサブクエを掲示板に張りつけるだろう。


 カウンターに立った。

 受付嬢が笑顔で挨拶をする。


「おはようございます」

「おはようございます。奉仕依頼ですが、これから100件分を達成するまで多めに消化します」

「100件までですね?」

「はい、100件まで頑張ってみます」

「分かりました」


 100件までは受ける。

 こうしておけば100件を達成してから奉仕依頼をやめても不自然にはならない。

 ダークネス家を苦しめる行動をしている事を見せる事にもなる。


 ダークネス家だけじゃない。

 暗殺者ギルドも盗賊もゴロツキも全部潰れて欲しい所だ。

 弱った所を襲われる街より平和がいい。

 



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