第28話

 翌日の朝、モモとストラクタさん、そして受付嬢が待っていて周りには冒険者がいた。


 俺は書類にサインして奴隷契約を結んだ。

 奴隷になればモモは俺に逆らえなくなる。

 俺とスレイアはその後どうするか決めていた。 

 ゲームストーリーと同じことをする。

 それだけだ。


「奴隷契約が終わりました。で、モモを奴隷から解放する!」


 冒険者が驚く。


「ば、ばかな! 大金貨130枚で奴隷を買って即解放するのか!」

「あ、ありえねえ! あり得ねえぜ!」

「ノワールはどれだけ良い事を続けるのよ!」


 モモは不安げに俺を見て言った。


「ど、どうしてですか?」

「ああ、まだ話には続きがある。奴隷を解放した上で、どうか俺とパーティーを組んでくれないだろうか!? 頼む!」


 これはストーリーと同じだ。

 ゲームでモモは泣いて受け入れ、そしてパーティーに入る。


 だが俺のパーティーには入らないかもしれない。

 俺はゲーム主人公ではない。

 でも、パーティーに入らなくても将来強くなるモモは敵にはならない。

 モモ、どっちでもいいんだ。

 好きな方を選んで欲しい。


 モモが号泣した。

 ……ん?

 ゲームの時より泣いてる。

 ここまで号泣しなかったのに。


「私はぁ、奴隷のままですう、一生ノワールについて、ついていきますうう!」

「え? あ、いや、あの」

「一生ノワールの奴隷ですう!」


 ストーリーと違う!


 ストラクタさんが立ち上がって拍手をする。


「ノワール! 素晴らしい! 感動した!」


 受付嬢さんも涙を浮かべながら立ち上がり拍手をする。


「私も、感動しました」


 冒険者も立ち上がって拍手をする。


「ノワール! よく言ったぜ!」

「モモがノワールを信頼している事がよく分かった! モモの主人はノワール以外にあり得ない! そうだろお! みんなあ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


「ちょ! みんな、冷静に、俺は奴隷を解放するって言っているのに解放はいらないっておかしいだろ!」


「ノワール、焦るなって、モモは絆が欲しいんだ」

「ええ、私も分かったわ、モモはノワールとの絆を無くしたくないのよ」

「ノワール、お前の生き様、まさに銅等級だぜえ!」

「そうだ! ノワールの心は銅等級だ! お前が鉄等級でも俺はノワールを尊敬する!」


「心は銅等級とか意味が分からない」

「今のノワールは、輝いてるぜえ」

「ちょ、話を!」


 俺の言葉をかき消すように歓声が鳴り響いた。 

 そしてモモは奴隷のまま俺のパーティーに入った。

 俺は今の空気を変える為にモモにステーキセットを食べさせたがそれでもまた歓声が起こる。

 午前の訓練を終えても皆が俺に話しかけてくるのでたまらずダンジョンに行くと言って街を出た。


 スレイアが俺を見て笑う。


「ふふふ、ふふふ」

「まだ笑うのか」

「だって、ノワールが必死なんだもん」


「はあ、ストーリーがただでさえ崩れているのに更に崩壊した。所でモモ、ダンジョンはどこがいい? 最初は草原にしておくか?」

「いえ、いつも森で戦っていました」


「そっかあ、森に行こう」


 3人で森に向かった。


 サーベルベアが出るとモモが突撃した。

 そして爪の振り下ろしとパンチで打ち合いモモが吹き飛ぶ。

 まるで鉄砲玉のような戦い方だ。


「ストップストップ! モモ! 前に出るな!」


 俺は闇の剣でサーベルベアを即倒した。


「で、でも、私は前衛だから前に出ないと」

「う、うん、モモは確かに近接戦闘なんだけど最初に俺が前に出るから」

「え! ご主人様が私よりも前に!?」


 話を聞いて分かった。

 アレクはモモに前に出させて自分は後ろから剣を投げていた、噂通りだ。

 そしてモモの魔装を魔石で十分に強化していない。

 もっと言うと俺の事をご主人様と呼んでノワールと呼び捨てにしている部分だけで教育を受けていないことが分かる。


 アレク、モモに何もしていないどころか苦手な役割を押し付けたな。

 モモの防御はそこまで高くはない。

 速度でモンスターを翻弄する回避と攻撃を織り交ぜる戦い方が合っている。


「モモ、あの木がモンスターだとする。で俺が最初に敵に攻撃を仕掛けるからモモは後からついて来て欲しい」

「はい、ご主人様」


「ご主人様はいいや、無理にやめろとは言わないけどさ」

「はい、ごしゅ、分かりました」


「俺が前に出て攻撃するでしょ? で、モモはこんな感じで後ろからステップを踏みながらモンスターの横から攻撃だ」


 俺はステップを踏んで木の横に回り込んでパンチを繰り出す。

 その後形を変えて同じことを何度も言った。

 モモはアレクのおかしい考え方が染みついている。

 何度も言って間違いを正す必要がある。


「モモ、気になる事があれば言って欲しい」

「はい、私が前に出ないとノワールがケガをした時に悪いと思いました」

「それでいい、モモより俺の方が防御が高い。とにかく、モモは俺の後ろからモンスターをフェイントとかステップをしつつ避けつつ攻撃だ」

「わ、分かりました」


 アレクと逆の事を言われて戸惑っているようだ。


「モモ、アレクに言われた事は忘れてくれ、俺達はパーティーだ。役割がある。一番前が防御の高い俺、次がモモ、で後ろがスレイアだ」

「は、はい」


「10回ほど、モンスターと戦ってみよう」


 俺は何度もモモに前に出過ぎないように言ってモモに癖をつけさせた。



「おし、大分良くなったな、でも、最後は傷を受けたか、はい、ポーション」

「え? ノワールが傷を受けた時に使うんですよね?」

「今、モモが、自分で、使って欲しい」


 俺はゆっくりとはっきりした口調で言った。


「このポーションを今私に使うんですか?」

「そうだ。モモ、血が出ているだろ?」

「でも、寝れば治ります」


「痛いし、血が出れば成長にも良くない、疲れも取れにくくなる。まずそのポーションを飲んで」

「で、でも」

「飲んで欲しい、命令はしたくない」

「は、はい。あ、あの、本当に私が今ここで飲んでいいんですか?」

「いいぞ」


 モモは俺とスレイアの顔を交互に見ながらポーションを飲んだ。

 ポーションを飲むだけでここまで不安がるか。

 この反応は、モモはアレクに殴られていた可能性もある。

 毎日怒られて虐待を受けている、そう思えた。


 俺が思った以上にモモがアレクといた時間が酷かったんだろう。

 俺は、見逃してきた。

 モモの歪んだ認識を変える必要がある。

 

 スレイアがモモの頭を撫でる。


「大丈夫だよ、モモ、傷を受けたらすぐにポーションを飲もうね。アレクと違ってノワールは優しいから。モモが傷を受けたままにしているのが嫌なんだよ。だから傷を受けたらポーションを飲もう、ね」


「う、うええええええええええええん!」


 モモが泣き出した。


「大丈夫だ、大丈夫だから」


 やる事がいっぱいある。

 今日から始めよう。

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