第27話

「僕がモモを奴隷として買う、ですか?」

「そうだ。もちろん無理強いは出来ないが、今買えるのはノワールとスレイアのパーティーだけだ」


 奴隷の権限はアレクが死んだ場合売買を仲介したギルドのモノになる。

 奴隷としての役割を終えない限りアレクが死んでもモモは奴隷のままだ。


 周りを見渡した。

 俺が奴隷を買う事に好意的なものもいる。

 でも冒険者の中には気に入らないような顔をしている人間もいる。


「あの、僕がモモを買う事をよく思わない人間がいるようです」

「言いたい事は分かる。だが俺の言い分を聞いて欲しい」

「分かりました」


 ストラクタさんは俺ではなくみんなに対して大きな声で言った。


「皆にも今の状況を聞いて欲しい! まずモモの食事や寝泊まりをする為の費用はノワールとスレイアが寄付の形で負担してもらっている! そしてモモは前のご主人から酷い目に合って来たようだ! その為食事は頑なに1人前を1日一食、それ以外口にしようとしない! だが、モモは1日3食でも足りないだろう!」


 モモは進化しようとしているのかもしれない。

 ゲームで進化前にたくさん食べている事があった。

 そしてノワールの記憶で獣人は進化前にたくさん食べる、そういう知識があった。


 アレクはさりげないあのシーンに気づいていなかったのかもしれない。

 だからあまり食べさせなかったのか。


 ストラクタさんは人の影口を言わない。

 でも今回はアレクの事を悪く言っている。

 そうしなければみんなが分からないと判断して仕方なく真実を言っている。

 状況は思ったより良くないんだろう。


「ノワールの事をよく思わない者もいるかもしれない! 確かに昔のノワールは荒れていた! だが今を見て欲しい!」

「そ、その前に、モモを連れて来て貰っていですか?」


 なんだろう、嫌な予感がする。

 ストラクタさんの言い方で嫌な予感が高まった。


「分かった」


 ストラクタさんがモモを連れてきた。

 俺とスレイア、ストラクタさんとモモが同じテーブルの椅子に座る。

 モモは飢餓まではいかないが頬がこけていた。

 ゲームでは可愛らしい顔が痩せすぎた事で顔つきが変わっている。


「とりあえず、ステーキセット13人前をお願いします!」


 俺が受付嬢に言うとみんなが俺達を見ていた。


「4人の前にステーキセットが並ぶ」

「ストラクタさん、スレイア、モモも食べよう」

「ああ、そうだな」


 モモは口を付けずに皆の顔を見て様子を伺う。


「うん、うまい、モモも食べてくれ」

「で、でも。ステーキは、高いです」

「モモが痩せていると俺が悪者になってしまう」


 ストラクタさんが笑った。

 俺がやりたい事を察したようだ。


「そうだ、ノワールはせっかくモモに寄付をした、だがモモが食べないとノワールが悪者になる」

「そ、そんな!」


「そうだね、モモが食べないとノワールがモモをいじめているみたいになるよ」

「モモは食事を食べないで俺を困らせたいのか?」

「ち、違います」


 モモがステーキを見てよだれを垂らす。


「モモが痩せていると俺はずっと悪者かあ、モモは俺の事が嫌いなのか」

「違います!」


 モモがステーキに口を付けた。


 1口食べると止まらなくなり、そこからは詰め込むように食事を胃袋に入れていく。


 次のステーキセットが運ばれてくるとモモの前に並ぶ。


「モモ、痩せすぎていると俺はずっとみんなから悪者扱いされてしまう。無理に食べろとは言わない、でも満足するまで食べて欲しい」

「ううう、うああああああああ!」


 モモが泣きながら食事を食べる。

 

「モモ、アレクから色々言われたかもしれない、だがノワールはモモに食べて欲しいと思っている」


 モモは泣きながら食事を食べる。

 そして10人前のステーキセットを完食した。


 受付嬢がモモを落ち着かせて部屋に戻した。

 食べて泣いて眠くなったようだ。

 やはりモモは進化しようとしている。

 ストラクタさんが立ち上がった。


「皆に聞きたい! ノワールはモモに寄付をした。気に入らない者もいるとは思う、だが気に入らないならモモに寄付をして欲しい! 自分では寄付をせずにノワールがモモの主人になる事は気にいらない、そうなれば話はおかしくなる! もしもだ! 借金をしてでもモモを引き取りたいと自分で行動を起こす覚悟のある者がいたら手を挙げてくれ!」


 誰も手を挙げない。

 モモは子供の姿だ。

 そしてたくさん食べる。

 

 もしモモを一緒に冒険に連れていきモモが死ねば冒険者が責められる事になりかねない。

 更にモモを買うには大金貨130枚(1300万)が必要だ。

 誰もそんな大金を払ってまでモモを助けようとは思わない。


「モモは言った! 奴隷になるならノワールとスレイアが良いと! モモがそう言った! もう一度聞く! 借金をしてでもモモを助けたいと名乗りを上げる冒険者は手を挙げて欲しい! 借金の返済が滞れば自分が奴隷に落ちる可能性もある、それでも助けたいと名乗りを上げる者はいるか!?」


 誰も手を挙げない。

 ストラクタさんはかなり柔らかい言い方で言った。 

 でもストラクタさんは暗にこう言っている。


 『気に入らないなら冒険者らしく行動で示せ!』


『自分が何もしないのに気に入らないとかふざけた事はいうなよ!』


『冒険者なら行動で示すか黙っているかどっちかに決めろ!』


 冒険者は口だけの人間をよく思わない。

 ストラクタさんの柔らかい言葉で十分に効果があるだろう。


「ノワール、もし冒険者に何か言われるようなら俺に言ってくれ! モモを買い取って欲しい」


 ストラクタさんは幾重にも冒険者に釘を刺して俺を守る事を示している。


「もしもモモが進化して美人になったとします。モモの体を自由にしたいと思えばモモが困るでしょう」


 ストラクタさんが笑いながら言った。


「本当にそう思っている人間はその事を隠す。都合の悪い問題にはなるべく触れないままモモを買い取るだろう。それにな、モモがもし進化して見た目が良くなったとする。そうなればモモは体目当てで買われる」


 進化して買われればさらに状況が悪くなる。

 実際に進化したモモはかなり美人になる。

 そうなれば体目当てで買われるだろう。


「ノワール、お前が買ってくれれば安心だ。人助けだと思って受けて欲しい。ノワールに金の負担は発生する、だがノワール、パーティーのメンバーを増やしたいと言っていたはずだ」


 確かにパーティーを増やしたい。

 そう思っていたし皆に言ってきた。

 俺にとって都合がよすぎる展開だ。


 俺はギルドから受け取っていない報酬がありその金でモモを買える。


「スレイア」

「いいよ」

「うん、買います」


 受付嬢が話しだす。


「モモは今たっぷり食べて寝ています」

「明日、明日来ます」

「分かりました、明日までに書類を用意しておきます」


 俺とスレイアは訓練に向かった。

 

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