第26話

「今、断ると言ったか? 銅等級への昇格を断わる、そう言ったか?」

「はい! 断ります」


 周りにいた冒険者も困惑する。


「まじかよ! 昇格を断るなんて聞いた事がねえぜ」

「集団の依頼で冒険者の等級が高けりゃそれだけで報酬が高くなるのに!」

「優先して依頼を回してもらえるのに!」

「私だったら絶対に断らないわ」


「なにより銅等級なだけでこの街では特別だぜ」

「ああ、銅等級はストラクタと同格だ」


 銀等級の兄が死に、この街最強は銅等級だ。

 銅等級冒険者は少なくて貴重だ。


「ノワール、理由を聞こう」

「前回の事件はみんなの勝利です、もしみんなが協力してくれなければ勝てませんでした。それに本当はアレクが弱らせた兄にとどめを刺しただけなのに必要以上に僕が持ち上げられています。でも兄は弱っていました。虚勢を張っていました。他の人が戦っても勝っていました」


「う、うむ、だが仮にそうだったとしてもそれを見抜いていたのはノワールだけだ」

「他の人が戦っても勝っていました」


「分かった。仮にそうだとする。俺は納得していないが仮にそうだとしよう。だがサーバント4体が先行して前に出た事で攻撃に勢いがついた。サーバント4体とノワールの先行、その活躍だけでも銅等級の価値はある」


「それも誤解があります。敵からすればアレクやモモと戦って傷を負い、更に奇襲をかける側だと思っていたら逆に奇襲攻撃を受けました。それで敵は虚を突かれました。その事でサーバントが活躍したように見えたのでしょう。でももし仮に他の冒険者が先に奇襲を仕掛けていても同じ効果がありました」


「言っている辻褄は一応は合っている。だが釈然としない。たとえ奇襲だとしても最初に前に出た人間には価値がある。俺はそう考える」

「僕はそうは思いません、睡眠以外で相手が無防備な状態、それはターゲットを定めて獲物を狙う瞬間です。あの状況は敵が奇襲を仕掛け狙いを定めた瞬間で最も安全でした。そして奇襲の直後敵は混乱していました。僕は安全に後ろから斬りかかっただけです」


「う、うむ、ノワールの言っている事は分かるがそれでも釈然としない。実際にサーバントは盾になるように前に出て包囲され倒された」

「その前に1つ言わせてください」


 ストラクタさんは俺の強さを見抜いている。

 流石に銅等級に対しては動きで強さがバレるだろう。

 ストラクタさんは自分の正義を貫こうとする。

 だから流れを変える。


「何だ?」

「僕はストラクタさんの足元にも及びません! 家族に追放されてまるで尖ったナイフのように周りを傷つけていた僕をストラクタさんが救ってくれました! もし僕がストラクタさんの立場なら僕のような悪い人間を相手にする事は無かったでしょう! 僕は銅等級であるストラクタさんと同じ等級は嫌です! 少なくとも今は時間をください!」


 ストラクタさんが涙ぐんで目頭を押さえる。

 冒険者が笑い出した。


「ストラクタ、一本取られたな」

「ノワールの想いは伝わって来たわ」

「良いじゃねえか、ノワールは今訓練を続けている。しばらくしてからまた考えればいいぜ」


「はい! きっと僕はストラクタさんほど立派な人間にはなれません。ですがストラクタさんは行動を変えれば心が変わる事を教えてくれました。今は立派じゃなくていい。ただもう少しだけまともになりたいんです!」


 ストラクタさんに頭を下げた。


 パチパチパチパチパチ!

 作戦に参加した100の冒険者、そして飲んでいた冒険者、更にはギルド職員も俺に向かって拍手をする。


 俺の前世は社畜で希望が無かった。

 ゾンビのように慢性疲労の中長時間働いていた。

 ノワールは最後デュラハン教のマジックアイテムで寿命と引き換えに力を手に入れ主人公に敗北する。

 そしてゾンビになり、モンスターになぶり殺しにされて死ぬ。


 ゲームではそういうストーリーだ。

 今思えばゾンビみたいな俺だからゾンビになって死ぬノワールに転生したのかもしれない。


 でも今は生きる気力に溢れている。


 ストラクタさんに頭を下げるのが嫌じゃない。


 やる気がある今のうちに訓練を続けよう。

 訓練が進めば使役できるサーバントの数が増える。

 サーバントが増えなくなるまで訓練をするのもいい。


 メインクエを進め過ぎるとアレクのように殺されかねない。

 俺はほどほどの実力で評価されたまま訓練を続ける。


「分かった。ノワール、口の上手さに丸め込まれた気分ではあるが今は昇格しない。最後に、1つ頼みがある。モモを奴隷として買ってくれないか?」

「え?」


 ゲームのパーティーキャラを悪役の俺が買う!?


 ストーリーが崩壊している!

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