第25話
事件が終わり犯人は盗賊だけではない事が分かった。
街で悪さをするゴロツキ、そして暗殺者ギルドの構成員が含まれていたようである。
ギルドは王都から人を呼び寄せて調査を依頼した。
これをしておかないと元家族のダークネス家が何をしてくるか分からないのだ。
貴族と言えど王の手先には逆らえない。
俺はギルドで何度も話しかけられて何度も「アレクが弱らせた兄を運よく倒せた』と100回以上同じ事を言った。
俺はそこそこの強さ、そう認識してもらうのが丁度いい。
目立ちすぎたアレクは死んだ。
弱いと思われすぎると盗賊に襲われる。
強すぎもせず、弱くも無い、そう思われるのが一番安全だと思う。
モモはアレクがいなくなった事で奴隷売買を仲介したギルドが預かっている。
『モモへの寄付』依頼が出た為俺とスレイアがモモの生活費を寄付した。
王都から調査部隊が来るまで街から出なかった。
暗殺される可能性がある為だ。
魔力を回復させ、サーバントを4体地下で訓練を続けさせ、俺自身とスレイアも訓練をしつつ毎日ストックしてあった素材でサブクエを進める。
最近はゲームで出てこなかったサブクエが発生している。
俺とスレイアならサブクエを受けてくれる、そう思われているようでサブクエが減らない。
訓練とサブクエをこなしながら今後の事をもう一度考えてみた。
ゴルド、アレク、兄の死。
結局結論は変わらない。
鉄等級上位程度の強さを示す。
強く見られすぎても弱く見られすぎてもダメだ。
そして訓練を続ける。
俺は訓練場で筋トレと斧や槍の型の練習をして地面に寝ころび休む。
鉄等級の冒険者パーティーがジョッキを持ってギルドから見学に来た。
「ノワール、今日も頑張ってるな!」
「はい! 自分不器用なんで! 少しでも強くなっておきたいんです!」
ノワールの成長率は高い。
でも不器用と言っておかないと話がおかしくなる。
冒険者たちが哀れんだ顔で俺を見た。
「ノワール、兄に殺されかけたかもしれない、だがアレは運が悪かった!」
「そうよ、ああいう事件はよっぽどの事が無いと起きないわ!」
「そんなに焦らなくていいんだ!」
「いえ! ゴルドもアレクも死にました! 次盗賊に狙われるのは僕かもしれません!」
みんなが黙る。
元パーティー5人の内2人が短期間で死んでいる。
みんなが俺の事を不器用だと思っている。
不器用に訓練し、不器用にサブクエをこなしている。
そう見えているのだ。
こうして時は過ぎた。
王都から来た調査部隊は警察官の取り調べをするように動いて俺にも話を聞きに来た。
「兄であるライングラフレイム・ダークネスを倒した状況を言え」
「その、記憶があいまいなところもあります、もう何日も前の事なので」
「いい、そういうのはいい、記憶のまますぐに話せ」
「……はい」
うわあ、前世の会社みたいな詰め方だな。
でも、貴族が死んでいるからちゃんとやらないと調査部隊に責任が及ぶ。
しっかりやってくれた方が助かるか。
「僕はアレクと兄が戦って兄が勝った後、前に出ました。兄は皆を脅しました。兄の体を見て、言い方を聞いて兄が弱って虚勢を張っている事が分かりました。ですがみんなは兄の虚勢に気づいていなくて、僕だけが弱った兄の事を分かりました」
「なんで分かった?」
「毎日兄に殴られていました。毎日笑いながら炎を放つ兄から逃げて過ごしました。兄が疲れれば僕への暴力が止みます。いつも早く兄が疲れて欲しい、そう思いながら過ごしていましたから、なんとなく動きで兄の疲れや焦りが分かるんです。それとアレクが付けた傷と思われる血がついていました。兄が血を流している事も分かりました」
「うむ」
調査部隊は紙に俺の言葉をまとめていく。
「兄と戦うといつもより兄の動きにキレはありませんでした。僕をいたぶる為に手加減をして炎を放ったあの日々よりも攻撃の速度が遅かったです。兄は途中で疲れすぎたのか矢を放っても思うように追いかけてくることが出来ないようでした。僕は必死で戦い、そして兄を倒しました」
俺はその後も細かく色々聞かれた。
俺を追放したダークネス家が追放を取り消したいと言った場合どうするかも聞かれ絶対に関わりたくないと言って話が終わった。
俺はどうやら兄を殺した事よりもダークネス家との関係を疑われていたようだ。
調査部隊が死体を回収して帰ると疲れた顔をするストラクタさんがみんなを呼んだ。
ストラクタさんは指揮をとっていた。
俺よりも相当細かく取り調べを受けたんだろうな。
上の人は本当に大変だと思う。
ギルドの建物、酒場の隅で円を作るようにして話を始める。
酒場で飲んでいた冒険者も周りに集まる。
「幸いなことに盗賊や暗殺者ギルドを倒し手に入れたアイテムや金は多く残った!」
調査部隊が調査の為と調査費用と言ってある程度持って行く。
いつもの流れだ。
でも思ったよりは取られなかったんだろうな。
「ノワール、スレイア、活躍した2人に聞きたい。報酬は活躍に応じてとなっていた。それでいいか?」
「いえ、均等割りでお願いします」
「私も均等割りでいいよ」
「2人の報酬は減る、それでもいいのか?」
「はい!」
「理由を聞きたい」
「ストラクタさんに協力した皆は街の為に体を張ってくれた立派な人間です! 皆さんがいなければ僕は死んでいました。皆さんのおかげで勝利出来ました! この勝利は皆の力です!」
周りにいた冒険者が歓声を上げた。
「ノワール、太っ腹だな!」
「ノワール、ありがとう」
「正直言って助かるぜ」
「おかげでアイテムが買える」
「ポーションを寄付してもらって、更に報酬を山分けか、俺達の事を本当に考えているんだな」
これでいい。
冒険者は本音では報酬が欲しい、でもそうは言えない。
ここで活躍した俺とスレイアが多くの報酬を持って行けばこの場では何も言われなかったとしても冒険者は俺達をよく思わないだろう。
それに命を張って戦って報酬が少ないとなれば次からこういう招集に参加する冒険者が減る。
そうなれば巡り巡って俺の危険が増すだろう。
みんなにはこれからも盗賊狩りの招集に応じて欲しい。
そうする事でこの街を平和にして欲しいのだ。
街の平和=俺達の安全でもある。
みんなを立てて更に報酬を山分けにする。
それが一番安全だ。
この世界は野蛮だ。
盗賊や暗殺者ギルド、ゴロツキも下手をすれば命を狙ってくる。
目先の金よりも命が大事だ。
「2人がそういうのなら均等割りにする、正直助かる」
均等割りにするとストラクタさんの報酬も減るんだよなあ。
ストラクタさんは本当に大人だな。
「それともう1つ、ノワールの活躍を評価し、銅等級の冒険者に引き上げる」
「お断りします」
「「えええええええええええええええええええええ!」」
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