第24話
「ははははははは! ノワール、何のマネだ!?」
「戦おうと思っている」
「はははははははは! お前俺に勝った事があるか? 無いだろう?」
「始めないのか?」
「自分の影を出していたようだが雑魚を相手にあっさりやられていた。俺は属性有り、しかも炎属性の選ばれた魔装だ」
兄が口角を釣り上げる。
「だがお前の魔装は無属性どころかそれにも劣る外れの闇魔装だ。勝てるわけがないだろう」
「戦わないとみんなを殺すんだろ?」
「違う、違う違う、お前が何をしようがしまいが皆殺しだ。お前如きが何をしようと何も変わらない。お前が何かに影響を与えられる人間だと思うなゴミムシが!」
それでも俺は剣を構え続ける。
兄は俺の事をよくゴミムシと言う。
でも、ゴミムシに殺されたら最悪な気分だろうな。
兄は犯罪を犯した。
殺しても今なら罪に問われない。
兄がマウントを続ける。
「ノワール、死の恐怖で頭までおかしくなったか。いや、お前は昔からおかしかった。お前を追放して時が経った。もう殺してもいいだろう」
「俺は銀等級でノワールは2つ下の鉄等級だ。もっとも、お前が鉄等級になれたこと自体が奇跡に近い」
「仲間にポーションを渡して回復する時間稼ぎのつもりなんだろうがすべて無駄だ。お前も、俺以外のここにいる全員も雑魚だ。だがノワール、お前だけは特別に苦しませてから殺してやろう。貴族の教育を受けながらここまで頭が回らないその無能、本当に許せんからな、俺からの愛だと思って炎の痛みを受け取れ」
兄はひとしきりマウントを取った後構えた。
兄のもつ剣が炎をまとった。
そして剣を上に掲げるように振りかぶる。
兄が炎の斬撃を放った。
俺はその斬撃を横に飛んで避けた。
兄は横一線に炎の斬撃を放つがそれも避ける。
兄は何度も炎の斬撃を放つがすべてを避けた。
攻撃パターンがまんまゲームと同じだ。
面白いほどに同じで簡単に避けられる。
「はあ、はあ、どうした! かかってくる事すら出来ないか!」
「遠慮なく」
俺は近づくと見せかけて後ろに下がった。
すると兄が剣を振る。
兄をを中心にして地面から炎の火柱が円状に発生した。
これもゲームと同じか。
ゲームでは何度も近づいてモーションを発生させてバックステップをして攻撃させて遊んだな。
俺は剣を弓矢に変えて矢を放った。
「ぐほお!」
矢が兄に突き刺さる。
矢は攻撃力が低い代わりに遠くに攻撃出来る。
兄は近距離と中距離の攻撃しか出来ない。
そして兄は煽りに弱い。
何度も何度も後ろに下がりつつ闇魔法で作った矢を放つ。
アレクにやられてイラついた事をマネして矢で煽る。
「ぐは! ぐお! きさ、ぐは!」
「遠くから矢を放っているだけで勝てそうだ、ああ楽だ」
そう言いながら何度も矢を放つ。
「殺すうう!」
兄が走って来た。
俺は後ろに下がりながら矢を放つ。
「殺す殺す殺す! ぐは! 追いついたぞ! フレアボム!」
兄の前方に剣を振ると炎の爆発が発生したが俺は全力で後ろに下がって躱した。
大技を使えば魔力を大きく消費するのにな。
兄が意地になって追ってくる。
それに合わせて弓矢を剣に変えて前に出る。
「はあ!?」
兄がバックステップから急に前進し始めた俺に対応できていない。
兄の首を突いた。
「ごばあ!」
兄の動きが一瞬止まった。
その瞬間に連続で斬りつけると兄のストレージからアイテムが溢れた。
兄を殺した。
邪魔だった兄をけす事が出来た。
今殺せなければ中々チャンスは無い状況。
俺は嬉しさよりも安堵の心が強かった。
しばらく静寂が支配した。
そして歓声が聞こえる。
「勝った、勝ったのか!」
「うおおおおお! 勝ったああああああああ!」
「助かった! 助かったんだ!」
「ノワール! よくやったな!」
「簡単に倒して、お前すげえよ!」
「勝利だ! 俺達の勝利だ!」
「ノワール! やったな!」
正直、アレクと兄の戦いを見て勝てると思った。
兄は初見なら攻撃を受ける可能性もあった、でも俺はゲームで兄がどういう攻撃をしてくるか知っている。
転生したあの時よりも兄が遅く感じた。
その事で俺の体力レベルは上がっている証明にもなる。
そしてノワールの記憶でも兄の技を見てきた。
アレクの死で色々学んだ。
ゲームのストーリーはもう当てにならない。
主人公ですら死ぬ環境だ。
そして訓練を何もせずソロでゆるく生きようとした戦士ゴルドは人に殺された。
犯人は分かっていないが俺より防御の硬いゴルドを殺せる敵だ、油断は出来ない。
そして主人公だったアレクはメインクエを進め過ぎて兄に目を付けられて死んだ。
アレクは冒険者全員に嫌われていたわけではないが、冒険者から距離を取られており、怯えるモモを見て悪い噂が流れ始めていた。
訓練を軽視すれば死ぬ。
ソロで行動すれば命を狙われる。
メインクエを駆け足で進めあまりに目立てば目を付けられる。
この世界にいる人間は出来るだけ敵に回してはいけない。
ゴルドとアレクしか見ていないからそれが絶対の正解とは言えない。
サンプル数が2つだけではある。
でも理想は、
目立ちすぎず弱いとも思われないバランスで力を見せる。
訓練を続ける。
出来れば信頼できる仲間がもっといれば更に助かる。
パーティーに入ってくれなくてもストラクタさんのような存在は心強い。
冒険者が集まって来た。
「ノワール、お前強いんだな」
ごまかそう。
強いと思われるのは良くない。
「ああ、実は、兄はアレクの攻撃でかなり弱っていました。弱っていなければ危ない所でしたが、多分あの状態ならみんなでも勝てていました。兄は消耗していて怖くて虚勢を張っているのが分かりました。それに兄は昔から何度も見せつけるように僕に技を使っていましたから、何度も手加減はされつつも炎の攻撃を受けて来たので何をやってくるか分かるんです」
「そうだったのか、暗くて見えなかったぜ」
「そう言えば毎日のようにノワールは殴られていたんだったな、まさか炎まで使って弟をいたぶるとは、あいつはクズだな」
「ええ、毎日逃げ回っていました」
「だからあの攻撃を避けられたのか」
「そうかもです」
「だがよう、あのサーバントはすげえぜ、アレが前に出たおかげで俺達は安全に戦えた」
「あ~、あれも、実はしばらく使えません。アレを使うには全魔力を消費してやっと1体出せるので、それに闇魔法なので使い勝手は悪いですよ」
「だが、強く見えたがなあ」
「モモとアレクが攻撃した相手を狙わせていたのですぐに倒したように見えたのかもしれません」
「そ、そうかあ、暗かったからなあ。完全には見えなかったぜ」
「ポーション、ありがとな」
「金なら払うぜ」
「い、いえいえ、大丈夫です、こういう時の為に貯めていたのを出しただけなので」
俺はまるでポーションを使い尽くしたような言い方で言った。
本当はまだまだたくさんある。
「おめえ、そこまで先の事を考えて、あんなに必死でポーションを貯めていたのか」
「ええ、何があるか未来は分からないので」
ストラクタさんが歩いてきた。
「ノワール、お前は自分が嫌われている、そう思って俺経由でみんなにポーションを配った。そう見えた」
「そう、です」
「ノワール、確かに冒険者の中にはお前を嫌う者もいる。だがここにいるのは鉄等級の手練れだ。お前がどんなに頑張って自分を変えようとしたかはしっかりと見ている、みんな目がいい」
ストラクタさんは俺の評判を変える為に言ってくれている。
ストラクタさんの言い方だと、俺の事を気づいていない冒険者が間抜けに見える、そう持って行ってくれている。
「そう、ですかね?」
「ああ、俺は見て来たぜ、お前の頑張りをよお、今がまともなら俺は気にしねえ」
「毎日奉仕依頼をこなして毎日傷を負いながらポーションを使って戦ってきたんだろ? 分かるぜ」
ポーションはほぼ使っていない。
でも勘違いしてくれて助かる。
「ノワール、ギルドの職員はほぼお前を正しく評価している」
「ストラクタさんのおかげです。ありがとうございます」
「俺じゃない、お前の行いだ」
冒険者がにやにやと笑う。
「な、何だ?」
「ストラクタ、見ていたぜ、まともになったノワールの行動をみんなに伝えていたよな?」
「私も見ていたわ、ストラクタがおせっかいなのは分かるわよ」
月明かりの下で赤くなるストラクタの顔が見えた。
冒険者が照れるストラクタの指を差して笑う。
みんなから嫌われているわけじゃない。
それが分かってほっとする。
殺し合いをした戦場、それでも今のこの場所が心地いい。
「ストラクタさん、訓練が終わった時にきちんとお礼が言えませんでした。でも今言わせてください。今まで散々悪い事をしてきた僕を見捨てず指導してくれてありがとうございます!」
「ノワール、いい、もういい」
ストラクタさんの顔が更に赤くなった。
頭を下げているのに嫌じゃない。
ああ、
そうか、
今の俺は自分に嘘をついていない。
お礼を言いたくて、感謝したくて頭を下げている。
これが、感謝か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。