第23話

「情けないな、アレク1人すら倒すのにてこずるか。アレクは俺が相手をしてやろう」


 仮面のマジックアイテムで声を変えている。

 だがあの姿は兄だ。


 敵がアレクから離れる。

 アレクはポーションを飲んだ。


「くっくっく、今のうちにポーションを飲むか、アレク、せこいな」

「そっちこそせこいね。ライングラフレイム・ダークネス。盗賊と悪事を働いているのを隠すために魔装をまとわずに姿を偽ってせこすぎるよ」


 どっちも煽り能力が高い。

 アレクも兄も人をイラつかせる才能がある。


「人違いだろう。民草は物を見る事さえ出来ないようだな」

「ふ! その赤黒い髪! その高い身長、どこからどう見てもライングラフレイム・ダークネスだ! 王の定めた法を破り盗賊と組んで悪事を働いている。いくら貴族でも国を揺るがす行いは殺されても文句は言えないよ!!」


 兄が怒っている。

 見ればわかる。

 顔を斜めに傾ける動きは怒った時の特徴だ。


 俺は大きな声で言った。


「な! なんだってええ! 仮面の相手はライングラフレイム・ダークネス! 俺の兄だったのか! そう言えば動きが兄さんそっくりだ! 兄さんの相手はアレクに任せて俺達は盗賊を倒そう!!」


 兄と雑魚が一緒になって攻撃して来れば多くの味方冒険者が死ぬ。

 兄はボスだ。

 戦闘能力が高い。

 でも


 アレクVS兄、そして冒険者VS雑魚敵、戦いを2つに分断できればアレクと兄が戦っているその内に雑魚を倒せる。

 サーバントはマトになるように前に出た事ですべてやられた。

 スレイアの魔力も無い。

 敵も味方も魔力が少ない。

 MPポーションで魔力を回復出来るが開封速度はかなり遅い。

 だが敵も疲れている。

 ここからはお互いにジャブを出し合うような通常攻撃の戦いになる。


「そうだな、あの敵はアレクに任せて俺達は残った敵を攻撃する!」


「うおおおおおお!」


 俺は前に出て見せつけるように敵3体を斬り倒した。

 その事で冒険者が後ろから走って来てまた戦いが始まる。

 雑魚になら勝てる!


 敵はモモを奇襲を受けた。

 そしてモモを取り囲む群れとアレクを追う群れに分かれた為各個撃破出来た。

 その効果が大きい。

 敵の数はこっちの倍だったがその不利を巻き返しつつある。

 俺は兄とアレクの戦いを見ながら敵を倒した。


「アレク、どうした? 来ないのか? ああ、ボロボロで回復待ちか。せこいな」

「身の程を知った方がいい。僕は特別な存在だ」


 アレクが剣を投げた。

 ガキン!

 兄が剣を弾いた。


「甘い!」


 アレクの剣が消えるとまたアレクの手に剣が出現して剣を投げる。

 剣が兄の腕にヒットした。


「この程度か、脆弱な攻撃だな」

「僕の攻撃を避けられないのに言う? 間抜けだね」

「そろそろ力を見せよう」


 兄が接近するとアレクが剣を投げた。

 兄が剣を弾いて斬りかかるとアレクが盾で防いでバックステップをしながらまた剣を投げる。


 トスン!


「また腕に当たった、間抜けだね」


 そう言いながらアレクはバックステップで距離を取った。


 アレクの戦い方はむかつくだろうな。

 接近すれば剣を投げられて斬りかかれば雑ではあるが盾で防がれてまた後ろに下がる。

 そして下がりながら剣を連続で投げてくる。


 兄は魔装を使えば楽にアレクを攻撃出来る。

 兄はイラつきながら魔装なしでアレクに斬りかかり、そして盾で防がれて何度も剣を投げられる。

 なんだろう、アレクは対戦ゲームで射程範囲外からひたすら攻撃を続ける敵、そんな感じだ。


「ははははは! 間抜けなライングラフレイム・ダークネス! 今どんな気持ち? ねえ、正体がバレて僕に1回も攻撃を当てられないどころか何度も攻撃を受けてどんな気持ち! はははははははは!」


 アレクは行動も発言もその顔も呼吸をするように相手をイラつかせる。

 人を馬鹿にしたあの態度を兄は許せないだろう。

 俺なら出来るだけ魔装を使わせない状態で出来る限り追い込んで一気にラッシュをかける。

 少なくとも兄が出来るだけ魔装を使わせない状態に持って行き出来るだけ削る。


 でもアレクは舐めプをし過ぎだ。

 ゲームだと兄のHPをある程度削ると魔装を使い、更にポーションを飲んで2段階目状態で攻撃をしてくる。


 いや、今は俺自身が出来る事をする。

 雑魚を倒そう。


 味方が息を上げている。

 兄の叫び声で振り返った。


「殺す!」

「何も出来ないのによく言うよ」


 兄が仮面を投げ捨てた。

 二段階目か。


「魔装!」


 兄の体が炎で覆われて炎をイメージしたようなぎざぎざした剣と鎧をまとった。

 兄の剣に炎が発生する。


「ふんぬ!」


 炎の斬撃が飛んでアレクに当たるとアレクが火だるまになった。


「うああああああああああああああああ!」

「は、はははは! 雑魚が! 本気の俺に勝てると思うな! 俺は多くの騎士を生み出したダークネス家次期当主だ! そしてこの街で最強だ!」


「ふん! ふんふん!」

「ああああああああ!」


 アレクの火だるまが止む前に炎の斬撃がアレクに当たる。

 その度にアレクは火だるまになって地面を転がる。


 アレクがいたぶられている内に雑魚をすべて倒した。

 俺は息を整える。

 みんなは倍の敵と戦った事で消耗している。


 アレクの勝利を信じている者が多いようだ。

 みんな感がいい、ゲームではアレクが勝つ。

 兄の炎はMPを消耗する。

 それまで耐えれば十分アレクでも勝てる相手だろう。



「ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はははははは! アレク! 勘違いした貴様は芋虫のように地べたをはいずり回るのがお似合いだ!」


「助け、モモ、助けるんだ!」


 その瞬間にモモの体が光った。

 まずい、アレクがモモに命令した!


 俺は走り出したモモのチャイナ服を掴んだ。


「危ない! 行くな!」


 そしてモモを投げ地面に落とす。


「がは!」


 モモが動かなくなりぐったりとする。

 嫌われてもいい、モモを助ける。


 アレクは地面に転がったまま何度も叫んだ。


「モモ! 助けろ! 助けろおお!」


 兄が無言でアレクに近づく。

 そして炎の剣を突き立てる。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ああ……」


 アレクのストレージから持ち物が溢れる。


 ゲーム主人公のアレクが死んだ!


 ストラクタが前に出ていった。


「ライングラフレイム・ダークネス、盗賊を扇動し国家を乱した罪、償っていただきます」

「は、ははははははは! 何を言っている! 盗賊はお前らだろう」

「な、何を!」


「盗賊の仲間割れに駆け付けた俺が正義の行いでここにいる皆を処刑する。正義は俺だ!」


 冒険者がじりじりと後ろに下がる。


「アレクが殺された! マジかよ! あいつ銅等級だぞ!」

「ま、まずい、俺達、殺されちまうぞ!」

「あいつは、あいつなら本当にやる!」

「勝てねえ、勝てるわけがねえ、相手は銀等級だ」


 みんなはもうすでに戦って消耗している。

 みんなで一斉に兄に攻撃すれば勝てる可能性は十分にあった。

 でも最初に前に出た人間から死ぬゲームを仕掛けられて前に出る者はいない。

 誰だって死にたくはない。


 兄は皆がいる前でアレクを殺した。

 そしてみんなに恐怖を与えた。


「ここから逃げたやつから殺してやろう」


 俺はストレージからポーションの入った箱を取り出した。


「ストラクタさん、皆にポーションを寄付します」

「急に何を言っている!?」

「俺があ寄付しても皆に不安を与えるのでストラクタさんから渡してください」

「なぜ一人で前に出る! 死ぬ気か!?」


「1人で前に出ますが死ぬ気はありません!」

「自殺行為だ」

 

 俺は前に出た。


「ノワール!」


 スレイアが少し杖を上げて言った。

 今なら魔法を使えるんだろう。


「今は1人で大丈夫だ」


 俺は1人で前に出た。

 そして闇の魔法剣を作り構える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る