第22話

【モモ視点】


 私の両親は貧乏だった。

 お金に困った両親は私を奴隷として売った。


 奴隷として雑用をした。

 冷たい冬に川で洗濯をしてトイレを掃除して田畑を耕した。

 それでも貧乏な両親との生活よりは楽だった。

 食事は1日2食パンを食べられたし毛布にくるまって寝る事が出来た。


 しばらくすると私はご主人様であるアレクに売られる事になった。

 前のご主人様が言った。


「お前に戦闘訓練を教えて良かった。今より生活は楽になるだろう」


 両親の元から奴隷になって生活が楽になった。

 次のご主人様の元でもっと生活が楽になるらしい。

 しかも新しいご主人様は難しい依頼をこなしてそのお金をすべて使って私を買ってくれたらしい。

 新しいご主人様が楽しみだ。


 でも、ご主人様に会って嫌な予感がした。

 新しいご主人様のアレクは笑顔だった。 

 でも人を物のように見ている、それが分かった。

 アレクがご主人様になってから生活は悪くなった。


 ダンジョンに行くと私はいつも前に出た。

 モンスターにぶつかるように殴り掛かって吹き飛ばされる。

 その隙にご主人様が剣を投げて攻撃する。

 何度も何度も怒られた。


「なんで避けられないかな?」

「ご主人様ごめんなさい」


「なんで攻撃を止められないの?」

「ご主人様ごめんなさい」


「僕にモンスターが接近するのを許したね?」

「ご主人様ごめんなさい」


 どうすればいいのか分からず、謝るのが日課になっていた。

 私はいつもポーションを使わせて貰えず、寝て傷を治していた。

 いつもどこかが痛い。


 そしてダンジョンから帰ってからも中々休めない。


「モモ、ここが汚れている」


「モモ、パンを買ってきて」


「モモ、肩を揉んで」


 私は思うように体力を回復する事が出来なかった。


 そしていつもお腹が空いていた。


 硬くなったパンと余った野菜くずや野菜の芯を食べていた。

 余裕がないからそうしているわけではない。

 奴隷の身分を分からせる為にそうしていると本人から聞いた。


 ご主人様が解散する前のパーティーと食事をした時だけは自由に食べて良かった。

 あの時のお肉と柔らかいパンの味は今でも覚えている。


 ご主人様よりも他のパーティーの人の方が優しそうに見えた。

 特にノワールさんとスレイアさんは優しかった。


 ご主人様は襲撃を受けた。

 私が危険を訴えようとすると言葉を止められて2階に行くよう言われて2階に行くと攻撃を受けてすぐに駆け付けなかった事で怒られた。


 ご主人様は何度も言っている事を覆して怒る。

 どうすればいいのか分からなくなっていた。

 2回目もご主人様が奇襲を受けた時思った。


『ご主人様は皆に少しずつ嫌われ始めている』


 ご主人様は元パーティーメンバーとの食事で元パーティー全員を怒らせていた。


 受付嬢さんがご主人様に奉仕依頼を進めると相手を怖がらせるような言い方で断り何も言われなくなっていった。


 冒険者が話しかけても笑顔でバカにして冒険者の機嫌を損ねていた。


 私はご主人様と一緒に殺される不安を感じていた。


 でも何も言えない。


 夜にご主人様が襲撃を受ける事を知った。

 嫌な予感がする。


 ストラクタさんが私だけを避難させるように言った。

 でもご主人様は『モモは僕が面倒を見る』と言って私の避難を止めた。


 私はご主人様の盾になって死ぬ、そんな気がした。

 でも奴隷である私はご主人様の命令に逆らえない。

 夜になり敵が攻めてくるとご主人様が命令した。


「モモ! 僕の前に出て戦え!」


 命令されると逆らえない。

 私は囲まれながら戦った。

 何度も攻撃を受けて戦った。

 ご主人様は光の加護を使ってくれた。


 でも、ポーションがあればもっと戦えた。


 お腹いっぱい食べられればもっと動けた。


 もっと眠れていればもう少しは戦えた。


 その時に、ご主人様が盾を構えて1人逃げ出した。

 私は完全に包囲された。

 敵が私を見て笑った。


「へへへ! ガキだが犯して殺す!」


「俺達を舐めてくる奴らには全員思い知らせてやらねえとなあ!」


「いたぶって動きを止めろ! 気絶させた後に袋に入れて攫う!」


 怖い、怖い怖い怖い怖い!


 やっぱり、ご主人様は私を見捨てる。


 その時、スレイアさんが敵を氷のランスで倒したのが見えた。

 敵の動きが一瞬止まった。

 更にノワールさんとノワールさんの影が4体、まるで的になるように走って来た。


「今だ! モモを助ける!」


 スレイアさんとノワールさんの攻撃で冒険者も勢いをつけて攻撃を始めた。


 ノワールさんが剣を消して手を伸ばした。

 私はノワールさんの手を掴んだ。


 私を抱いて後ろに下がるノワールさんの背中に矢とナイフが刺さる。

 ノワールさんが私を運ばなければ攻撃を受ける事は無かった。


 無理に影を突撃させた事で影が集中攻撃を受けて消えていった。

 私を助けなければ影でもっと敵を倒せた。


「そ、そんな! 私の為に、どうしてそこまで!」

「今は余裕がない!」


「モモ、ポーションだ、飲め」

「でも、ノワールさんが攻撃を受けて」

「早く!」


 その瞬間に分かった。

 私がポーションを飲まないとノワールさんもポーションを飲まない。

 私は急いでポーションを飲んだ。

 そして私にもう一本ポーションを渡してくれた。


 ご主人様は逃げ遅れて敵に包囲されながら冒険者のみんなに『僕を助けろ!』と叫び続けていた。


 ああ、


 ご主人様がアレクじゃなくて、


 ノワール様だったらいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る