第21話

 夜になると100人の精鋭がアレクの家から離れて待機する。

 ストラクタさんが俺の隣に立った。

 

「ノワール、1つうまく行かない事があった」

「何です?」

「モモを家から避難させておくようにアレクに言ったがアレクが最後まで聞かなかった」


 モモがアレクと一緒にいる。

 嫌な予感がした。

 モモが危ない。


 ストラクタさんは俺に言えば俺が余計な行動を起こすと思った。

 だから今のタイミングで言ったんだろう。

 もし、事前に話を聞いていれば俺は動いていただろう。

 そうなれば盗賊に逃げられていたかもしれない。


「ストラクタさん、もし攻撃が始まったら、俺が真っ先に突撃します。サーバントすべても出します」

「……分かった」


 イラっとした気持ちのまま言った俺の言葉をストラクタさんは何も言わずに受け止めた。

 ストラクタさんは大人だ。

 責められる覚悟で街の為に一番いいと思える方法を取ったんだ。

 その事で俺は冷静になった。


 アレクの家から爆発音が聞こえた。

 アレクは家が全焼しても良いと思っているような遠慮のないトラップの発動だ。

 アレク、ブチ切れてるな。

 

 またアレクの家が爆発した。

 更にゴーレムも出している。

 アレクの家が燃えている!

 アレクは盗賊を皆殺しにする気だろう。

 家を全焼させてでもやり返す気だ。


「突撃します!」

「分かった!」


 俺は走った。


 アレクとモモが燃える家の近くで戦う。

 トラップのゴーレムは倒されている。

 敵は200、味方は100、こっちの方が数が少ない。


 アレクは剣を投げて攻撃するのがうまい。

 でも接近されて攻撃を受けると極端に動きが悪くなる。

 そしてモモを前に出し過ぎだ。

 前衛役はモモじゃなくてアレクだろ!

 その盾とショートソードのスキルツリーは防御が強いタンクタイプの魔装だ。

 モモは攻撃力とスピードは伸びるが防御はそこまで高くない。


 アレク、今斬りつければ敵を倒せるのになんで斬りかからない!?

 盾の防御もぎこちない。

 盾で防御したらそこはすかさず剣で攻撃だろ!

 なんで攻撃しない!

 

 囲まれそうになったらシールドラッシュでモモの周りにいる敵を転倒させ、はあ! 今のタイミングでシールドラッシュを使わないだと!

 動きが悪すぎる!

 剣を投げてバックステップをする能力だけは高いのに接近戦が弱すぎる。

 俺は走りながら叫んだ。


「アレクが襲撃を受けている!! 盗賊だあ!」


 相手が暗殺者でも盗賊でもいい。

 要は悪い事をしている敵がいる事を叫んだ方が都合がいい。

 闇魔法で剣を発生させて後ろから敵を5体連続で倒した。


「サーバント! 弓で攻撃開始だ!」


 黒い影の弓を持ったサーバント4体が後ろから攻撃を開始する。

 サーバントは弓の訓練を行っていた為弓も使えるようになった。

 更にサーバントを同時に4体まで使役できるようになった。

 敵に黒い矢が刺さると黒い霧に変わってサーバントに戻っていく。


「総員攻撃開始!」


 ストラクタさんの号令で冒険者も攻撃を開始した。

 それでも敵は逃げない。

 俺達の方が数が少ないからだろう。

 モモとアレクが攻撃を受けていく。

 敵が多すぎる。


「僕を助けろ! 僕を守れ! 僕はゲームの主人公だぞ!」


 アレクはそう言いながら1人シールドラッシュで敵の包囲を突破した。

 モモを置いて1人だけ包囲を抜け出したのだ。

 違う、そこはモモの周りに突撃して転倒させる戦い方をするべきだった。


 後ろからアレクに向かって矢や投げナイフが放たれる。

 モモは完全に孤立して囲まれた。

 アレクを追う敵とモモを包囲する敵の2つに分かれた。


「へへへ! ガキだが犯して殺す!」


「俺達を舐めてくる奴らには全員思い知らせてやらねえとなあ!」


「ちびをいたぶって動きを止めろ! 気絶させた後に袋に入れて攫う!」


「ノワール、セブンランスを使うよ!」


 俺は横にステップを踏んだ。

 セブンランスの射線を確保した。


「セブンランス! セブンランス! セブンランス! アイスランス!」


 スレイアは後先を考えずに氷のランスで敵を倒していった。

 スレイアのおかげで敵が怯んだ。

 今はこれが正解だ! 

 今は勢いで味方の士気を上げるのが大事だ!


「今だ! モモを助ける! サーバント! 突撃開始だ!」


 俺が叫ぶとモモを救出するために攻撃する。

 アレクはまだ死なない。

 危ないのはモモだ。

 こういう混乱した場面では叫んでモモを助ける流れを作った方がいい。


 後ろから武器を剣に変えたサーバント4体が突撃を開始する。

 サーバントはやられてもいい!

 今はサーバントが前に出る事で他の冒険者が前に出られる勢いをつける!


 アレクは孤立して囲まれつつあったがまだまだ持つだろう。

 だがモモはボロボロになっていた。


「モモ! 助けに来た!」


 俺はモモの手を取って両腕に抱いた。

 後ろから短剣で斬りつけられた。


「ぎい!」


 更に矢と投げナイフが背中に刺さる。


「そ、そんな! 私の為に、どうしてそこまで!」


 素早く後ろに下がった。

 正直攻撃を受けはしたがそこまで痛くはない。


「モモ、ポーションだ、飲め」

「でも、ノワールさんが攻撃を受けて」

「早く!」


 モモがポーションを飲んだ。

 その後に俺は自分でポーションを飲んだ。


 アレクが走って逃げようとしたことで敵が2手に分れた。

 ストラクタさんが指示を出し、モモがいた側の敵を冒険者と一緒に倒していく。

 アレクは攻撃を受けて『僕を助けろ!』と叫んでいたがまだまだ余裕だろう。

 アレクの魔装は防御が高くて更に光の加護を使っている。


 モモにもう1本ポーションを握らせた。


「モモ、ポーションの回復には時間がかかる、効果が切れたら次はこれを飲んでくれ。前には出るな!」


 俺は走ってストラクタさんに加勢する。


 アレクは敵に囲まれながらひたすら周りの冒険者に『僕を助けろ!』と叫ぶ。

 モモに命令する余裕がないようだ。


 俺達がモモに襲い掛かっていた敵をすべて倒すころにはアレクは血を流していた。

 光の加護を使ってはいるようだがアレクは囲まれるとうまく対応できないようだ。


 ストラクタさんと一緒にアレクを包囲する敵を包囲しようとすると仮面をつけた男が現れた。


 魔装を装着せず、正体を隠してはいる、でも間違いない。

 ゲームで出てくるボス。


 ノワールの兄、ライングラフレイム・ダークネスだ。

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