第20話
いつものように朝にギルドに向かうとストラクタさんが俺を呼ぶ。
後ろで見送る冒険者が話をする。
「鬼教官の説教か?」
「でもノワールとスレイアは最近悪い事をしていないぞ?」
「奉仕依頼のお礼じゃないか?」
「あり得るな、ストラクタはそういうのをよく見ている」
ストラクタさんに応接室に案内された。
お茶とお菓子がテーブルに置かれた。
「皆に聞かれたくない話がある」
「なに?」
「何でしょう?」
「実はな、ノワールの兄、ライングラフレイム・ダークネスに冒険者の二重スパイを付けて監視をしていた。これだけでは意味が分からないと思う、説明させてくれ」
「分かりました」
「少し前に100人の精鋭で盗賊のアジトを襲撃しただろう? あの時ノワールの兄に意図的に情報を流していた」
わざわざ1日時間を置いた理由がそれか!
腑に落ちた。
「つまり、意図的に出し抜かれた演出をしたと、そういう認識でいいですか?」
「それで合っている。でだ、弟であるノワールは疑われていた。だがそういう出し抜かれたフリをいくつも続けてこちらは情報の漏れがないか冒険者を選別していた」
ゲームストーリーで兄は盗賊や暗殺者ギルドと繋がりがあり裏で暗躍していた。
最後は盗賊に偽装した兄を主人公の活躍で倒す。
でも、兄が動くのがストーリーより早い気がする。
「何となく、分かりました」
要するに冒険者が信頼できるかどうか、兄に情報が伝わるかどうかをリトマス紙試験を何度もやっていた。
ギルドから俺が疑われるのは当然だ。
そして俺が情報を渡していない事が確認できた為に本当の事を話した。
でもわざわざ選別をしていた事を話すのはリスクがある。
ここまで入念に裏切らない人材を選別しているんだ。
普通は言わないで知らないふりをしつつ上では情報を持っている状態、それがベストだろう。
可能性があるとすれば。
俺に絶対協力して欲しい何かがあるか。
「わざわざ選別していた事を話したところを考えると、兄が、動くんですね? しかも情報の確度が高い」
「ああ、アレクを殺すために暗殺者ギルドと盗賊をけしかける。もしかすれば兄が出てくる場合もある」
信頼できる人材の協力を得たい。
そして依頼を断る冒険者が多ければ数で押されて負ける。
死人に口なしだ。
全員殺されてしまえば兄の思うつぼだ。
「今から出す依頼を受けて欲しい」
盗賊と暗殺者ギルド、そして場合によっては兄が敵として出てくる。
ギルドとしては向こうに勝てると思わせる必要がある。
そうでなければ盗賊のアジトを襲撃した時のように逃げられる。
ギルドとしては向こうに勝てると思わせておいて勝ちたい。
そんなところか。
精鋭で盗賊と暗殺者ギルドを潰す大きな依頼だ。
当然命の危険もある。
「分かりました」
「スレイアも受けて欲しい」
「うん、受けるよ」
「助かる、メンバーは前回意図的に盗賊の襲撃に失敗したメンバーだ、1時間以内に会議を始めたい」
みんなが鉄等級、ストラクタさんとアレクが銅等級か。
俺とスレイアは会議に参加した。
ストラクタさんが作戦を説明する。
「今回の依頼は盗賊と暗殺者ギルドをアレクの家におびき寄せて一網打尽にする。アレクは家にいて貰い襲撃に備えて貰う。俺達は襲撃を開始した敵を後ろから迎え撃つ」
作戦はざっくり言うと攻撃を開始する前の敵を倒すというものだった。
アレクが作戦に応じたのは意外だな。
自分に危険が及ぶことはしないように見えた。
……いや、アレクは敵に対して相当怒りを持っている。
意地でも潰しておきたいんだろう。
「ここまでで何か質問はあるか?」
「はい」
「ノワール、発言してくれ」
「はい、敵が攻撃するのを待ってから攻撃を開始しましょう」
「理由を教えてくれ」
「結論から言うと兄がおかしいからです。先制攻撃をしてしまうと兄が『何もしていない俺の部下を殺した』と言いがかりをつけてきます。普通に考えればおかしい話です。ですが兄は人のせいにする百戦錬磨です。最悪、ストラクタさんの首を跳ねられます、冒険者が死刑にされる可能性があります。もう一度言います、兄はずる賢く、人のせいにする百戦錬磨です」
冒険者の顔が引きつる。
そう、兄はそういう事をする。
「僕の例で話します。兄は僕がやっていない事でも僕のせいにします、1度や2度じゃありません、何度もです! 何度も何度も悪評を流され、僕のせいにされ、本当の事を言えば裏で殴られ続けました! なので、相手に攻めさせてから攻撃を開始しましょう。アレクはトラップまで買って準備を整えています。そして銅等級冒険者です。アレクはそ簡単には死にません」
「そしてもう1つ、モモは木等級です。モモは避難させておきましょう」
俺の意見は通った。
アレクは1人で家に待機して攻撃を受けて貰う。
そしてそこからみんなで攻撃を開始する事が決まった。
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