第19話

【ゲーム主人公、アレク視点】


 ポーションを買う為に金がかかった。

 新しくギルドに入ったポーションの定価が上がっていた。

 更に欲しいと言い出す冒険者が多くなり競りにかけられることになった。


 僕は借金をしてポーションを手に入れた。

 金貨を奪われたのが痛い。

 最近僕の事をよく思っていない冒険者もいるようだ。

 いつも笑顔で接している、嫌われる要素は無いはずだ。


 メインクエを進めれば僕の名声は上がる。

 そうなればすべてを吹き飛ばしてまた讃えられる。

 毎日森のダンジョンに通ったおかげでモンスターが減って来た。

 もう少しで奥に進める。

 奥に進めばイベント達成で次に行ける。


 今日も僕はモモを前に出して後ろから剣を投げてモンスターを倒した。

 モモは相変わらず傷を受けていた。

 ポーションは必要ないだろう。

 痛みを知らなければプレイヤースキルがいつまでも上がらない

 モモを前に歩かせたまま街に向かって歩く。


 2人で森の入り口付近に行くと6人組の冒険者とすれ違った。

 皆貧相なナイフや弓の魔装を装備している。

 モブ魔装だな。


 僕は選ばれた主人公だ。

 でもあの6人は量産型の魔装を装備している。

 弓やナイフの色違い、髪型や眉毛、目の形もランダムに組み合わせたような見た目をしていた。


 モブにモンスター狩りは大変だろう。

 それは僕以外のみんな、すべてが同じか。

 ノワールも、死んだゴルドも、ヨルナもスレイアも僕を彩る為のにぎやかしキャラだ。

 

 人は2種類の人間に分けられる。

 使う側と使われる側、僕は使う側の人間だ。

 僕は使う側の人間だ。

 そして人生はイージーモード。


 他のみんなは人生ハードモードだろう。


 トストストストストスン!


「がはあ!」


 背中に何かが突き刺さった。

 後ろを振り向くとさっきすれ違った冒険者6人がナイフや矢を放っていた。


 モモを前に先行させていて盾に出来ない。

 モモが気付いたが位置が悪い。


 盾を構えてショートソードを投げた。

 投げたショートソードをナイフで弾かれた!

 意外と強い!


「光の加護!」


 僕とモモの攻撃力・防御力・速度を上昇させる。

 更にHP・MPも微量回復していく。


 敵のリーダーと思われる男が笑いながら言った。


「なんだ、見た目の割に中々しぶといじゃねえか! もっと攻撃しろ!」

「モモ、攻撃しろ! こいつらは敵だ!」

「おうおう! ブチ切れたか! 怖いねえ! ちびの相手は俺だ!」


 敵のリーダーとモモが戦闘を開始する。

 僕は5人を相手にする。

 モモはたった1人しか抑えられないのか!

 ポーションを飲もうとすると矢と投げナイフで邪魔をされた。


「シールドラッシュ!」


 突撃して3人を吹き飛ばす、その隙にポーションを飲んだ。

 盾を構えて左右にステップを踏みながら剣を投げる。


 1人に剣を当てて連続で攻撃しようとすると横から弓や投げナイフで邪魔をされた。

 太ももと腕に攻撃を受ける。


「モモ! 早く倒せ!」

「ごめんなさい! 敵が強くて倒せません!」

「くそ! シールドラッシュ! シールドラッシュ! シールドラッシュ!」


 シールドラッシュは盾を構えて突撃する攻撃だ。

 吹き飛ばし効果は大きくてもダメージは少ない。

 敵を転倒させても転倒していない敵が攻撃を仕掛けてくる。


 更に敵に少しでも隙が出来るとポーションを飲まれた。

 HPを削っても回復されていく。


「シールドラッシュ! モモ! ついてこい!」


 僕はシールドラッシュで敵リーダーを吹き飛ばしてから走って逃げる。

 後ろから6人が追ってくる。

 そして僕を挑発する。


「おいおい! 銅等級の冒険者様が逃げるのか!?」


「臆病者が! そうやって生き延びてきたんだろ!」


「さすが臆病者のアレクね! モモを楯にして街で噂になっているわよ!」


「怖いんだろ!? 俺達に勝てないんだろ! 銅等級もズルをしてなっただけか!」


 ふざけるな!

 卑怯な奇襲を使って大人数で攻撃しておいてあいつらは何を言っている!?

 僕は合理的な判断をしただけだ!


 2人で森を抜けると4人組の冒険者がいた。

 その陰に隠れた。


「お、おい! どうした!」

「大丈夫か!?」


 僕を攻撃してきた6人組が捨て台詞を言って下がって行った。


「小便を漏らして泣きながら逃げていろ! 雑魚アレクう!」


「アレクは小さな子供を盾にして逃げる事しか出来ないんだろ!」


「子供を楯にするなんて人のする事じゃねえよなあ!?」


 6人組が言いたい放題言ってから去って行った。


「アレク、よりもモモ、大丈夫か?」

「腕が血だらけじゃないの、モモの傷が酷いわ!」


 僕はポーションを飲んだ。


「アレク、モモにもポーションを飲ませてくれ」

「そうよ、モモの傷が酷いわ」


「モモは獣人だ。回復力が高いからすぐに回復するよ」

「そういう問題じゃねえだろ。モモは血を流し過ぎだ」


「モモは僕の奴隷だよ。後で治す」

「今治さねえのか!?」

「モモ、行くよ」

「はい、ご主、アレク」


 僕は街を目指した。

 ああ、うるさい。

 モブの癖に本当にうるさい。


 お前らモブは結果を出したか?

 出していないだろう。

 だが、本当の事を言えば評判が下がるだけだ。


「モモ、もっとうまく戦わないと」

「ごめんなさい、ご主人様」


 僕を殺すとする6人組は後で必ず殺す。

 でもその前に2人だけのパーティーでは奇襲を受けやすいのが問題だ。

 モモはまだ大きくなっていない。

 子供と僕の2人だけでは『楽に殺せる』と勘違いするバカが出てくる。


 相手に楽に殺せると思わせてはいけない。

 頭数が必要だ。

 解散した元パーティーを仲間に入れてあげよう。


 ゲーム主人公の僕が仲間にすると言えばみんな喜んでパーティーに入るだろう。


 僕は女ヒーラーヨルナの元へ向かった。


「パーティーは組めないわ」


 ヨルナはモモの傷を見て顔をしかめた後に言った。


「理解できない。ゲーム主人公の僕が誘っているんだよ?」

「私はただ回復魔法を使っているだけで全く戦っていないわ。私はアレクの盾になりたくない」

「盾にするとは言っていないよ」


「モモだけずいぶんとボロボロね、それに痩せているわ。モモはアレクの事を怖がっているように見えるわ」

「モモ、そんな事は無いよね?」

「はい、アレク」


「言わせているわね。ともかく、パーティーは組めない。私は弱いのよ。お金を払えばモモを回復させる事なら出来るわ」

「それには及ばないよ」

「そう、傷ついたモモを回復すらさせない。やっぱりそうなのね。とにかく私は戦えないわ。私は弱いのよ」


 ヨルナは駄目だ。

 確かゲームでもヨルナのHPが低かった。

 転生してからヨルナはギルドで回復魔法を使っているらしい。


 体力を使っていない分ゲームより更に体力が低い可能性もある。

 それに足手まといが死ねば僕が悪者になりかねない。

 ヨルナは駄目だ。

 次はノワールとスレイアだ。


 次の日の朝にノワールとスレイアが来るのを待った。


「ノワール、スレイア、おはよう」

「どうした? 何で急に話しかけてきた? お互いに干渉しないと決めたはずだ」

「……おはよう」


「2人をパーティーに誘ってあげようと思ってね」

「断る!」

「私もいや」


 周りにいた冒険者が集まって来た。


「特別な僕が誘ってあげているんだ」

「断る!」

「いや!」


「僕がいれば光の加護で皆を強化できるよ」

「アレク、お前言ったよな! 『足を引っ張られたら困る』『邪魔だけはしないでね』と俺とスレイアに言ったよな!? お互いに干渉しない方が良いか俺は聞いた、その時同意しただろ!?」

「モモのように盾にされたくないよ」


 ノワール、スレイア、この2人は駄目だ。

 未来が見えていない。

 せっかくゲーム主人公で特別な力を持った僕がパーティーを組んであげると言ったのに。

 断るのはありえない。


「そうか、せっかく僕が誘ってあげたのに、後で後悔しても知らないよ」

「そうか、じゃあな!」

「……」


 ノワール・スレイア・ヨルナ、この3人は許さない。

 後で泣きついて来ても助ける事は無い。

 僕はちまちまとサブクエを進める2人を見送った。

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