第17話

 翌日の朝、この街最強はアレクだと、そういう噂が更に広まった。


 冒険者が話をしている。


「やっぱり最強はアレクだろ」

「ああ、大体、ラインが銀等級なのも疑わしいぜ」

「あいつ貴族だから本当は銅等級くらいで甘く見られてるんじゃないか?」


「あり得るよな」

「おい、アレクが来たぜ」

「俺聞いてくるわ」


 冒険者の男がアレクの所に向かっていく。


「アレク、おはよう。アレクって貴族のラインより強いのか? 噂になってるんだ」

「僕は強いけど、今はどっちが上か分からないよ。でも」

「でも、なんだ?」

「いずれ僕が間違いなく最強だ」


「アレクううううううう!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 アレクとモモがモンスターを納品する。

 森で倒した大量のモンスターが置かれて冒険者達は更に盛り上がる。


「あ、あの、モンスターが多すぎるので出来れば解体場で納品をお願いします」

「ああ、そうだったね、少なめに出したつもりだけどみんなにとっては多いようだ」


 アレクはストレージでモンスターをしまい、奥に向かっていく。

 そしてすぐに出てきた。


「さあ、今日もたくさんモンスターを倒して来よう」


 2人がギルドを出ていく。


 冒険者が俺の肩を叩いた。


「ノワールはどう思う? この街最強は誰だと思う?」


 俺は立ちあがった。


「最強はアレクになると思う!」

「私も最強はアレクになると思う!」


 嘘はついていない、ストーリーでアレクが兄を倒す。

 いずれアレクが兄を超える。

 冒険者が盛り上がる。


 どちらにしろアレクと兄は対立する。

 兄は俺じゃなく手アレクの相手でもしていて欲しい。

 そしてアレクに殺されて欲しい。


「やっぱりな、最強はむかつくラインじゃなくてアレクだぜ!」

「いつか2人で戦ってみて欲しいよな」

「おう、そうすればはっきりするぜ!」


 アレクも冒険者から多少距離を取られてはいる、だがそれを凌駕するほど兄は大きく嫌われている。

 俺とスレイアはアイコンタクトを送り合った。

 今この状況は都合がいい。

 目立つのはアレクでいい。


 兄は俺ではなくアレクに目が向く。

 そうなれば都合がいい。

 アレクがまともなら今の情報を流していたと思うが言う必要もない。

 言った所で『だから何?』とか『そんな当たり前のことを言いに来たの?』と言われそうだ。


 更にだ、アレクのさっきの行動は金持ちアピールと似ている。

 

『僕を殺せばたくさんのお金が手に入るよ』


 そう言って宣伝する存在、それが今のアレクだ。

 メインクエを進めるアレクはどうしても目立つ。

 メインクエはストーリーの進行に関わるイベントだ。


 一方で俺はサブクエをコツコツと毎日1件こなし、更に分割して少しずつモンスターを納品している。

 俺は目立たないだろう。


 嫌われている今、俺が目立つのは良くない。

 目立つなら街のみんなが俺の評判を変えてからだ。


 どこまで昔の悪い評判を覆せるかは分からない。

 だが、今は一歩一歩着実にみんなの評判が良くなり始めている。

 そして納品した報酬でポーションを買う。


 俺とスレイアは報酬を受け取ってもすぐに使う存在だ。

 つまり金持ちとは思われていない。

 不器用にポーションを浪費して毎日ダンジョンでモンスターを狩っている、そう思われている。

 そして金貨を貯めこまない為街にとっても都合のいい存在だ。


 みんなは俺の事をすぐポーションを使う不器用な人間と認識しつつある。

 他の冒険者がいる時、俺は攻撃の手を緩めて手加減している。


 サブクエで困った街の人間を助ける効果は大きい。

 俺の事を嫌いだった街の人がサブクエで助けてもらった事で俺の良い噂を流し始めている。

 この街はすぐに噂が広まる田舎のような環境だ。


 アレクにはどんどんストーリーを進めて欲しい。

 俺は地味にコツコツを続ける。

 俺は受付のカウンターに歩いた。


「ここにあるポーション5本を全部下さい」

「はい、たくさん買ってくれて助かります。ギルドの売り上げも上がります」

「むしろポーションを買えて助かっています」


 俺とスレイアはポーションを溜めた。




【アレク視点】


 夜になると僕はソファに寝ころぶ。


「モモ、水」

「はい、ご主人様」


「モモ、食事」

「はい、ご主人様」


「モモ、床が汚れている」

「すぐに掃除をします、ご主人様」


 モモは便利だ。

 僕は奴隷であるモモのご主人様でモモは僕の事を好きになる。

 それは決まっている。


 でもまだモモは成長しないのか。

 成長すればベッドの上で可愛がってあげるのに。


 コンコン!


「こんな夜中にお客さんですか? 開けない方がいいんじゃないでしょうか?」

「モモ、開けて」

「でも、」

「モモ、僕は強い」

「……はい、ご主人様」


 モモが玄関の扉を開けた。


 そこには4人の女が立っていた。


「こんな時間にどうしたの?」

「体を、一晩買ってほしくて来ました。あ、もちろんこの事は誰にも言いません。ですが、どうか1晩だけでも困った私達を買ってくれませんか?」


「4人とも中に入って」

「はい」


 4人が横に並んで立った。

 少し、目が険しい気がしたが見た目は悪くない。

 モモの前にこの4人を可愛がってあげよう。


「それで、いくら必要なの?」

「出来れば、あればある分欲しいです。いくらなら出してくれますか?」


 僕は無言でストレージから金貨と大金貨でパンパンに膨らんだ袋を出した。

 そして袋を開けると輝く金貨と大金貨を見せつけた。


「モモ、今日は眠ろう」

「で、でも」

「モモ」

「……はい、ご主人様」


 モモが2階に上がって行った。

 4人が僕を囲むようにして金貨と大金貨を見た。


「さすがアレク様です!」

「信じられません、こんなにたくさんのお金を手に入れられるなんて知らなかったです!」

「凄いです、素敵です!」

「お金を入れる袋のセンスも凄いです!」

「尊敬します!」


「いくらがいいのかな?」

「この袋の中、全部です」


 女が口角を釣り上げた。


 ザン!


「ぐあああ!」


 女が魔装の短剣を出して僕の腕を斬りつける。

 体の魔装は装備していたけど盾と剣は持っていなかった。

 その為攻撃を避ける事も防御する事も出来なかった。


 ザンザンザン!

 

 僕を取り囲んだ女が一斉に魔装の武器を出現させて斬りつけてくる。


「がはあああああああ! 魔装!」


 剣と盾を出現させて斬り返す。

 そして目の前にいる女にシールドを構えて突撃する。


 ドゴン!

 女1人が壁に叩きつけられて壁が壊れた。

 更にその女にショートソードを投げて接近して何度も剣で斬りつけて殺した。

 後ろにいた女が武器を投げて来る。


 ザクザクザク!


 僕の背中に剣が突き刺さる。

 殺す! 

 皆殺しだ!


 残った3人の女は金の入った袋を持って逃げ出す。

 3人の女は闇に紛れた。


 モモが下りてくる。


「ご、ご主人様!」

「なんですぐに来なかった!」

「ご主人様すいません」


 殺した女の髪を引っ張ってモモに投げつけた。


「ポーションが切れている、このままギルドに向かう。光の加護!」


 光の加護で少しでもHPを回復する。

 今はポーションが切れているのだ。

 何故か売り切れることが多い。


 モモに死体を収納させてギルドに向かった。

 ギルドに行けば回復出来るだろう。


 ギルドに着くと受付嬢が慌てて駆け寄った。


「家に奇襲を受けたよ。モモ、死体を出して、この女の他に3人にの女に襲われた」

「ポーションは使わないんですか?」

「無い、すぐに出してくれ」


「い、今ポーションは売り切れです。よ、ヨルナさんを呼んできてください!」


 後ろにいた受付嬢がギルドの宿屋に向かっていった。

 

「ああ、痛い、痛い痛い!」

「だ、誰か、冒険者の方! ポーションを持っていませんか!?」


 真夜中のギルドはガランとしていて3人しかいない。

 こいつらは駄目だ、儲けた金を全部酒に使うような人間だ。

 ヨルナを呼びに行った受付嬢が戻って来る。


「ヨルナさんは魔力切れのようで、その、回復できないそうです」

「く! 雑魚が」

 

 その後僕はしばらく待たされて、冒険者から定価の10倍でポーションを買った。

 この1本が無くなれば明日のモンスター狩りが出来なくなるのが理由らしい。

 お金を取られた僕はギルドに借金をしてポーションを買う羽目になった。


 最近おかしい。


 ポーションがよく売り切れている。

 ポーションの値段も高い。


 そしてヨルナはタイミングが悪くMP切れだ。




 アレクは気づいていない。

 ヨルナのMPは切れていなかった。

 だが解散前のパーティーで集まり食事をした際に『もしかしてゲーム主人公である僕に頼る為に食事に呼んでない?』と発言した事でアレクを助ける事をしなかった。


 更にポーションをノワールとスレイアが買い集めた為ギルドでポーションの売り切れが多くなった。

 人は無くなると思えば貯めこもうとする。

 ノワールとスレイアの行動が起点となり他の冒険者もポーションをストックし始めたのだ。


 そしてポーションを10倍の値段で売りつけた冒険者はアレクの人を見下した顔をよく思っていなかった。


 アレクは自分の行動が巡り巡って返って来た事で今の事態を招いた。

 そしてノワールの兄はアレク襲撃の失敗を知りアレクを完全にマークする結果を招いた。

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