第16話
夜のギルドで俺とスレイアが食事を摂っていた。
冒険者の男が酔ったまま近づてきた。
「ゴルドが死んだらしい」
冒険者の言葉に驚く。
俺は銀貨1枚を取り出した。
「どこで死んだの?」
「どうやって死んだんだ?」
「草原に向かう街道の途中、街道の横で死んでいたらしい。しかもだ、傷を見ると矢が突き刺さった後があった。 致命傷はナイフらしい、傷の深さから見てゴブリンじゃねえ、盗賊にやられたようだぜ」
「そ、そう、か」
「他に情報はあるかな?」
「恐らく、草原帰りの弱った所を襲われた、そのくらいだな」
「ありがとう」
冒険者に銀貨1枚を渡す。
「おう、ビールをジョッキでくれ!」
冒険者は貰った銀貨を即消費する。
「ゴルドの魔装は防御力が高い。それに鉄等級でもある」
「この世界はやっぱり危ないよね」
「そうだな。もっと仲間がいた方がいい」
「1人で街を出て移動すれば襲われかねないか。しかもストーリーに関係なく死んでいる」
「もう、私達5人の行動が変わっていてストーリーは崩壊してるよね」
「だよなあ。はあ、誰かパーティーになってくれる人がいればなあ」
パーティー2人は少ない。
盗賊に勝てると思われないまでも挑んだら厄介と思わせる必要がある。
そして時間が欲しい。
俺はサーバントが訓練を続けるほどに強くなれる。
時間は俺に有利に働く。
サブクエを進めればすべてが解決するわけじゃない。
盗賊が相手なら街の評判は関係なく俺達を殺しに来てもおかしくはない。
この世界は敵組織が多い。
どの組織がどのタイミングで敵対してくるか分からない。
そしてどんな手を使ってくるかもわからない。
時間と仲間が必要か。
ギルドの入り口が開いた。
会いたくない顔が見えた。
酔っぱらった兄だ。
「うい、ひっく、おい、ノワール、元パーティーのゴルドが、ひっく、死んだらしいな。まあ無理もない、ただの鉄等級冒険者が1人で街の外に出たんだ。自業自得だ。銀等級の俺くらいにならないと1人で出歩くのは危ない。1人で街を出るのはバカのする事だ。酒を持ってこい! ビールもワインも持ってこい!」
多くの冒険者が鉄等級以下だ。
兄は冒険者のヘイトを稼いでいる。
兄が金貨を出すとビールとワインがテーブルに置かれた。
そしてビールを一気に飲み干した。
「ぷはあ、何でゴルドじゃなくてお前が死んでない?」
「……」
「最強の俺にはとっちゃ、ひっく、どっちも同じだ」
兄が人差し指を突き立てて何度も俺の胸を突く。
ムッとしたスレイアが大きな声で言った。
「ええ!? この街で最強なのはアレクじゃないの!?」
「何だと!」
後ろで見ていた冒険者も大きな声で言った。
「この街最強はアレクだ!」
「今誰が言ったああ! アレクはただの銅等級だ! 誰が言ったああ! ノワール、答えろ」
兄が俺の胸倉を掴んだ。
「この街最強は誰だあ!」
兄だと言わせたいんだろう。
でも残念だったな。
思ったようにはならない。
「アレクです!!」
「表に出ろ!!」
兄が俺の胸倉を掴んでギルドの外に出た。
思ったより力が強くない。
それに兄は酔っぱらっている。
兄は俺を外に出すと外に出て見物する冒険者に怒鳴った。
「邪魔だ!」
俺はその隙に兄から逃げた。
「逃げるな!」
ああ、やっぱりだ、兄は酔いすぎている。
このまま人気のいない場所に誘い込んだ。
「この街最強は誰だ!?」
「アレクです!」
兄が拳を握り締めて殴り掛かって来た。
俺は闇魔法で拳を包んでカウンターで殴った。
「ぐっふぉお!」
そして倒れる兄に馬乗りになって何度も殴った。
「ぐぶえええええええええええええええええええええええ!」
兄がぐったりとして動かなくなった。
もっとダメージを与えよう。
俺は更に兄を殴った。
「コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン! コンフュージョン!」
更に俺は混乱の状態異常を使った。
状態異常は失敗する可能性が高い。
だが相手が弱り、しかも酔った状態なら効きやすくなる。
更に重ね掛けをしてある。
ノワールの記憶では気絶&酔い&混乱で最近の記憶を失ってくれるはずだ。
俺は皆から兄に追われているのを見られている。
この状態で兄を殺せば俺が犯人にされる可能性が高い。
みんなに見られていなければ兄を殺していただろう。
こいつはゲーム主人公と対峙するボスとして出てくる。
タイミングが悪かったか、いや、兄が俺に絡んでくるのはいつもギルドかギルド横の訓練場だ、誰かには見られていたか。
兄の懐をまさぐった。
金貨と大金貨の入った。袋がある。
貰っておこう。
後は帰って「必死で逃げてきた。兄は寝てしまったんじゃないか?」と言ってごまかそう。
体を洗って血を落とす。
ギルドの近くに歩くとスレイアが待っていた。
「ごめんね」
「いや、好都合だった。俺を庇おうとしてくれたんだよな?」
「うん」
「食事を続けよう」
2人でギルドに入った。
【ノワールの兄、ライングラフレイム・ダークネス視点】
「う、うう、ここ、は」
目を開けると部下の男がいた。
「目が覚めましたか。酔いつぶれて眠っていたんですよ」
「そう、か」
「ん、金貨の入った袋はどこだ?」
「ストレージに入れていませんか?」
「……いや、無い」
「きっと盗まれたのでしょう」
「誰かは分からんが忌々しい」
金はどうとでもなる。
だが取られた事に腹が立つ。
「私が発見した時ライン様は殴られていました。記憶はありますか?」
「いや、無い」
「話によればライン様は逃げる弟を追いかけていったそうで、本人の話では必死で走ったら追ってこなくなったとの事です。まさかとは思いますが、ノワールにやられたはずがありませんよね?」
部下の冗談で俺も笑う。
「はははははは! 面白い冗談だ」
「ええ、そんな事は天地がひっくり返ってもあるはずがありません。ライン様はこの街最強です」
「そうだ」
「ですが、ギルドでは間違った噂が広がっております」
「何だ?」
「その、怒りませんか?」
「怒らない、いいから言え」
「はい、この街、グレイフィールド最強は銅等級のアレクだと噂が広がっています」
「なんだと! なんでそうなる! アレクは銅等級だろう! 俺はその上の銀等級だ!」
「はい、そうですが民はそう言っているのです。しかもアレク本人はそれを認めているようで更に話がややこしくなっております」
アレクか、許せんな。
俺は銀等級、しかし奴は銅等級にすぎん。
今は弟のノワールよりもアレクの方が問題だ。
というよりも弟は草むらをはい回る芋虫と変わらん何も出来んゴミムシだ。
問題にすらなりようがないただのサンドバックだ。
アレクのふざけた勘違いは許されない。
「消しますか?」
「いや、そこまではいい、だが、そうだな。間抜けなアレクの醜態を街の民草に分からせてやらねばな」
「では、ぼこぼこにして痛めつけて全裸で朝の街に置いておく程度でどうです?」
「ふむ、いい匙加減だ」
「ではアサシンギルドに依頼を出しましょう」
「うむ。くっくっく、俺よりも上、愚かな平民とはいえふざけた勘違いは許されない、確かアレクはノワールの倉庫を買い取ってそこに住んでいたな、元々はダークネス家の建物だ。内部構造は分かっている。あの場所は人がいなくて都合がいい」
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