第15話

 サブクエを1週間続けた朝、いつものようにギルドで食事を摂る。


 酔った冒険者の話が聞こえてくる。


「ノワールのやつ、前よりまともになったよな」

「追放されて思う所があったんだろう」

「ノワールの家族がやばいからな」


「最近のノワールはモンスターを狩ってポーションを買っているみたいだぜ」

「どんだけダンジョンでポーションを使ってんだ?」

「ノワールは妙に謙虚になったよな」


「森にたった2人だけで行って毎日生き残っている。鬼教官の訓練はいい結果を生んだようだ」

「だが、今一番活躍しているのはアレクじゃないか?」


 活躍を見せる為に一番手っ取り早い方法はメインクエのクリアだ。

 俺はメインクエではなくサブクエを進めている為アレクの方が活躍していると名rのは当然だ。


 もっと言えば俺はサブクエの素材を集め終わっている。

 そして毎日1件サブクエをクリアしてモンスターの納品も少しずつ行っている。

 つまり今全部出せば評価してもらえる事をクリア前に止めているのだ。


「そうだな。アレクは活躍している。だが、なんだろうな。前よりアレクの性格が悪くなってないか? いや、いつも笑顔ではあるんだ。でも性格が前より悪く感じる」

「俺もそれは思っていた。別に何かをやられたわけじゃない、だがなあ、俺を見下したような目で見ている事があるんだ」

「それは俺も思った!」


「アレクとノワールの性格が入れ替わったように見えるのは私だけ?」

「……言われてみれば、入れ替わるまで行かなくても、アレクがノワールっぽくなって、ノワールがアレクっぽくなった気がする」


 俺の評判が変わって来た。

 この世界の人間は表裏が無くて分かりやすい。

 からっとしているというか擦れていないのがやりやすい。


 そして冒険者はアレクの性格に疑問を持ち始めている。

 受付嬢はアレクにサブクエを勧める事が無くなった。

 代わりに俺やスレイアに次のサブクエを進めてくるようになった。


「大分、ギルドの中の空気は良くなったよね」

「そうだな」

「皆で食事会をしない?」


「元パーティーでか?」

「そう、情報交換をしたいな」

「そう、だな、アレクも誘うか?」


「うん、一回だけ誘ってみたいかな、駄目だと思っても1回の食事会だけで済むし、それにこないなら来ないで性格が更に分かりやすくなるよ」


 スレイアは食事をして話すだけで性格を見切る気がする。

 確かに、1回だけなら何を言われてもいいか。

 デメリットは少ない。

 それはそれでいが思ったより性格が悪かったとする。

 付き合えないとはっきり判断出来ればそれはそれでいい、俺とスレイアの行動指針がはっきりするだろう。


「分かった」

「私の方で誘っておくね」

「頼む」


 俺はその日1人で森に向かってモンスターを倒しに行った。



 ◇



 その日の夜、スレイヤと一緒にギルドに入ると女ヒーラーのヨルナと男戦士のゴルドが1つ席を離して座っていた。

 スレイアが気を使ってゴルドとヨルナの間に座り、俺はゴルドの横に座った。


 遅れてアレクとモモがやって来て席に着いた。


「最初に乾杯をしよ」

「「乾杯!」」


 みんなで乾杯をするとモモがアレクを見た。


「ご主、アレク、全部好きに食べていいんですか?」


 俺とスレイアが同時にモモを見た。

 モモはご主人様と言おうとしてアレクと言い直した。

 そしてまるで普段こんな食事を食べていないような言い方だった。

 モモがアレクを見ながら少し怯えたような顔をしていた。


 いや、気のせいか?

 俺はアレクの性格が悪いと思っている。

 でも、そう思って接するのは良くない。

 今は食事会だ。

 思い込みを捨てて話をしよう。



「いいよ、たくさん食べよう」


 モモはアレクをちらちらと見ながら食事を食べ始める。

 お腹が空いていたのか食べるのが早い。


 食事は俺とスレイアが注文してお金を負担している。

 存分に食べて欲しい。


 アレクがスレイアを見た。


「それで、何で呼んだのかな?」

「うん、情報交換をしようと思って」

「僕が情報を出して何の得があるの?」


「……うん、無いかも」

「「……」」


 スレイアは無理をして話に答えた。

 みんながアレクを見た。

 スレイアからは出来るだけ穏便に済ませたいと言われてはいる。

 だが、

 

「スレイア、無理に聞かなくていいぞ。じゃ、俺から話す。情報を出すなら自分からだからな」


 まずは自分から情報を出そう。


「俺は3ヵ月間ストラクタさんの元で訓練を受けて」

「うん、それは知ってる」


 話の腰を折って来たか。

 でも、何を言われるか分からないと構えていた分イラっとはしない。


「そ、そかー。アレクが知らない情報を出す事は出来ないかもしれないな」

「ふ!」


 アレクがバカにするように笑った。

 アレクに情報を出す必要はない。

 もう話す気が無い。


「もしかしてゲーム主人公である僕に頼る為に食事に呼んでない?」

「そんなつもりはない」

「良かった。足を引っ張られたら困るからね」


「アレクはお互い不干渉がいい感じか?」

「そうだね、邪魔だけはしないでね」

「分かった。、みんなも特別な事は無いよな?」


 みんなが無言で話さない。

 何か言えばさっきのようにアレクに話の腰を折られる。

 話をしたくはないよな。


 アレク、もし困っても助ける必要はないな。

 それがよく分かった。

 利用されるのが嫌ならそれはそれでいい。


 大体俺はアレクを利用するような話を一切していない。

 アレクは放置でいい。

 アレクと関わっても良い事は無いだろう。

 アレクは食事が終わるとモモを連れて帰っていった。


「ふう、おし、みんなは今どういう生活をしてるんだ? 俺から話した方がいいなら俺から答えるけど」


 男戦士のゴルドが口を開いた。


「おいらは毎日草原でモンスターを倒して娼館に泊まっているっすよ」

「そっかあ、みんな訓練を受けなくても大丈夫なのか?」

「おいらたち元々鉄等級の冒険者っすよ? だらだら生きてても簡単にお金を稼げて楽勝っす。一応俺達ルーキーの中じゃエリートっすからね」


「そっかあ」

「私はみんなを回復してギルドで生活しているわ。ギルドが一番安全よ」


 ヨルナは俺とゴルドを見ない。

 嫌われているのは相変わらずか。


 残った4人は仲が良くないままぎこちない話を続けた。

 まだゴルドは話しやすかったけどヨルナは俺とゴルドを嫌っているようであまり口を開かない。

 途中からはスレイアが話を回して雰囲気が悪くない感じで食事会は終わった。




 スレイアと家に帰りベッドの上で抱き合った後に話をする。


「はあ、はあ、アレクとヨルナは近づくと良くない、戦士ゴルドはまだ話は出来るけど自分だけの感じがするよ」

「俺も同じ意見だ。でも、今回の食事会ではっきりした。元パーティーには関わらなくていい。気を使う必要もない。もやもやが1つ減ったのは良かった」


「うん、2人で一緒に動こうね」

 

 スレイアと唇を重ねた。




【男戦士ゴルド視点】


 食事会から1週間、草原でモンスターを倒して帰る途中、7人の盗賊が現れた。

 


「な、何でこんなところにボスがいるんすか!」

「ボス? なに言ってやがる。まあいい、モンスター狩りで疲れただろう? なあゴルド」


 7人がおいらを取り囲む。


「そ、そんな! まだイベントは起きていないのに! おかしいっすよ!!」

「いべんと? 何言ってやがる、ああ、そうか、今から死ぬ事を察したか。たまにいるんだよなあ、死を察して狂いだす奴が」


 おいらは斧を出現させて構えた。


「お、おいらに近づけばケガをするっす!」

「はっはっはっはは! やってみやがれ、お前はこれから死ぬんだ。殺してストレージにしまっているアイテムを出してそれを頂く」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 おいらは斧を振り回した。

 盗賊が弓を構えておいらに矢を放った。


「ぎいいいいい!」


 体に矢が突き刺さる。


「もっと撃て! もっとだ! どんどん撃ちやがれ!」


 おいらの体に矢が刺さっていく。


「動きが鈍くなったな、おらああ!」


 ザン!

 ザンザンザンザン!


 ボスがおいらの体をナイフで突き刺していく。


「ぐはああああああああああああ!」


「へへへへ、悪く思うなよ。ストレージのアイテムは俺達が使わせてもらうからよお、感謝しろよお! ぎゃははははははははははは!」


 そん、な。


 異世界ハーレムが、


 おいらの、ゆめ、が。



 その後、戦士ゴルドの死体が街道脇で発見された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る