第11話
スレイアのお母さんが美味しそうな食事を作ってくれた。
「ふふふ、2人でごゆっくり~」
お母さんがすっと部屋から出ていった。
実際にシテいるので否定は出来ない。
食事を摂りながらスレイアと話をする。
「アレクの性格は、やっぱ悪いか」
「……うん」
「モモの表情が硬かったな」
「アレクの事を怖がっていたね」
「俺にもそう見えた。スレイア、アレクの印象を教えて欲しい、多分俺には見えていない所もスレイアには見えていると思う」
「う~ん、きっと私とノワールで見ている部分が違うだけだと思うよ」
「そうだとしても教えて欲しい、多分、俺の認識は解像度が低い」
「分かったよ。アレクの前世はきっと学生だよ。それで前世でも勝ち組だったと思う」
「勝ち組か、そうかもしれない。言葉を聞くとすっと入って来る」
「うん、きっと負けたことが無いんじゃないかな?」
「ありそうだ」
「それと、勘違いをしてそう」
「勘違い?」
「うん、この世界で訓練をすると凄く強くなるよね?」
「成長スピードがバグってるよな」
「うん、でもアレクは自分が特別なゲーム主人公だから急成長していると思っている。だから私とノワールを見て見下していたんだと思う」
「……分かってきた。俺の事を鼻で笑っていた理由はそれか」
「きっとそう。だからゲームストーリーでは1週間訓練を受ける所でもアレクは訓練を受けていないんじゃない?」
「自分が特別な存在だと思っているから即報酬の多いメインクエと宝箱をゲットしに行った、か」
この世界で死んだら終わりだ。
俺の考えは死なない為に入念に訓練を行って自分を高める、そういう方針だ。
でもアレクはメインクエと宝箱を取りに行った。
アレクには光の加護がある。
あのスキルはどのスキルツリーでも関係なく取得できるチート能力だ。
「うん、それでね、街の噂とか色々な事を合わせて考えるとアレクは裏クエの事を知らないんだと思う」
裏クエは普通にゲームを進めていても中々発見できない隠されたクエストの事だ。
裏技のようなクエで報酬が破格でゲームバランスを狂わせるほど楽にストーリーを進行できるほど強力だ。
「裏クエ、いいな、行ってみようか」
「うん、午後は裏クエに行こう」
2人で裏クエの作戦を立てた。
家を出て筋トレと素振りをするサーバントを引き連れて街を出る。
街道を横に逸れて森でかがみ木をどけると背の低い木のトンネルがあった。
ハイハイをしながら先に進むと隠れるように洞窟の入り口がありガラの悪そうな男2人が地面に座って炭で炙った肉を食べていた。
こいつらは人さらいの盗賊だ。
「スレイア、これから人を殺す事になる。覚悟はいいな?」
「……はい」
はいの言葉で明らかに緊張しているのが分かった。
スレイアは人を殺すのに向かないように見えた。
この世界は安全ではない。
スレイアにも人を殺す事に慣れて欲しい。
サブクエでも裏クエでもたくさん人を殺す事になる。
俺は人を殺したことが無いが、行けるはずだ。
素早く走って盗賊1人を斬り倒した。
「がはあ!」
そして残る盗賊の首を斬る。
出来る、問題無い。
「はあ、はあ、スレイア、首を浅く斬っただけでまだ息がある。とどめを刺して欲しい。最初は思ったより緊張する。今ここで倒して欲しい」
「……うん、アイスランス!」
スレイアの氷のランスが盗賊の頭を貫いた。
「スレイア、汗が出ている、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「今回は出来るだけ俺が倒すから、後は俺が危なくならない限り後ろにいて欲しい」
盗賊2人をストレージに収納して洞窟に入った。
「んん? なんだお前?」
5人の盗賊が俺を見た。
「サーバント、殺せ」
「はあ!? 何を言って!」
ザン! ザンザンザンザン!
「「ぎゃああああああああああああ!」」
俺とサーバントで5人の盗賊を殺してストレージに収納した。
「隠し階段で地下に行こう」
「ノワール、大丈夫?」
「ああ、少し緊張していたけど、大丈夫だ。人を殺せる」
洞窟の奥に入り絨毯をめくって木で出来た板をめくると地下に続く螺旋階段が出てくる。
下に降りると岩を削って出来た家になっていて牢屋にたくさんの奴隷が捕まっている。
こいつらは街で人を攫って別の街に奴隷として売る事で金を稼いでいる。
ゲームと同じで盗賊は13人か。
盗賊のボスが俺を睨んだ。
「何だてめえ!?」
「盗賊を倒しに来た」
「はあ!? ぎゃははははははははははははははは! てめえらただのガキじゃねえか、しかもおまえ、嫌われ者のノワールだろ?」
「そうだけど、今それが関係あるのか?」
ボスが下品に笑うと周りにいた手下も笑った。
「ああ、ガキには分からねえか、ノワール、お前は嫌われている、殺してもいくらでもいいわけが出来る、そういうこった。おっと、後ろにいるのは、誰だったか、まあいい、そこの女は皆で可愛がった後にここにいるみんなと同じように別の街で売ってやるよ。ぎゃははははははははははははははははは!」
続いて盗賊の手下も笑う。
「「ぎゃはははははははははははははははははは!」」
「ノワール、私も戦えるよ」
「うん、分かった」
「なに言ってやがる、貴族の地位だけで鉄等級になったお前らに俺達を倒せるわけがねえだろうが!」
俺には悪い噂が流れている。
でも今は都合がいい。
俺が弱い、そう思われていた方が都合がいいのだ。
俺はボスの話を無視して横に飛んだ。
「セブンランス!」
俺が前に出ていた事でセブンランスの詠唱が見えなかったようだ。
「「ぎゃあああああああああああああ!」」
スレイアの撃った氷のランスが7本盗賊に突き刺さった。
「セブンランス!」
更に敵が怯んだ隙に2発目のセブンランスで盗賊が悲鳴を上げた。
俺はまだ戦えそうなボスに向かって剣を振りかぶった。
ガキン!
盗賊の持ったカタールで攻撃を防がれた。
だが次の瞬間、サーバント2体が死角からボスを斬る。
「ぐはああああああ!」
剣をボスの喉に突き刺すと戦闘が終わった。
盗賊をストレージに収納して物資もストレージに入れた。
そして盗賊が落とした鍵で牢の扉を開ける。
「皆さん! もう大丈夫です! 街まで送るのでついて来て下さい!」
みんなが少し怯えたように俺を見た。
みんなはこの街で攫われた。
みんなが俺の悪行を知っている。
転生前のノワールは街で一番悪い高校生のような存在だった。
そして俺は目の前で盗賊をためらいなく殺した。
俺は街の人間に信頼されていない。
「僕は街で悪い事をしてきましたが今だけは信じてください、後で何かを請求したりとかそういう事は絶対にしませんので信じて欲しいです」
俺は頭を下げた。
10代前半ほどの少女が前に出た。
「あ、ありがとう」
「うん、帰ろう」
少女が前に出た事で少女の後ろに他の女性もついてくる。
みんなを連れて街の門番の所まで送った。
門番に声をかける。
「皆を人さらいから助けましたがみんなは僕の事を怖がっているので後は皆さんで対応をお願いします」
俺は門番に頭を下げた。
「お、おう」
門番が驚いて頷いた。
俺が頭を下げた事が意外だったらしい。
その後ストラクタさんにアジトの場所を案内して盗賊の死体を提出し、事情を説明した。
この世界では盗賊は殺しても大丈夫だ。
そして盗賊から奪った宝は自分の物にできる。
窓の外が暗くなりギルドから出ようとするとストラクタさんが俺を呼びとめた。
「ノワール、お疲れ様だったな、今日はゆっくりと休んで欲しい。それとモンスターの分の報酬も合わせて用意が出来ている」
「ありがとうございます」
俺はモンスターを倒した分の報酬と盗賊を倒した分の報酬を受付嬢から受け取る。
受付嬢が渋い顔をしていた。
何かを考え込んでいるように見える。
「どうしました?」
「どうしてみんなを助けたんですか? ……いえ、失礼しました」
「ストラクタさんの教えを実行しました」
「え?」
「自分を変える為には行動を変えるしかない、ストラクタさんの教えを実行して人を助けました」
「そ、そうですか。今日はお疲れさまでした。ノワールさんのおかげで皆が助かりました、昨日納品したモンスターの報酬です」
「ありがとうございます、それでは失礼します」
受付嬢さんの対応が少しだけ柔らかくなった気がする。
多分、1回程度の善行じゃ周りは変わらない。
盗賊を惨殺している点も信頼が上がりにくいだろう。
今までのノワールが悪すぎた。
裏クエが終わったらサブクエもクリアしよう。
俺とスレイアは2人で帰り、そして一緒に寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。