第9話
2人で街に入った。
「今日はギルドに納品してから帰ろう、報酬は等分割な」
「私の報酬は、まだいいかな」
「でも、魔石で魔装を強化したいだろ?」
「私の家はお金持ちだから、限界まで魔石を使って魔装は強化してあるよ」
「そっかあ、でもこういうのはきっちりしておいた方が良いと思う」
「じゃあね、今はノワールが全部報酬を貰って強くなって。その後で均等割りにしよう。そうすれば後々私も収入を増やせるよ」
「スレイアって頭がいいよな」
「前世のお父さんとお母さんが色々教えてくれたんだ。どういう人が危ないか、信頼できる人はどういう人か、何度も話をしてきたから、今はノワールが報酬を貰って」
「分かった。スレイア、ありがとう」
「どういたしまして」
温かい気持ちになった。
昨日スレイアの両親も優しかった。
思えば前世では会社と家の往復生活、転生後は兄に殴られて訓練ばかりだった。
ストラクタさんは優しかったけど訓練はハードモードだったしギルドでは俺を信頼していない人の方が多かった。
ギルドの丸みを帯びた建物すら優しく感じる。
ギルドに入るとゲーム主人公のアレクとゲームのパーティーキャラモモがいた。
モモは猫耳少女で猫の尻尾が後ろで揺れる。
髪はミディアムヘアで桃色、瞳も同じ色をしている。
表情は優しそうで穏やかだ。
チャイナ服の魔装を装備しており格闘家タイプだ。
今は少女の見た目だがメインクエを進めていくと大人の姿に進化する。
人懐っこく優しい性格でゲームキャラとしての人気は高い。
森で発生するメインクエまで進んでいるのか。
俺は今日初めて森に行った。
アレクは俺に先行して先を行っているようだ。
アレクの左腕には円盾がついていた。
円盾とショートソードのスキルツリールート、防御に強いタンクタイプ。
アレクが前に出てモモが後ろからモンスターを攻撃する戦い方か。
いい選択だと思う。
受付嬢が笑顔のまま大きな声で言った。
「アレクさんの冒険者等級が引き上がり銅等級となりました」
銅等級は中級上位だ。
俺とスレイアは鉄等級で中級下位になる。
ゲーム序盤でアレクは下級の木等級だった。
そこからノワールの冒険者等級が下がるとアレクの等級が上がり成り上がっていく、そういうストーリーだ。
ストーリーではノワールのパーティーが何度も依頼を失敗して戦士ゴルドがモンスターに殺される。
そして木等級の黒色に冒険者ランクを下げられる。
だが俺は鉄等級のままだ。
大分ストーリーが変わっている。
「ゴルドって死んでないよな?」
「うん、今の所そういう話は聞かないよ」
「みなさん拍手をお願いします!」
パチパチパチパチ!
周りにいたみんなが拍手をする。
冒険者がアレクを褒めたたえる。
「アレクのやつ、立派になったな」
「ああ、ノワールのパーティーを解散して良かったんだろう」
「アレク、あいつはもっと伸びるぜ」
アレクが俺を見た。
「やあ、ずいぶんとボロボロだね」
ダメージはそこまで受けていない。
だが地面を転がり土を被った。
そう見られても仕方がないしわざわざ否定する状況でもない。
それに自分を大きく見せる気も無い。
俺は嫌われ者のノワールに転生した。
目立たず生きていった方が都合がいい。
「今日始めて森に行ってモンスターに吹き飛ばされたんだ」
俺は笑いを取る為に冗談のように言った。
「ふ!」
アレクがまるで俺を馬鹿にしたように笑った。
ああ、アレクはやはり性格が良くなさそうだ。
敬語を使って気を使う必要はないか。
「でもよかったね」
「ん?」
「まだゴルドは生きているし冒険者の等級も下がっていないよね?」
「ああ、そうだな。ゴルドは死んでないよな?」
俺は気になって聞き返してしまう。
「さあ、自分で調べたら? 何で僕に聞いたの?」
「お、おう、そうか、後で自分で調べよう」
アレクはいつも笑顔だ。
よく見なければ性格の悪さは分からないだろう。
受付嬢がアレクに声をかける。
「アレクさん、もし良ければこちらの依頼を受けてくれませんか?」
受付嬢がサブクエの髪をアレクに見せる。
「僕は今モモを育てる必要があるんだ。依頼は受けられない」
「そ、そうですか。すいません」
「僕は行くよ」
アレクとモモがギルドを出ていった。
モモだけが傷を受けているように見えた。
でもアレクはきれいなままだ。
サブクエは人助け的な依頼だった。
森のメインクエをクリアできるアレクなら楽にサブクエをクリアできるだろう。
でもサブクエは報酬が少ない。
ゲーム主人公のアレクなら困った人の為に依頼を受けていただろう。
でも転生したアレクは良くも悪くも合理的で無駄な事はしなさそうに見えた。
受付嬢は一瞬だけ俺とスレイアを見て依頼書を掲示板に戻した。
そうか、俺とスレイアは信頼が無い。
俺が人助けを受けるとすら思われていない。
依頼を受けようとすると驚かれて話が長くなるだろう。
転生前のノワールなら『今疲れてんだよ! 時と場所を考えろよ!』と言って怒りかねない。
仮にノワールが依頼を受けたとして後で受付嬢が文句を言われる可能性すらある。
今人助けのサブクエを受けると恐怖すらされそうだ。
「今は納品をしよ」
「そう、だな」
やる事が終わったらサブクエを進めよう。
今は信頼が無さすぎる。
「モンスターの納品をお願いします」
「はい、ここに出してください」
「でも、大きいのもいますよ?」
「大丈夫です」
「分かりました。出しますね」
俺は倒したモンスターの雑魚を出す。
洞窟・草原・森で倒した雑魚をすべて出した。
「あ、あれ? 数が多いですね」
そしてボススライムとボスウリボーを出す。
「え、ええええええええ!」
「はい、出しました」
「こ、こんなに!」
冒険者が俺とスレイアを見る。
周りから『どうせ自分を大きく見せる為に買ったんだろ』と良くない声が聞こえるが気にせず処理を進める。
「しょ、少々お待ちください。解体班の方みんなを呼んでください!」
受付嬢がみんなを呼んで処理を進める。
「解体後はすべて売りますか?」
「いえ、魔石だけは貰いたいです」
「かしこまりました。解体費用を引いた報酬の受け渡しには時間がかかります」
ゲームと違い査定に時間がかかるのだ。
「明日以降に報酬を受け取りに来てもいいですか?」
「はい、問題ありません。というかそちらの方が助かります」
「では失礼します」
俺とスレイアはギルドを出た。
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