第5話

 日々訓練を続けるとふと気になった。

 ゲーム主人公のアレクが訓練に来ない。

 ゲームなら1週間ストラクタさんの訓練を受ける訓練チュートリアルが始まる。

 1日3回の訓練を7日間行い、計21回分の訓練強化が出来るボーナスステージでもある。

 でも来ないのか。

 スレイアに聞いたらアレクはゲームのメインクエを進めているらしい。


 メインクエはメインクエストの略でゲームのストーリーを進めるためのイベントだ。

 チート持ちは訓練すら不要なのか。


 だが俺だって成長はしている。

 闇の魔法剣を作れるようになった。


 俺は両手を構えて剣無しで闇の魔法剣を作った。


「ノワール、よくやったな。後は弓でも斧でも槍でもそれの応用だ」

「ありがとうございます!」

「後は弓も斧も槍もその魔法剣の応用で使えるようになるだろう。弓・斧・槍の基本だけでも覚えておくか?」


「はい、覚えたいです!」

「分かった。訓練を再開する」

「オス!」


 訓練を重ねるほどに出来る事が増えていく。

 魔法剣士ではなくて魔法戦士になれるか。

 訓練は苦しい、自ら手を挙げる人間は少ない。


 それよりもダンジョンに行って手っ取り早く金を稼ごうとする冒険者が多い。

 この世界は基礎教育を受けていない人が多い。

 そうなってしまうのも分かる。


 教育を受けていた前世でも教師から『学生時代の体力は一生ものだ! 動けなくなるまで腕立てを続けろ!』と言われたらふざけるなとは思うのが普通だろう。


 俺は訓練を続けた。



 ◇



 俺の目の前に俺の形をした影が現れた。


「これで魔法剣の更に上のスキルだ。ノワール、サーバント、マスターおめでとう!」

「ありがとうございます!」


 闇魔法を覚えていくと、サーバントやスケルトン、更には影の手を操作できるようになったりと人によって個性のあるスキルを覚える事が出来る。

 俺の場合使える個性はサーバントだった。


 サーバントは俺に意識を投影して作ったオートで動く陰だ。

 俺のステータスの劣化版の能力を持つ為俺よりは弱い。

 そしてサーバントを作るには俺のMPがマックス状態ですべてのMPを消費して作る事が出来る。

 最大1体使役可能だ。


 一方でメリットもある。

 サーバントがダメージを受けたり魔法で魔力を消費しない限り睡眠や休息無しでずっと動き続ける事が出来る。

 そしてサーバントは闇魔法を固めて作ったスキルなので魔法剣は魔力消費無しで使える、魔法剣を作るイメージではなく、サーバントの体の1部を影を剣に変えるイメージで魔法剣を使用できるのだ。

 そして一度作ったサーバントはストレージに収納出来る。


 盾役や危ない場所に先行させるなど使い勝手は良さそうだ。


「あの、ストラクタさん」

「どうした?」

「サーバントが訓練をすると俺の能力が上がっているような気がします」


「そんな話は聞かない、だが、サーバントが動くことで意識を共有しているノワールの動きが良くなっているとすれば不思議ではない」


 プレイヤースキルが上がっている、そういう意味か。


「そう、ですか、そうかもしれません」


 俺はサーバントが走るほど体力が上がっているように感じていた。


 サーバントが魔装を装備している為かサーバントが普通に訓練をするだけで俺の魔装レベルが上がっているように感じていた。


 サーバントは魔法で作っている、その関係なのかサーバントが動くたびに魔力訓練の成果が出ている気がした。

 

 これは俺の勝手な願望なのかもしれない。

 サーバントを使う為には全魔力を消費する。

 ここまで頑張って覚えたんだ、だから恩恵がもっとあって欲しい、そういう甘えなのかもしれない。

 

 俺のそう思い込みたい気持ちが錯覚を生んでいる。

 よく考えればそこまで長い期間訓練をしていない。 

 異世界の体は成長率が高い、でもそれはみんなも同じだ。

 甘い希望を持ってはいけない!


 今は訓練に集中しよう。

 俺は訓練を続けた。



 ◇



 訓練を始めてから3ヵ月が立った。

 俺の横には2体のサーバントがいる。


「サーバント、邪魔にならない所で訓練を続けろ!」


 サーバントが訓練場の影で筋トレと素振りを続ける。


 俺は訓練場の出てから思いっきりジャンプをした。

 すると家の屋根に上がれるほどに高くジャンプ出来た。


 体力が上がっている。

 サーバントを2体同時に使役できるようになった。


「はっはっはっは! ガキか! ただただ体力だけを上げた所で圧倒的な魔装才能の前では無駄なんだよ! はっはっはっは!」


 いつの間にか来ていた兄が俺を馬鹿にする。

 兄は俺がただ走って筋トレをしているだけと勘違いしているようだ。

 そう言えば兄が見に来た時、俺は走っている事が多かった。

 訓練場の隅にいるサーバントを認識しているのかどうかも怪しい所だ。

 今は兄の事は忘れよう。


 1つはっきりした事がある。

 サーバントで訓練をすれば俺の能力が上がる。


 俺は今自分が訓練した経験値の他に今出せるサーバント2体分の経験値も得ている!

 俺はオートで強くなれる!


 待てよ、このサーバントの経験値取得能力ってチートじゃね?

 い、いや、まだ思い込むのは駄目だ。

 思ったよりはいい、でも今は結果が出ていない。


 兄と稽古をつけて勝ったわけでもない。

 メインクエで見てもゲーム主人公より先にいるわけでもない。

 スレイアの話ではゲーム主人公のアレクはメインクエを進めている。


 冒険者は口だけの人間を嫌う。

 まずは結果を出さなければ何も言えない。

 俺は転生してすぐ兄に殴られて負けている。


 ストラクタさんには斧・槍・弓も教えてもらった。

 魔法剣のように訓練をする事でそれらも使えるようになるだろう。

 サーバントには24時間ずっと眠る事無く訓練を続けて貰おう。


「ノワール、今までよく頑張ったな。俺が教えられる事は全部教える事が出来た、後は1人で訓練を続ける事が出来る」

「ストラクタさんのおかげです! 僕を信じてくれてたおかげで救われました!」


 ストラクタさんは感極まったように目頭を押さえた。


「そうか、そうか、まるでノワールとアレクが入れ替わったようだ」

「え?」

「……悪い、人の悪口は言えない、今の言葉は忘れて欲しい、つい感極まってしまってな」

「わ、かりました」


 後でスレイアに色々と聞いてみよう。

 ゲーム主人公のアレク、そしてパーティーのみんなはどうなったんだ?


「訓練は終了だ! 解散!」

「今までありがと」


 お礼を言いかけた瞬間に他の訓練生がストラクタさんに質問をする。

 お礼を言いそこなったな。

 ストラクタさんが手だけを上げて俺を見た。


 俺は忙しそうなストラクタさんに礼をしてその場を去った。

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