07
H先生の診療所は、二駅離れた場所にあった。
家の近所にも診療所はいくつかあったのだが、当日看てくれるのはそこだけだったのだ。一週間待ちならまだ良い方で、一ヶ月待ち、初診自体お断りの所もあったらしい。
夫に手を引かれ、フラフラになりながら診療所へと入った。診療所という場所自体は、大学時代に通っていた経験があるので、特段緊張はしなかった。
普通の内科でもあるように、まずは問診票を書かされた。現在服用している薬や、家族の状況、今の悩みなど。私はそれに、「明日から普通に会社へ行きたい」と書いた。その当時の切なる願いであった。
無料のコーヒーを飲みながら、長い長い待ち時間を過ごした。予約の患者が優先されるので、私の順番は最後の方となった。
診察室に入ると、50代くらいのカジュアルな服装をしたオジサンがそこに居た。私は朦朧とする頭をシャンと起こして、H先生に今までのことを話した。大学時代も心療内科に通っていたこと、自傷行為があったこと、ボーダー(境界性人格障害)の疑いがあったということ。
H先生はしばし考え込んだ後、こう仰った。
「過去にも罹られたことがあるということであれば、我々精神科医は、単なるうつでは無く、別のものを疑います。双極性障害です」
何じゃそりゃ、というのが、私の正直な感想だった。双極性障害なる単語を、私は今まで聞いたことが無かった。H先生は極めて丁寧にその病気の説明をしてくださった。
「普通に会社へ行けるようになりたいんですが」
その願いを打ち明けたが、先生の回答は、当時の私が予想だにしていなかったことだった。
「休職しましょう」
まさか、何故私が、という思いだった。そして、休職したくないと抵抗したが、様々な言葉で諭されて、渋々ながら納得した。
それからは、夫と一緒に本を読んだり、ネットで検索したりして、双極性障害という病についての知識を深めた。この一連の記事は、「診断されるまで」と銘打っているので、この辺りで筆を置く。
駆け足でまとめた一連の記事であったが、誰かの、何かの役に立てると幸いである。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
双極性障害(双極症)と診断されるまで 惣山沙樹 @saki-souyama
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