第4話 猫のエサは美味いか

 三カ月が経った。飼い主は現れず波は我が家の飼い猫になった。

 それに伴いチップも埋めることにした。もしどこかで迷子になっても安心だ。


 名前も決めた。

「トモ」

「にゃっ」


 トモ。


 波智也。


 波のフルネームから付けた名だ。

 名前を呼ぶと元気に返事をするのでトモもこの名前で良いらしい。


「ほら、ご飯だぞ」

 トモはタタタッとエサを入れた皿にやって来た。

 こいつは普段から元気がいいが、食事の時は特に上機嫌だ。

 トモには様々なフードやおやつを与えている。もちろん健康には気を遣っているし、猫じゃらしなどでの運動も忘れずにしている。


 トモが人間だった時、波と最後に話したのが「猫のエサって美味しそう」だったから。それを叶えてやりたい。

 そのせいで、ついつい新商品を見ると買ってしまうようになった。

 クラスメートと遊びに行って、コンビニに入ればペットフードのコーナーをチェックする。今や猫バカと呼ばれるようになった。


 トモは何でも興味を持ち、よく食べる。

 気に入らないものには少し食べて後は手を付けずに態度で示すのでわかりやすい。


 「見た目が美味しくなさそう」と言っていたドライフードも出してみた。案外いけるのかよく食べ、今もカリポリと小気味よい音を立てている。

 現在はウェットフードとドライフードを併用している。その方が多くの種類を食べられるだろうから。


 ウェットフードの方が食いつきが良く、ドライフードは製品によって好き嫌いが別れるようだが、どちらもよく食べた。

 トモは小さく丸っこい体で、「んみゃんみゃ」と言いながら目の前のエサに食らいついている。

 そんなに美味いのか? 


 猫になってまで食べたいほどに気になっていたのだろうか? 波、気になっていた猫のエサもおやつも与えたぞ。

 その味はどうだ?


「なぁ、猫のエサは美味いか? 教えてくれよ」


 食べ終わったトモの頭を優しくなでながら話しかける。

 猫のエサが美味しそうと言っていた。それは当たっていたか?

 答えを聞かせてくれよ。


「にゃー」

 一言だけトモは鳴いた。しっぽがぴんっと立っている。

 その様子を見るに、トモは満足している。

 しかし、言葉で教えてくれるわけではない。

 三カ月前まで、猫のエサがどーのこーのと話していたのに、もう同じ言葉で話すことが出来ない。人間ではないんだ。

 そのことに胸がきゅっと締め付けられた気がした。


「そうか」

 満足げで食いつきもいいから、きっと美味いのだろう。

 俺にはやっぱり美味そうには見えないし、食べたいとも思わない。でもお前にはごちそうなのかもしれないな。


 トモは何と言ったのだろう。

「美味いよ」「結構いけるぞ」「お前も食ってみろ」かも。食うのは遠慮する。

 そもそも、体が猫なら猫の味覚なのか? だとしたら人の味覚と猫の味覚じゃだいぶ違うだろ。

なぁ。 

 トモが「にゃーにゃー」話しかけてくる。

 俺は食わないからな。

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