ペルソナの九尾 * 恋と勇気と友情で! わたしはペルソナの九尾になって、みんなを守って願いを叶える!!

左近ピロタカ

しっぽ1本目『お狐様』に願いを!

 わたし望月唯子もちづきゆいこは、都会へ行くのをやめました。

 パパ、ママ。本当にごめんね、引っ込み思案なわたしで……。

 ムリこわい。知らない学校へ転校するなんて。

唯子ゆいこ。これからは、おばあちゃんの言うことをしっかり聞いて良い子にしてるんだぞ」

 ゴールデンウイーク最後の朝。望月家もちづきけの前で、転勤のために引っ越す両親とのお別れ。

 十歳で小学五年生で情けないけど、新しい学校で知らない人と話せない。

 今のクラスのみんなとでさえ、話すのムリこわいのに。

 なんにも気にせず話せるのって、パパとママとおばあちゃんだけ。

「……ごめんねパパ、ママ。一緒についていけなくて」

「いいんだよ。唯子ゆいこにとってこの家が一番だからね。おばあちゃんがいるから、パパたちは安心だよ」

「そうよ。それにこの家の、望月家もちづきけがきっと唯子ゆいこを守ってくださるわ」

「うん……。ママ……」

「パパとママの方こそごめん。転勤の準備で、ゴールでウイークはどこにも連れて行ってやれなくて」

「いいの。家にいるのが安心だから……。知らないところって、ムリこわい」

「そうか……。それじゃあ、行ってくるよ母さん」

「お義母かあさん。この子をよろしくお願いします」

「ええ。向こうに着いたら、すぐ唯子ゆいこに電話するのよ」

 ──行っちゃった。二人の乗った車がもう、あんなに小さくなって。

 今日から、看恵みえおばあちゃんと二人暮らしになるんだな。おばあちゃんは小っちゃいわたしと違って、背が高くてキリッとしてて頼もしい人。平気、さみしくなんかないはず。

「赴任先は遠いわね。でもびっくりしたわ。唯子ゆいこがあんなに嫌がるなんて、初めてじゃない? 引っ込み思案のあなたが、はっきりと自分を貫き通したのは」

 自分でも驚いてる。そんな勇気がどこにあったんだろうって。

 きっと……好きな人に告白しないまま、この町を離れるなんて絶対ムリ、イヤだから!

 やらなきゃ。今夜こそおまじないを、お願いを。

 昔からうちに伝わるに。どんなお願いも叶えてくれる、〝狐のお面ペルソナ〟に。

 だって、わたしだもの。引っ込み思案なわたしは、ペルソナに頼るしかない。

『クラスメイトの借表かりおもてせい君と、両思いになれますように』って。

「さて、お買い物に行ってくるわ。今夜はご馳走よ。お留守番、お願いね」

「うん…ありがとう、おばあちゃん」

 おばあちゃんが出かけた。ご馳走の材料を買うなら遅くなるはず。今のうちに!

 わたしは急いでリビングに行って、テレビボードの中を探した。

 あった。クッキーの青い缶。そっと取り出してフタを開けて。それは、シルクに大事に包まれている。傷をつけないようにゆっくりとはいだ。

 何度か見たことがあるそれは、下あごが無いだけの、狐の顔そのままだ。銀色みたいな白、耳の中と先っぽが赤くて。赤いアイラインがある目はつむっている。不思議。

 まつ毛が長くて女の子みたいな顔、のペルソナと一緒に姿見の前に立ってみた。

 ……鏡の中にいるのは、いつものわたし。

 肩までのストレートの黒髪。両耳を出すために趣味で作った髪飾りを挿している。

 眉尻は少しだけ下がってて自信のない目をして、いつも何かに困ってるような顔。

 思わずわたしは、ペルソナを被って顔を隠した。

 ペルソナの目が開いてないから、何も見えない。

「お願いしたら、告白する勇気がでるかな。ほんのちょっぴりだけでも……」

 おばあちゃんに、「恋を叶えるために使いたい」。って言ったら、叱られるんだろうな。

 そんな軽いお願いはダメって。叱られるの、ムリこわい。

 でも、仕方ないよね。わたしの人生がかかってるんだもの。こっそりとお願いして、すぐにまたここに戻せばいい。勝手に持ち出すのもダメだけど。

 でも、なんでクッキーの缶に入れてあるのかな? 本当は綺麗きれいな木の箱に入れて、神棚とか仏壇に置いておくよね? なんでテレビボードの中に置いてあるの?

               ◇ ◇ ◇ ◇

 夕ごはんの後、ペルソナを隠したリュックを持って神社の入り口まで走って来た。家のすぐ近くにあるから歩いても五分とかからない。

 石段が真っ暗。両側は星空が見えないほど木が茂ってて黒いトンネルみたい。

 ライトで照らしても怖いな。でも、恋を叶えるためよ。

 そうだ。借表かりおもて君のことを思いながら上がろう。彼はいつも、あいさつしてくれて話しかけてくれて。上手に返事ができなくても、優しくしてくれる。

 この春に同じクラスになった時からずっと。だから好きになった。

 明るくて背が高くてちょっとクセ毛で。ニコニコしてて。大きい黄色のお守りを持ってる。それから、それから……ってもう境内けいだい。ここはお賽銭箱さいせんばこが灯りで照らされてるだけ。

 暗くて誰もいなくてシンとしてて。風の音と木のゆれる音だけが聞こえる。

 注意して狛犬の間を抜けて、お賽銭箱さいせんばこの上にペルソナを置いた。

 大きな鈴を鳴らして。たしか二回お辞儀じぎをして二回、柏手かしわでとかいうのを打つんだっけ。

 ジャラン ジャラン ぺこり ぺこり パンッ パンッ

望月唯子もちづきゆいこがお願いします! どうか、わたしの恋が実りますように。借表清かりおもてせい君と両思いになれますように。どうか、どうか! ──お願いします!」

 念入りにお願いして、最後にもう一度お辞儀じぎ。これでいいはず。

 早くペルソナを戻さなきゃおばあちゃんにバレちゃう。──って?

「あれ? ペルソナって、こんなに明るい白だったかな」

 違う。光ってる! 光がだんだん強くなって。あ、あああ……。

「ワタクシを呼んだのは、あなた…?」

 ペルソナが喋った! ペルソナから、けもの!?

 怖い、ムリこわい! わたしは逃げた。ペルソナをそのままにして。

「なんで狐のペルソナから、狐が生えてくるのよ! ムリこわい!!」


「あああっ! おおおっ! お待ちに! なってくださいましぃいい!!」


 わたしが狛犬の間を走り抜けようとした時。変な日本語が境内けいだいに響いた。

 思わず狛犬の陰に隠れてしまって。ムリこわいけど、そーっとのぞいて見ると。

 ペルソナを被った白い狐が、お賽銭箱さいせんばこの後ろから体を半分だけ出してわたしに顔を向けていた。灯りに照らされているけど、体がボウッと光っているのが分かる。

 その姿を見たら、逃げようとは思えなかった。ムリこわいけど。

 なんか、隠れているようで。ひどく怯えているようで……。

 ペルソナごとプルプル震えているから。

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