91 曇りと大雪

「ああ、もう……! 毎日喧嘩ばっかり!」


 私はその状況に慣れていた。

 毎日友達の家に泊まるうみと違って、私はここにいたから……。

 少し我慢すれば二人は疲れて喧嘩をやめる。バラバラになった家族、同じ空間にいるのに……、何も感じられない。そしてどうすればいいのか、そんなことはもう考えないことにした。


 意味ないから。


「あんた、何してんの?」

「勉強……」

「こんな時に勉強か、真面目だね」

「うん、私には奏多とこれしかないから……」

「…………あんたはいいね。いつも……、周りの人たちに愛されて」

「そんなことないよ。私はいつもたくさんの人たちに囲まれているうみの方がずっと羨ましかった。みんなに愛されているのはうみでしょ?」

「てか、最近ずっと奏多くんと一緒にいるけど、付き合ってるの?」

「なんでそんなことを聞く?」


 その冷たい言い方でさりげなくそれを聞くんだ……。

 もう諦めたと思ったけど……、ずっとそれを気にしていたんだ。でも、奏多を独り占めしていた私にそれを言う資格はないからそのままじっとしていた。ほんの少し、うみも私と同じことを考えているんじゃないかなと思ったけど、それはさすがに無理だと思う。中学生になったうみはずっとクラスの人たちと遊んでいたから———。


 たくさんの人たちに囲まれていたからね。


「似合わない、迷惑よ。それ」

「…………」

「そのうち、私と付き合うからね。あんたは今みたいに部屋の中で勉強した方がいいと思う」

「…………」


 そう言いながら家を出るうみだった。

 そのうち私と付き合うって、どういう意味……? 奏多はもううみのこと気にしないと思うけど……、どうして堂々とあんなことを言い出したのかあの時の私はまだ知らなかった。


 そして大雪が降るある日、私は急に熱が出て全然動けない状態になってしまった。

 冬が寒いのは当然なのに、どうしてちゃんと体を温めなかったんだろう。急に熱が出てきて、あの日はずっと部屋の中で休んでいた。ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと薬を飲んで、そして奏多には心配をかけたくなかったから連絡はしなかった。


 一応……、風邪って言われたけど、どうしてすぐ治らないんだろう。

 早く奏多に会いたいのに、全然動けないし、体も重い……。本当に何もできなかったと。せっかく、奏多といい感じになったのにね。でも、風邪が治ったらまた一緒にいられるから、その日を待っていた。


「…………」


 部屋を真っ暗にして、温かい布団の中に入って、目を閉じた。

 すると、誰かが扉を開ける。


「お、お母さん?」

「…………」

「お母さんなの?」

「…………」


 何も言ってくれない。気のせいかな?

 熱のせいで夢なのか、現実なのか、よく分からなかった。そのまま気を失ったと思う。普通ならベッドでスマホをいじったりするけど……、それをする力すら残っていなかった。本当に大変だったからね……。

 

 ……


「ひな、体は大丈夫?」

「お母さん……。うん、熱も下がったし、体も重くない」

「よかったね」


 そして朝ご飯を食べながらスマホをいじる時、奏多からどんな連絡も来なかったことに気づく。普段ならラ〇ンや電話をするはずだけど、何もなかった。でも、奏多もいろいろ忙しいかもしれないから、深く考えないようにした。


「あっ! 奏多のお母さん! 奏多は家にいますか?」

「あれ? 奏多ならさっき学校に行ったけど? あれ? 一緒じゃなかったの?」


 一瞬、不安を感じた。


「あっ、そうですか? ありがとうございます!」

「はい〜」


 ふと思い出したうみの言葉。私がいない間……、何か起こったような気がした。


「あはははっ、そうなの?」


 そしてその予感は的中した。

 どうしてそこにいるの?

 廊下でうみと話している奏多を見た時……、私のすべてが壊れてしまったような気がした。ずっと「どうして」って自分に言い返していたけど、私にもよく分からないことだから、どうしたらいいのか分からなかった。


 それは聞くしかない。聞いてみないとどうしてそうなってしまったのか、分からないから———。

 納得いかないから。


「うん? あんたと関係ないでしょ? どうしてそんなことを聞くの?」

「…………だって」

「もしかして、奏多くんのことを自分の物だとずっとそう思ってたの?」

「…………いきなり? いきなりうみと一緒にいるのは……」

「何言ってるの? 私と一緒にいるのがそんなに変なの? 私も奏多くんのことが好きだったから、付き合って何が悪い? あんたの物じゃないよ、奏多くんは」

「…………」


 そうなの? 付き合ってるの? 二人は…………。


「だから、もう私たちの邪魔はしないで。ひな」

「…………どうして」

「どうしてって。あんたが倒れていた時、奏多くん一度も会いに来なかっただろ? なぜか分かる?」

「…………」

「風邪をひいた人はゆっくり休んだ方がいいから、私と一緒にいたよ? そして私はそこで告白をして付き合うことになったの。奏多くんの幼馴染は……あんただけじゃない。分かるよね? 私の話」

「…………」


 分かるけど……、理解できなかった。

 そして学校にいる時……、奏多はもう私に声をかけてくれなかったから。それに二人はしょっちゅう廊下でくっついていたから、私はうみの話を信じるしかなかった。どうせその話を否定しても私にできることは何もないから、ショックを受けてそのまま奏多を諦めようとした……。


「…………っ」


 あの日……、私は幼馴染の奏多を失った。

 また……、一人になってしまったんだ……。私は。


「…………」

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