85 触れたい③

 目の前にいるひなを見て、ちょっとやりすぎかな……とそう思っていた。

 でも、可愛すぎて止まらない。何時までやっていたのか分からないけど、俺たちはずっとベッドの上でくっついていた。それにぎゅっと握られた左手、耳元で我慢できないひなの恥ずかしい声が聞こえてくる。


 息が荒い……。ずっとキスをしていたからか? 分からない。

 それは本能だったから、頭の中はひなでいっぱい。それ以外のことは……、何も思い出せない。ひなしかいなかった。


「ううぅ……、か、奏多…………」

「うん……」

「体が……、ピリピリする……。力が入らない」

「起こしてあげようか?」

「うん……」


 裸の二人。真っ暗で何も見えないけど、その感触だけはちゃんと伝わってきた。

 膝に座ってさりげなく俺を抱きしめている。

 少し疲れているような気がした。でも、離れようとしない。そのまましばらくくっついていた。同じシャンプーの匂いと少し冷えているひなの背中、今ゆっくり息をしている。


「は、初めてだったから……。いろいろ怖かったけどね…………」

「うん」

「やっぱり、奏多とやるのは好きぃ……。私、奏多と繋がった時ね……。なんか、すごく気持ちよくて、どうしたらいいのか分からなくて……。その……、何を言えばいいのか分からなくて……、恥ずかしい声ばっか出しちゃった。えへへっ……」

「ごめん、俺も初めてだから……。ちょっとやりすぎかも」

「ううん……。これから少しずつ増やそう」

「な、何を……」

「何って……。さっきやったでしょ?」

「そ、そうかぁ……」

「これから……、私たちずっと一緒だし、卒業した後は……結婚する予定だからね」


 ぎゅっと俺を抱きしめるひながそのままじっとして、俺を離してくれない。

 そろそろ寝たいけど、ひなが寝かせてくれない……。

 なぜか、テンションがすごく上がっているような気がした。


「奏多……、部屋着と下着そっちにある? 見えない……」

「あっ、うん。ここにあるね」

「着せて……。私、動けな〜い」

「まったく……、子供かよ。ひなは……」

「へへっ。だって、奏多がずっとせ———」


 思わず、ひなの口を塞いでしまった。


「いや、そういうのは言わなくてもいいよ。じゃあ、下着着せるから。ひな、足!」

「は〜い!」


 そしてなぜか俺の頭に足を乗せるひな。顔は見えないけど……、くすくすと笑っている。


「ひな、なんだよ……。これ」

「なんか、やってみたかった……! 私はお姫様だから!」

「ちょっと……やばいところが見えそうだから、やめて……」

「…………奏多! 変態!」

「ええ、事実を言っただけじゃん。だから、なんで下着着せようとする俺の頭に足乗せるんだよ」

「私は……!」

「分かった。分かった! じゃあ、お姫様は今日裸で寝ましょう」

「着せて……」

「まったく……」


 ちゃんと下着と部屋着を着せてあげた後、電気をつけた。

 そして今度は他の意味で恥ずかしくなる……。

 なんか、ひなにやってはいけないことをたくさんやったような気がして、少し罪悪感を感じてしまう。


「どうしたの? 奏多」

「いや……、なんかごめん…………」

「何が?」

「キスマーク……、ちょっとやりすぎかも」

「そうなの? 気にしない。すごく気持ちよかったからね〜」

「そ、そうか……」

「それに私もたくさん残したし、いいの〜」


 そういえば、鎖骨のところが真っ赤になっている。どんだけやってたんだろう。

 そして両腕を広げるひなが「抱きしめて」って言っているように見えた。


「…………」

「早く〜」

「はいはい」


 でも、やっぱり信じられないな。今の状況———。

 幼い頃にはいつかこんな日が来るかもしれないと思っていたけど……、本当に来るとは思わなかった。ひなと最後までやって、今同じベッドでくっついている。夢かなと思ってしまうほど、今の状況がすごく嬉しくてたまらない俺だった。


「うう———っ! 気持ちいい! ずっと奏多とくっつきたい! 朝まで一緒にいよう!!!」

「バカなこと言わないで早く寝よう。ひな」

「ひん……。奏多冷たい。なんか、冷たーい!」

「今……、深夜だぞ? ひな……。なんでそんなにイキイキしているんだよ!」

「だって! 私奏多といっぱいや———」

「だから! 恥ずかしいことは言わないでって言っただろ!? ああ……」

「ひひっ」


 もう反論する力すら残っていない。疲れたな、俺も。


「奏多?」

「うん……?」

「寝てるの!?」

「ええ……、うん。疲れたからさ」

「ええ〜」


 いや、さっきまで疲れているように見えたけど、なんで回復したんだよ。

 やっぱりひなはよく分からないな。


「電気消すよ〜」

「はいはい〜」

「てか、ひな……。今日は寝かせてぇ……」

「なんか変なスイッチが入ったみたい、私」

「えっ? 何それ……。怖いんだけどぉ……」

「なんか、さっきまでいちゃいちゃしたけど、ちょっと足りないっていうかぁ」

「ええ、足りないの? ひな、足りないの……?」

「うん!」

「じゃあ、どうしたい? ひなは……」

「ふふふっ」


 まさか……? いや、そんなことはしないよな。今深夜の0時だぞ。

 そして堂々とゴムを見せてくれるひなだった。マジですか?


「まだたくさん残ってるから! 卒業するまで全部使うんだよ、奏多!」

「…………俺、居間で寝てもいい?」

「ダーメ!」

「ひ、ひなさん……!? や、やめてくださーい!!!」


 ……


 翌日の朝。スマホのアラームに目が覚め……じゃなくて、今寝ようとした。

 うわぁ……、アラームうるさーい。

 寝た気がしないのに、もう朝かぁ…………。


「…………」


 てか、なんで本人はそばですやすやと寝ているんだろう。悔しいな。

 もう少し寝よう。

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