86 晴れと曇り

 今日はいつもより遅く目が覚めてしまった。

 そしてそばには裸姿の奏多が私をぎゅっと抱きしめている。昨日はさすがにやりすぎたかもしれない。すごく疲れているように見えたけど、なんか悔しくて奏多を襲ってしまったから……。


「ふふっ♡」


 すっごく気持ちよかった。

 そしてなんか悪いことを覚えてしまったような気がしてね。自分でも上手くコントロールできない。でも、これで……奏多は完全に私の物になった。これから何があっても……ずっと一緒、その事実がとても嬉しくて、寝ている奏多にキスをしてしまった。


 私の……、物。


「ううぅ……」

「奏多〜、おはよー」

「も、もう朝かぁ…………。俺、寝た気がしないよぉ。ひなぁ」

「じゃあ、これから運動をしよっか!」

「やめとく……。そしてひな」

「うん?」

「服を着てくれ」

「どうして? 奏多も着てないじゃん。そして私……、裸のままくっつくのけっこう好きだよ。なんかエロくて気持ちよくて、いろいろ複雑だけどね」

「朝からそんなこと言わないでよ。恥ずかしいじゃん」

「ひひっ」


 ベッドでしばらくくっついた後、二人で朝ご飯を作る。


「食べる?」

「うん……」


 目の前でもぐもぐと私が作った卵焼きを食べる奏多。

 昨日、私が寝かせてあげなかったせいで今目を閉じたまま食べている。それも可愛い。そんな奏多を見て、思わず笑いが出てしまった。


「どうした? ひな……」

「ううん〜。なんでもなーい! そうだ! 奏多。今日休日だからね、一緒に出かけない?」

「いいね、行きたいところある?」

「まだ決めてないけど、奏多と出かけたい!」

「うん、分かった」


 朝ご飯を食べた後は当たり前のように一緒に歯磨きをして、洗顔をして、出かける準備をする。私たちは付き合ってないけど、奏多は普通の恋人みたいに私の服を選んでくれたり、私の髪の毛を梳かしてくれたりして、すごく楽しい。


 高校を卒業すると私たちは夫婦になる。

 そればかり考えていた。


「ひな、そのスカートは短くない?」

「これが可愛いの!」

「そ、そうか?」

「奏多はいつもエッチなことばかり考えているから、それはダメ!」

「ええ、昨日俺を寝かせてくれなかったのは誰だと思いますか……?」

「知らな〜い」

 

 ……


 今更だけど、行きたい場所は特に決めていない。

 何が食べたいのか、何が買いたいのか、何が見たいのか、そういうのはどうでもいい。今はただ奏多とこうやって歩きたいだけ。そんな気分だった。そうすると、忘れられそうな気がしてね。


「ひな。俺たち……、どこ行ってるんだ?」

「わかんない。えへへっ。奏多と出かけたかっただけだからね……」

「そうか。じゃあ、近所のカフェで何か食べよう。どー?」

「いいね!」


 実はずっと気になることがあって、別に気にしなくてもいいけど、それでも気になるから仕方がなかった。

 そしてドリンクを飲みながらしばらく奏多の顔を見ていた。


「奏多、それ美味しい?」

「うん。ひなも飲む?」

「うん!」


 奏多のクリームソーダを飲みながらまたじっと奏多の顔を見ていた。

 やっぱり、私……言い過ぎたかな。

 ずっとうみに話したことが気になって仕方がない。私は……、うみを理解するべきだったのか。ひどいことをされても、うみは私のお姉ちゃんだから……。なんか、ひどいことを言ってしまったような気がする。


 落ち込んでいたからね。うみ。

 そして……、みんなに愛されるって———。そんなことないのに。今更、後悔をしていた。


 私は……、うみのこと嫌いじゃないのに。

 どうしてこうなってしまったんだろう。分からない。そしてうみも……、どうしてあんなことばかりしているのか分からなかった。


「ひな、どうした? 気になることでもあるのか?」

「う、うん? どうして?」

「なんか、ずっと何かを悩んでいるような気がしてさ。それに……さっきからずっとぼーっとしてたし」

「えへへっ……」

「目的もないのに、いきなり出かけようとか……。ひならしくないからさ」

「実はね、ちょっと気になることがあるっていうか」

「何?」

「うみのこと」

「うみ……? どうして?」

「私ね、うみにひどいことを言っちゃった気がして。それがずっと気になる」

「何かあったのか?」

「チア服に着替える時、うみが私に声をかけたから」


 ドリンクを飲みながら、あの時のことを話してあげた。


「…………」


 私はうみがあんなことをしないでほしかった。うみは可愛いから、あんなことをしなくてもきっと好きな人を見つけるはず。なのに、なぜあんなことをするのか分からなかった。


 一体、うみは何を手に入れたかったんだろう。


「そうか、うみ……。仕方ないね」

「忘れたいのに、そう簡単にできないからね。そして復讐とか、私諦めたよ」

「そうなんだ……。実は俺もそれに意味ないと思っていたからさ。俺はひなと一緒にいるのが好きだっただけ、それだけだ」

「うん……。ごめんね、変なことを話して。でも、もういい! というわけで、ゲーセン行かない!? 奏多」

「いいね! 行こう!」

「うん!」


 そして奏多とカフェを出た時、私の視界にうみが入ってきた。

 また知らない男と一緒にいるうみを———。


「…………」

「ひな?」

「う、うん……! 行こう!」

「うん」


 どこから間違ったんだろう、私たち。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る