81 体育祭③

「どー! 奏多! 私のチア服!」

「ひなちゃん、早く行かないと……! みんな集合してる!」

「うえぇ……! ま、待ってぇ! 奏多〜!」

「…………」


 チア服に着替えてテンションが上がっているひな、すぐ如月に連れて行かれる。

 確かに、もうすぐ始まるから仕方ないよな。でも、どうして先に着替えたはずのひなが如月より遅かったんだろう。


 まあ、いっか。


 そして隣席の会長が俺の肩をつついている。

 そんなに可愛いのか、もう惚れてるし。てか、顔がちょっとやばいんだけど……。


「宮内くん……! 冬子が……、眩しすぎて、死ぬぅ!!! い、今死んでも俺に悔いはないと思う……。可愛すぎる!」

「今死んだら……、二度と如月に会えないんだけど……?」

「くっ!!! でも、心臓に良くないよ、あれは……」

「…………」


 そうだな、ひなもめっちゃ可愛いから……。

 あのリアクションも分からないとは言えない。

 中学一年生の頃にはあんなことしなかったから全然知らなかったけど、めっちゃ似合うし、めっちゃ可愛い。やっぱり、可愛い人は何をしても可愛い。やばい、可愛すぎて俺も会長と同じ反応が出るところだった。


「冬子……!!!」


 じっとひなのその美しい姿を見つめていた。

 まさか、あのひながチアをするなんて。

 やっぱり、生きていてよかったと思う…………。


「うぅ———っ! 早く冬子にあの言葉を言いたい! この体育祭が終わったら!」

「そうだな。この体育祭が終わったら……」


 会長は……、如月に告白をする。

 そして俺は……。


 ……


「奏多……! どうだった? 私! 可愛かったよね!」


 ジャージーに着替えたひながそばでニコニコしている。

 どうやらすごく楽しかったみたいだ。


「あっ、うん……! すごく可愛かったよ。ひな、頑張ったね」

「ふふっ、めっちゃ頑張ったからね!」

「ひなちゃん〜。この後、借り物競走だよ? 急いで」

「もう……、ゆっくり話したかったのに〜」

「仕方ないね。応援するから、ひな」

「うん!」


 借り物競走か、懐かしい。

 小学生の頃に一度やったことあるから覚えている。ひな、めっちゃ慌てたからさ。

 結局、俺が手伝ってあげたよな……。あの時は。


「行ってくるね〜」

「おう」


 そしてホイッスルの音とともに走り出すひな。

 何を引いたんだろう。なぜか、その場でじっとしていた。


「ん?」


 なんか、こっちに戻ってくるような気がするけどぉ……。気のせいかな……。

 いや、待って。やっぱり……、気のせいじゃない。ひながこっちを見て、走っている……。


 何を引いたんだ? ひな。


「急いで! 奏多! 行こう!」

「はあ? 俺? 俺が一緒に行かないといけないのか!?」

「そうだよ! 早く!」

「あっ、う、うん……! ちょっと、ひなそんなに急ぐと倒れ———」


 まさか、足が滑るとは……! ひなぁ!


「あっ、ひな……! 大丈夫?」

「あああ、足を挫いちゃった……」

「はあ?! こんな時に……!? マジかよ」

「どうしよう……。このままじゃ一位取れないよ……」

「じゃあ、おんぶしてあげるから早く……」

「あっ、うん! お願い! 奏多! 走って!」


 ひなは軽いから、そのままゴールまで俺が走るしかなかった。

 なんだよ……。俺が、ひなを、ゴールまで連れて行くなんて、これじゃ……小学生の頃と一緒じゃん。


「へえ、ひなちゃん。宮内くんにおんぶされてる」

「マジか〜。仲良さそうでいいな。でも、どうして二人は付き合わないんだろう」

「そうだね〜」

「あのさ、冬子……。俺……、冬子に話したいことあるから」

「うん? 今?」

「いや、体育祭が終わった後……、生徒会室で待ってくれない? 俺……、大事な話があるからさ」

「うん!」


 そしてこっそり二人の話を聞いていたりおがニコニコする。


「ああ〜、惜しい!!! 二位だなんて、私のせいだよ〜。ごめんね、奏多」


 マジで惜しかった。


「一位を取った人は帽子だったみたいだけど、ひなは何を引いたんだ?」

「私? えっと……、これ!」

「好きな人……? いや、なんでこんなわけわからないことが混ざってるんだ?」

「ふふっ、それ……多分冬子がこっそり入れたと思う。なんか面白いかも!って言ってた」

「マジか、あの生徒会大丈夫か?」

「ふふっ、私すぐ奏多のところに行ったよ? 褒めて! でも、そこで倒れなかったら一位取ったはずなのに! 惜しい!!!」

「仕方ないな。でも、けっこう楽しかったと思う。今まで、体育祭はずっと面白くなかったからさ」

「今年は楽しいよね? 奏多」

「うん……」


 ……


 今年はひなのチア服を見たし、一緒に走ったし…………。

 何年ぶりだろう、本当に……。

 そのままひなを保健室に連れていった。


「足は大丈夫?」

「うん! ちょっとびっくりしただけだからいいよ。ありがと〜。体育祭、あっという間に終わっちゃったね」

「そうだね」

「ふふっ。あっ、そうだ……! うっかりしたけど、私制服生徒会室に置いてきた」

「ええ、どうして?」

「チア服、うっかりして生徒会室に置いてきたから……。着替えた後、そのまま制服を生徒会室に置いてきたの。えへっ」

「マジかよ……。行こうか、体育祭も終わったし…………」

「はい〜」


 そういえば……借り物競走の後、ちらっとうちの席を見た時、いなかったよな。

 如月と会長……。


「そういえば冬子と会長、見えないね。さっきから」

「そうだね」


 そう言いながら生徒会室の扉を開けようとした時、ひなが俺の手首を掴んだ。

 そして「シーッ」と人差し指を唇に当てる。


「二人の話が終わった後、びっくりさせよう! ふふふっ」


 小さい声でそう言ってたから、俺もその場でじっとしていた。

 イタズラ好きだな、ひなは。

 そしてそのまましばらくじっとしていたら、生徒会室の中から会長の声が聞こえてきた。


「あのさ、俺……冬子のこと好きだから、俺とつ、付き合って……ください!」


 マジか、今のは……。

 なんで、生徒会室で……!? 告白してるの!? 会長。


「…………」

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