82 付き合えない

「なんで、生徒会室で告白をしているんだろう…………」

「奏多……、これは盗み聞きしない方がいいと思う。階段のところでしばらく待ってみよう……」

「うん……」


 体育祭が終わった後に告白をするってことは知っていたけど、まさか生徒会室でそれを言うとはな。それより……、堂々と付き合ってくださいはすごかった。俺にはできないことを会長は堂々と言い出して、ちゃんと「好き」って自分の気持ちを伝えていた。


 でも、俺とひなはずっと曖昧な関係……。はっきりと説明できないそんな関係。


「どうなるのかな〜。あの二人、お似合いだからね」

「そうだね」


 人けのない階段、そこでしばらくひなとじっとしていた。

 そして当たり前のように俺を抱きしめるひなを見て、俺もさりげなくひなの体を抱きしめてあげた。なんか、本当に付き合っているような気がする。今頃……、会長と如月は何をしているんだろう。


 すごく気になるけど、二人が出るまでひなと待つことにした。

 てか、めっちゃ甘えてくるね。両腕に力を入れて、ぎゅっと……。可愛い。


「二人とも……、遅いね」

「そうだね」

「でも、静かなところでくっつくの好きだから……いいかも」

「俺もそうだよ」

「私ね。冬子が初めて会長と会った時のこと、まだ覚えている……。廊下で教科書を拾ってあげたことがきっかけになって仲良くなったから。そして私が生徒会やってみたら?って勧誘して、冬子が生徒会員になったの。あの時、空気を読んだからね〜」

「そうなんだ……。ひないいことしたね」


 そっとひなの頭に手を乗せた。


「ひひっ、あの二人が付き合うとダブルデートできるから私楽しみだよ」

「…………うん」

「…………」


 ほんの少し、二人の間に静寂が流れた。

 そしてさっきからずっと俺を抱きしめていたから、ひなの顔が見えない。

 どうしたんだろう。


「奏多は……、ずっと私のそばにいてくれるから。私は……、あんなこと全然羨ましくない。全然……、羨ましくない。告白なんかしなくても、奏多はずっとそばにいてくれるから……」


 あ、やばい……。

 やっぱり、ひなもそれを意識していたのか。

 だから、さっきからずっと俺を抱きしめて離してくれなかったのかな……? 悪いことをしたような気がする。ずっとくっついてたから知らない方がおかしいよな。ひなも……、あの二人みたいになりたかったかもしれない。


「大丈夫……。私は気にしない」


 ここで話す気はなかったけど、俺も……会長みたいに自分の気持ちを伝えないと。

 どうせ、あの二人……時間かかりそうだから。


「ひな……」

「うん?」

「えっと……、ひなは俺とどうなりたい?」

「どう……って言われても」


 そう、この空気……。やっぱり、ひなは意識している。


「俺はさ、幼い頃からずっとひなと一緒だったし。今も……、ほとんどの時間をひなと過ごしている」

「うん……」

「俺には……、ひなしかいない。この気持ちは嘘じゃない」

「うん……」


 別に告白をするのが怖いってわけじゃない。

 ただ……、その言葉に意味ないとそう思っていただけ。俺が言いたかったのは、俺が欲しがっていたのは……、言葉だけの関係じゃない。これからもずっと……一緒にいたい。


 付き合うとか、そういうことじゃなくて。

 俺は———もっと。


「奏多?」

「俺……、ひなには付き合ってくださいとかそんなこと言えないよ」

「…………ど、どうして?」

「俺たちの間にその言葉……、意味あるのか?」

「…………」

「俺さ、前には……会長みたいに告白をしたかったけどさ。ひなといろいろあって、その言葉に意味がないとそう思っていた。付き合ってないのに、キスまでしたから。だから……」

「…………じゃあ、私とどうなりたいの? 奏多は」

「耳貸して」

「…………」


 幼い頃からずっとそう思っていた。

 仲がいい友達が俺を捨てても、俺は……ひながそばにいてくれればそれで十分だと思っていた。俺が欲しかったのはひなと付き合うことなんかじゃない。付き合うというのはゴールに辿り着くまでの過程だ。


 長い時間を一緒に過ごしてきた俺たちにそういう言葉はいらない。

 だから———。


「絶対幸せにしてあげるから、結婚しよう。ひな…………」

「…………」


 耳元でそう囁いた。

 まだ高校3年生である俺たちに、その言葉はちょっと早いと思うけど……、それでも付き合うという形は嫌だった。そしてみんなそんな風に言ってるから、俺もその真似をしたかっただけ。恋人なんかで満足できるわけないだろ。


 それはただの遊びだ。俺にはな———。


「うん!」


 そのまま階段でひなにキスをされる。

 ここ……、学校なのに———。


「私も……、そうしたいと思っていた…………。でも、最初は不安だったよ。奏多がそばにいてくれるのは嬉しいけど、はっきりと言ってくれないから……。私、好きという言葉だけじゃ不安だった……。口には出せなかったけどね」

「俺たちまだ高校生だから……、この話は早いと思っていた。それだけ。ごめんね」

「そうなんだ……。なんか、私……だんだん奏多に執着しているような気がして。ごめんね。でも、もっともっと……距離を縮めたいから」

「大丈夫、俺がいるだろ?」

「うん……! 好き!」

「好き〜。俺も。てか、ひな顔真っ赤!」

「奏多も一緒だよ?」

「そうかな……」

「うん!」


 その顔がすごく可愛くて、ひなの体をぎゅっと抱きしめてあげた。

 本当に我慢できなくなるほど可愛いからさ。ひなは……。


 ……


「あっちも上手くいったような気がする。よく聞こえなかったけど…………」

「そうだね。冬子……」

「ひなちゃん、可愛いね。それにずっと宮内くんとくっついてる!!!」

「あ、あのさ、冬子……」


 じっと冬子を見つめるりく


「陸くんもハグしてほしい?」

「う、うん……」

「うん……。いいよ、ハグしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る