80 体育祭②
「宮内くん、一位取れるよね? 任せた……!」
「会長」
「うん……」
「これ二人三脚だぞ?」
「うん……」
いや、分かっているくせに……、どうしてそんな顔をしているんだよ。
そういえば……体育祭前日まで凹んでいて、如月が元気づけてあげたって言われたけど、マジで大丈夫なのか生徒会長。しかも、頑張ろうって言ったくせに……、めっちゃテンション下がっている。
「会長! 頑張って!」
「奏多! 頑張って!」
「宮内! 一位じゃないと意味ないんだからね!」
そして後ろから聞こえる3人の声、めっちゃ応援してるじゃん。
一人、やかましいのが混ざってるけど……。菊池ぇ……。
「会長、如月が応援してるぞ。頑張れ、会長はできる」
「冬子……! そうだ。俺は今日……、体育祭が終わった後……!」
「そう、会長! 如月が見てるぞ」
「うん!」
「行こう!」
そしてホイッスルの音が聞こえてきた。
「だから、俺に合わせてくれぇ!!! 会長!!! 頼むからぁ!!!」
「あっ! そうだったな! ごめん! 宮内くん」
これはまずいな、前にいるチームとの距離が縮まらない。
まあ、会長がこういうの苦手だったのは知っていたから。仕方ないか。
でも、友達同士で何かをするのは久しぶりだから、悪くはないと思っていた。
「いち、に! いち、に!」
「会長。ゆっくりでいいから、早く……!」
「えっ!? ど、どっち!?」
てか、ちょっと走っただけなのに……、死にそうな顔をしている。
このままじゃどれだけ頑張っても一位を取るのは無理だから……、仕方がなく二位を狙うことにした。そして会長もだんだん慣れてきたような気がする。てか、ちゃんと練習したはずなのにどうして本番では上手くいかないんだよ……!
やべっ、抜かれた……。
「ううぅ……、ごめん。宮内くん」
「いや、もう少しだ! 会長」
「おう!」
ゴール……!
「三位……」
「いや、よくやった。会長、三位はえらいぞ」
「やっぱり、走るのは大変だね……。冬子にカッコいいところ見せてあげたかったけど……、無理だった」
「そんなことないから、みんなのところに戻ろう」
すると、後ろから背中を叩く如月がニコニコしていた。
「会長、宮内くん、頑張ったね! 三位、すごい!」
「と、冬子……! あ、ありがとう」
「ええ、宮内。三位なの……?」
「いや……、俺は精一杯頑張ったんだけどぉ……。なんだろう……、この温度差は」
「ふふっ」
「その顔、やめろ」
そういえば、ひないないな。
さっきまで如月たちと一緒にいたような気がするけど……、みんなのところに戻ってきたらひなの姿が見えなくなった。
「菊池、ひなは?」
「あっ、ひな先輩は着替え中〜」
「まさか!」
そばから脇腹をつつく会長がこっそり親指を立てた。
「じゃあ、私もそろそろチア服に着替えるからね。会長」
「うん!」
ひなのチア……!
「あっ、宮内絶対変なこと考えている!」
「菊池……」
「ビクッとしたでしょ。今」
「ちげぇよ」
……
「あっ! 冬子! 早く着替えて〜」
「ごめんね、会長が落ち込まないように元気づけてきたの」
「ラブラブだね〜、相変わらず」
「そう? ひなちゃんたちと比べると私たちはまだまだだよ……」
「へえ、そうかな? じゃあ、私先に行くから〜」
「は〜い」
急いで奏多たちのところに戻ろうとした時、後ろから感じられる人の気配にすぐ立ち止まるひなだった。
「楽しい?」
「…………」
声の主はうみ。
「楽しい?」
「何しにきたの? クラスメイトたちと仲良くなったじゃん。どうして私に声をかけるの? 今までずっと意地張ってたくせに———」
「付き合ってるの? 二人は」
「うみと関係ないでしょ? そんなに好きだったら……、どうして浮気したの? 幼い頃からずっとそうだった。何があったのか、はっきりと言ってくれない。そしていきなりわけ分からないことを話して、私を困らせる……。一体、何をすればよかったの? 私は」
死んだ目でひなを見ているうみ、二人の間にしばらく静寂が流れた。
「自分が浮気をしておいて、結局……奏多が欲しかっただけじゃん。前に奏多に声をかけて上手くいかなかったから、今度は私に声かけるの? 私と奏多が上手くいってるように見えるから、嫉妬したの? うみ……」
「私は……、やっぱり奏多くんのことが好き」
「いや、それは好きじゃない。他人の物が欲しいだけだよ……。なぜ、そんな簡単なことを知らないの?」
「あんたはいつも……、いつも……、お母さんと奏多くんに贔屓されたでしょ? 私はそれが嫌だったよ。ずっと……」
「うん、そう考えていると思ってた。あの時のお母さんはいつも忙しかったから、うみはお母さんがずっと私のそばにいたと思ってたよね?」
「違うの?」
「うん、違う。私は……、そんな風に見られるかもしれないから何度もお母さんに話していたよ。私のこともう気にしなくてもいいって。一人でちゃんとできるから、私じゃなくてうみと一緒にいてあげてって。でも、うみはいつも明るくてみんなと仲良く過ごしていたから……、多分お母さんはそんなうみを信頼していたかもしれない」
「…………バカみたいなことを」
拳を握るうみがその場でじっとする。
「お母さんがそばにいてくれたのは……、私が倒れた時だけ。あの時の私は何もできなかったから、ずっとお母さんに頼っていたけど、実は……うみと一緒に遊びたかった。私もうみと一緒に……楽しい思い出を作りたかった。なのに、うみはいつも私のことを無視していた……。それだけ、それだけだった。少なくとも……、私はうみのこと嫌いじゃなかった」
「…………」
「私はうみに復讐とか、そんなの考えていない。うみにされたことを全部覚えていても、うみが私のお姉ちゃんだったから……。復讐とかしないよ。そしてうみにこれだけ話しておくね。私にはずっと奏多しかいなかったよ、たくさんの人たちと仲良くしているうみと違って。私には奏多だけ。だから、私のたった一人しかいない大切な人を奪わないで……。頼むから」
「いつもあんただけだった。みんなに愛されるのはいつも……、ひなだけ」
「大丈夫。私は……みんなと仲良くしているうみが羨ましかったから……。だから、もういい。うみと話したいことたくさんあるけど、やっぱりいいよ。バイバイ、お姉ちゃん……」
そう言った後、みんなのところに戻るひなだった。
「…………」
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