76 仲良し

「おっ! 宮内くんと三木さん! 遊びに来たのか」

「そうだよ〜」

「まあ……」

「冬子ならさっきジュース買いに行ったからさ、そこで少し待ってくれない?」

「オッケー!」


 最近、よくこうやって4人で話しているような気がする。

 俺はあまり気にしていなかったけど、如月と仲良くなったひながしょっちゅう俺を生徒会室に連れて行くからさ。これも楽しい学校生活の一つだからひなにはまだ言ってないけど、たまに……会長と二人きりになる時があるから。それがちょっと苦手っていうか……。


 別に会長のことが嫌いってわけじゃないけど、なんかいろいろ聞いてくるからさ。

 俺とひなの関係について———。


「そういえば、二人はいつもくっついているね」

「そうだよ」

「羨ましいね〜」

「会長も冬子とこんな感じじゃないの? いつも二人きりで生徒会の仕事をしてるんでしょ?」

「ええ……、それは……否定できないけど……。あはは」

「ふふっ、早く付き合っちゃえ!」


 そう言いながらぎゅっと俺の手を握るひな。

 何も言わず、その場でじっとする俺だった。


「あっ! 冬子からラ〇ンが来た! 奏多! 私ちょっと行ってくるね〜」

「うん」


 そうやって、また会長と二人きりになってしまった。

 やっぱり、俺はこの空気苦手だ。


「可愛い彼女と一緒でいいな、羨ましいよ。宮内くん」

「そうか? 会長も如月とくっついてるだろ? 生徒会室で」

「いや、俺たちはまだまだだよ……。あははは……」

「そうか? まあ、会長なら上手くいけると思う。応援している」

「そ、そうかな?」

「うん」


 そして二人の関係がちょっと羨ましいっていうか……。

 あの二人、すぐ付き合いそうだからさ。

 しょっちゅうくっついているし、廊下で会った時も仲良さそうにハイタッチをしていたから。普通に今の時間を楽しんでいるように見えた。そんな二人を見て、俺もひなと付き合ったらあんな感じになるのかなと……、そう思っていた。


 でも、今の俺には一つ問題がある。

 それは今の関係と付き合った後の関係がどう違うのか分からないことだった。

 ひなのことを意識している。そしてひなのことが好きだ。そんな俺は……一体何をすれば付き合っているってことを実感できるんだろう。それは言葉だけの関係だと思うから、意味ないと思っていた。


 だから、二人を見た時、あの言葉が言える関係で少し羨ましかった。

 そしてどこから話せばいいんだろう。俺は……。


「でもさ、俺は女子経験ゼロだよ! 宮内くん!!! 上手くいくとか! そういうの俺はよく分からない!」

「そ、そうか……。今まで一度も彼女いたことないのか?」

「そうだよ、今までずっと勉強……。そして生徒会長ばかりやってて……。そんな人生を生きてきたからさ! だから、俺に教えてくれ! 宮内くん! 女の子とイチャイチャする方法を! 俺も! 冬子とイチャイチャしたい!」

「ええ……、そう言われても。俺、彼女いないからさ」

「えっ? 二人付き合ってないの? 嘘だろ?」

「うん、付き合ってない」

「ええ? 今は二人きりだから、嘘つかなくてもいいよ」

「いや、本当に付き合ってない。どうしてそう思ってるんだ?」

「いつも手繋いでるし、移動教室も一緒だし、お昼も一緒だし、体育の時も一緒だしさ。ずっと一緒だっただろ? 俺も冬子と仲良いけど、さすがにそこまでは無理だからさ」


 それは幼馴染だから……、普通にできることだと思うけど。

 そうか、それが付き合っているように見えたのか。


「ふーん。じゃあ、告白しよう。ひなに何も言えない俺がこんなことを言うのもあれだけど、好きなら……はっきり相手にその気持ちを伝えた方がいいと思う。イチャイチャはその後でやってもいいんじゃね?」

「さすがに……、キスマークをつけられた男!」

「それは忘れろ」

「そうだ! うっかりしていた。キスマーク……! つまり二人は! キスをしたってことだよな!? そうだよな!? 宮内くん!」

「まあ、そんな感じだけどぉ……」

「マジかよ! キスしたのか! 高校生なのに、キスを……!?」

「いや、それは高校生と関係ないと思うけど。もしかして、会長は冬子とキスがしたいのか?」


 そして「ドン!」と机を叩く会長だった。


「できれば……、そうしたい!」

「じゃあ、まずは如月と付き合ってみれば? 会長ならいけそう」

「それが言えないんだよ……! 下の名前で呼ぶようになったのはラッキーだと思うけど、なんっていうか距離感が感じられるっていうか」

「そうか……。分かりそうだけど、よく分からない」

「何!?」

「俺は会長とあまり話したことないけど、会長はいい人だし、如月もいい人だから上手くいけると思う。ただ……、そう思ってるだけ」

「宮内くん! お前、本当にいいやつだな!」

「そうか、会長……頑張れ。応援……してるから。あっ、そろそろ戻らないと」

「あ、そうだ! 宮内くん」

「うん?」

「俺たち、友達……だよな?」


 生徒会室を出る前に会長に「友達」って言われて、ほんの少しそれについて考えてみた。確かに、最近4人でよく話していたからさ……。友達とか……、あまり気にしていなかったかもしれない。


 ひながいたから———。

 でも。


「うん、友達」

「よっし! なら、また俺の話を聞いてくれ! 宮内くん!」

「うん、そうする」

「わっ!!!」


 そして扉を開ける時、外で待っていたひなが俺に抱きつく。


「びっくりしたぁ〜? 奏多」

「うん……。びっくりした…………」

「冬子! 遅いよ!」

「ごめんね、会長……。戻ってくる時に財布を落としてしまって……」

「えっ! それ大変じゃん! 見つけたの?」

「うん。ひなちゃんが探すの手伝ってくれたから」

「ふふっ!」


 俺に抱きついたまま、ドヤ顔をするひな。

 さりげなくその頭を撫でてあげた。


「奏多! 今日もうちくる?」

「そうだね、行くか……。どうせ、うち狭いし…………」

「そうだね。でも、いちいちうちくるって聞くのも面倒臭いから……。私と同居するのはどう?」

「ううん……。それはちょっと考えてみる」

「うん!」


 そう言いながら生徒会室を出る二人。

 そして「同居」という言葉にすごいショックを受けた生徒会長が、そのまま固まってしまった。


「会長?」

「冬子……。あの二人は本当に付き合ってないのか…………?」

「あはははっ。いつもあんな感じだから、慣れた方がいいよ」

「やっぱり、宮内くんはすごい人だな」

「そうだね〜。あっ、会長のも買ってきたよ。は〜い」

「ありがと! 冬子!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る