67 マイナス②
それでも、まだ終わってないと———。
俺は勇気を出して、ひなに声をかけることにした。
ちゃんと謝って、再び友達になりたい。そのまま諦めてしまうと、本当に俺のすべてが消えてしまいそうだったから……。愚かだった。もっと我慢するべきだった。あんなことするんじゃなかった。
俺は一体……何を言ってしまったんだろう。
ずっと自分のことを責めていた。
そして冬休みが終わる前、俺はひなの家に行った。
どうしても、仲直りがしかったから……。でも、扉を開けてくれたのはひなじゃなくてうみだった……。
この時間に家にいるはずないのに、なぜか深刻な表情で俺を見つめていた。
ふと不安を感じてしまう。体が弱いひなをあんなところに呼び出して、告白をしてしまったからさ。きっと怒ってるんだろうな。
「えっと……、うみ」
「奏多くんだ……。ひなに会いに来たよね? でも、今日はちょっと…………」
「な、何かあったのか? うみ」
「ひな……、ずっと部屋に引きこもってるからね」
「…………」
「最近、夕飯もあまり食べないし……、具合悪いのかな? 分からないね。奏多くんは何か知ってる?」
「いや……、何も」
「そうか……」
そのまま中学2年生になるまで俺たちは会えなかった。
何度も……ひなの家に行ってみたけど、行くたびに「今日はダメ」ってうみにそう言われたから。仕方がなく、あの日から俺は一人ぼっちになってしまった。ずっとひながいない日々を過ごすしかなかった。
その時間は俺にとって地獄そのものだったから、だんだん暗くなってしまう。
もう何も残ってないような気がした。
「奏多くん」
「うん?」
「ひなと何かあったよね?」
「何も……」
「嘘、最近……全然来てくれないじゃん。しょっちゅううちに来たのにね」
あれからけっこう時間が経ってけど、ひなはずっと俺を避けていた。
「…………」
「もしかして……、ひなに振られたの?」
「…………」
うみの話に動揺してしまう。
どうしたらいいのか分からなかったから、何も言わずうみの前でじっとしていた。
すると、俺の手を握るうみが笑みを浮かべる。
「大丈夫……。私がいるんでしょ? ひなに嫌われても私がいる! 私と楽しい学校生活を過ごせばいいじゃん。そうだよね? 奏多くん」
「うみ……」
ひなと俺の関係が完全に壊れた後、俺はほとんどの時間をうみと過ごしていた。
もちろん、学校にいる時だけ。学校が終わった後は……、ずっと部屋に引きこもっていた。うみは積極的で友達が多いから、学校にいる時は問題なかった。いつもの通り、俺はクラスメイトたちと何もなかったように遊ぶ。でも、なぜか悲しくて虚しくて、その感情をどうすればいいのか分からなかった。
生きがいを失ってしまったような気がする。
ずっと一緒だったのに、ずっとそばにいたのに、いきなりいなくなったから。
それが俺を苦しめていた。
「…………」
そして廊下で偶然ひなと会っても、俺たちは声をかけなかった。
2年生になる前までずっと俺のことを避けていたから、俺は何も言えなかった。でも、ひなに「どうして?」って聞きたかったんだ。ずっと避けてきた理由、その理由くらい教えてくれてもいいだろ? と。結局その理由は聞けず、俺は意味のない時間を一人で過ごしていた。
そしていつかひなと仲直りできるとそう思っていたのに……。
知らないうちに変な噂が校内に広がっていた。
それはひなが男たちに媚びを売るって噂。そんなことないと思って、俺はすぐ周りの人たちに聞いてみたけど……、数日前からいろんな男たちに声をかけていたらしい。正確に何があったのかは分からないけど、いつの間にか男好きという噂も広がっていた。
中学2年生になったひなは1年生の時よりもっと可愛くなったから。
あんなくだらない噂は無視することにした。
でも、ひなはどうして男たちに声をかけたんだろう。すごく気になるけど、みんなひなのことをただの「男好き」だとそう話しているだけだから、役に立たない。俺が知っているひなはあんなことをするような人じゃないのに、どこから間違ったのか分からなかった。
そして———。
「ああ、北川ひなのことか? 可愛いよな〜。正直、俺はうみよりひなの方がもっと可愛いと思う」
「それな」
「俺もどっちかと言うとひなだな」
「だよな。いつも可哀想な顔をしているっていうか、その自信なげな顔を見ると俺の中から何か湧いてくる! たまんない! めっちゃ可愛い!」
「やっぱり、やるならひなみたいな女の子がいいよな〜。ちょっと褒めてあげたら、すぐやらせてくれる感じだからさ。あははっ」
「そうだよな。決めた! 俺ひなちゃんと同じクラスだから、声かけてみる!」
「羨ましいな〜。俺もひなちゃんと同じクラスになりたい」
「一応、告白してみようか……」
「はあ? ひなは俺の物だぞ! 俺が先に告白する」
「はあ? お前ら何を言ってるんだ! ひなは俺と付き合う予定だ! そして! ひなとやるのは俺だぞ! というわけで、順番通りにお願いします」
「なんだよ、その言い方。あはははっ」
校舎裏であんなことを話していて、思わずあいつらを殴ってしまった。
汚い……、その汚い口でひなの名前を言うな……。
「なんだよ! お前!」
「こいつ……、いつもうみのそばにいるや———」
「うん、お前は黙った方がいいな」
「くっ……!」
「くっそ! お前っ———」
「お前も……、黙った方がいいな」
「いや、俺たち何もしてねぇぞ? 宮内」
「何もしてない? そうか、なら俺も何もしてない。お前らが忘れれば、俺がやったことはなかったことになる」
あの噂が校内に広がって、こいつらみたいなやつがだんだん増えていた。
ひなはちゃらい女だから誰にもチャンスはある。
どこからあんな噂が広がったのか分からないけど、みんなひなのことをそう思っていた。でも、本人はその噂にどんな反応もしなかった。
「くっそが! 宮内奏多!」
「…………」
「やめよう……。もういいだろ? 宮内」
「…………」
すごく寂しかったけど、俺にできるのはこれだけ。
意味ないことって知っているけど、他の選択肢がない。
あいつらがセクハラに近い話をするたびに我慢できなくなる……。時間がどれだけ経っても俺はひなのことを忘れられなかったからさ。ひなのためならなんでもするって誓ったからさ———。
「…………」
俺ってやつは一体何がしたかったんだろうな。
もう終わったのに……。ひなと。
そしてだんだん傷が増えるだけだった。
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