64 プラス④
髪の毛を切ってイメチェンしたとても、いきなり友達ができるのは無理だった。
だから、しばらくの間ひなのそばにいてあげるしかない。
一緒にいるのは嫌いじゃないから、学校にいる時はずっとひなのそばでひなに声をかけていた。クラスメイトたちとあまり話さないひなだったから、俺がいない時はいつもクラスの隅っこで静かに本を読んでいる。
それが気になって仕方がない。
そしてひなのお母さんと約束をしたからさ———。
「ねえ、奏多」
「うん?」
「やっぱり、友達を作るのは難しいね……。どうやって声をかければいいのかよく分からない」
「確かに、タイミングが良くないね」
「うん。でも、私には奏多がいるから…………。寂しくない……」
そう言いながら俺の手を握るひな。
その小さくて温かい手はずっと忘れられなかった。
……
そして小学5年生の頃から、俺はひなに集中することにした。
その前までは時間がある時だけ。俺はずっとひなと友達の間でどっちかを選ばないといけない状況に陥っていた。そしてクラスメイトたちとなかなか仲良くなれないひなを見て、俺はずっと心配していた。前より楽しい学校生活を過ごしてほしかったけど、上手くできなかったからさ。どうしたらいいのか悩んでいた。
そして三木さんとの約束を思い出す———。やっぱり選ばないといけない。
ひな、あるいは友達。
もちろん、友達との関係も重要だけど……。
それよりもっと重要なのはひなが幸せになることだった。ほとんどの時間を俺と過ごしたとしても、それだけじゃ足りないから。もっとたくさんの人と仲良くなって、ひなが楽しい学校生活を過ごせるようになること。そうさせるのが俺の役割だった。
でも、ひなはクラスメイトたちとの距離を縮めなかった。
時々、何かあったような顔をして———。
ひなに何があったのかは分からないけど、あの時のひなは「できない」とそう言ってくれた。そして「私には奏多がいるから、それで十分だよ」と……、それを聞いた時、俺は選ぶしかなかった。
ひなを———。
それからひなだけ、本当にひなだけだった。
みんなと遊ぶのも、うみとの約束も、できれば……自分のことも。全部捨てた。
ひなを優先していた。
……
「最近、よくうちで遊ぶようになったね。ひな」
「め、迷惑かな……?」
「ちょっと不思議だなと思っただけ」
「私……、迷惑……? 奏多」
「そんなわけないだろ? ごめん、もうこんなの聞かないから……」
「うん……」
なぜか、ぎゅっと俺の手を握っていた。
もう家に着いたのにな。
「お風呂……一緒に入ろう。体が冷えているよ、奏多」
「うん、そうしよう」
そして俺たちは当たり前のように服を脱ぐ。
でも、俺はずっと気になっていた。どうして俺とこんなことをするのか、俺たち小学5年生だから「恥ずかしい」という感情はとっくに覚えているはずなのにな。少なくとも俺はひなのことを「女の子」だと認識していた。
それはもう隠せない———。
「奏多、バスタオル持ってきたから。どうしたの?」
「いや、なんでもない。なんでも…………」
「熱……? 顔、赤い……」
「お湯が熱いから……」
「そうなんだ……」
学校にいる時はいつもひなと話をして、お弁当も一緒に食べて、帰る時も一緒。
そして家に着いたら夕飯を食べる前に、一緒にお風呂に入る。
そんな日常を過ごしていた。
そして……今さりげなくひなの体を触っている。あちこち…………。
「はあ……、奏多が体のあちこち拭いてくれるの気持ちいい…………」
「ひなぁ……。もう小学5年生だろ?」
「私は奏多がいないと何もできないの。そして奏多と一緒にいるのが好きだからね」
なぜか、シャンプーを渡すひな。
「待って、ひな。まさか、シャンプーも俺にやらせるつもり……」
「うん! もちろん!」
これじゃまるでお兄ちゃんみたいな……。
「はあ……、あたたか〜い」
「俺は疲れたよ、ひな……」
「へへっ、ぎゅっとしてあげよっか? 奏多! 漫画で読んだよ? 女の子がぎゅっとしてあげると、男の子は力が出るって!」
「断る」
「えっ!? い、嫌なの?」
「嫌とかじゃなくて、ひな今裸だよね?」
「そうだけど……? 奏多も裸でしょ?」
「…………」
首を傾げるひなに、俺はどう話せばいいのか分からなかった。
意識していると思っていたけど、やっぱりひなは俺のことをただの幼馴染だと思っているかもしれない。別に意識してほしいわけじゃないけどさ……、ずっとこのままじゃいつか大変なことが起こりそうだから———。
でも、俺は何も言わずひなの方を見ていた。
いや、何も言えなかった。
ぼとぼと、髪の毛から水滴が落ちる。
「ぎゅっとしてあげるからね」
「はいはい……」
「ふふっ」
そして真っ赤になったひなの耳に気づく。
「ひな、大丈夫? 耳真っ赤になってるけど?」
「うん? べ、別に……。風呂に入ってるから……」
「そうか?」
「ねえ、奏多」
「うん」
「奏多はずっと私のそばにいてくれるの?」
「えっ? いきなり? なんで、そんなことを聞くの? ひな」
「私は奏多がそばにいてくれれば……、それ以外何もいらない。奏多がそばにいてあげるって言ってくれれば……、私幸せになるの」
幸せか、その話を聞いて少し悲しくなる。
「ねえ、ずっとそばにいてくれるよね? 奏多」
「うん、当たり前だろ? ひな」
すると、両腕に力を入れるひながぎゅっと…………。
そして俺も……ぎゅっと抱きしめてあげた。
「私の旦那さんになってほしい…………」
「えっ? ひな、今何か言ったのか? ごめん、声が小さくてよく聞こえなかった」
「なんでもない……。なんでもない! えっと、奏多が私に惚れたなと思ってね」
「えっ!?」
「ふふっ。そうでしょ? 私に……惚れたでしょ!」
「べ、別に……?」
「えっ!? そ、そうなの? 私、きっと……私に惚れたと思っていたのにぃ」
「どうして?」
「奏多……、たまに私の前で照れてたから……。顔が真っ赤になったり……」
バレバレだったのか。
「…………っ。じゃあ、ひなは?」
「私は! 幼稚園に通っていた頃から、奏多に惚れてたよ! だから、ずっとそばにいてほしいの」
「そっか……」
「うん!」
堂々と言ってるね、ひな……。
俺はめっちゃ恥ずかしいよ。
「お、俺も…………そうだけど」
「ひひっ、だよね〜」
顔が真っ赤になっているような気がする。
そしてひなも———。
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