60 執着

(???) 今日は無理だ、バレそうだから。


 せっかくここまで来たのに……、来ないってこと……?

 待ち合わせの場所で30分くらい待っていたけど。

 まあ、どうせ……今頃どっかの可愛い女の子と遊んでるはずだから、今日はこの辺で帰ろう。あの人以外にもたくさんいるからね、クズは———。そしてあんなことでいちいち怒るのも面倒臭いし、私らしくないから諦めた。


「…………」


 いつもと同じ静かで暗い家、また……一人。

 そのままお風呂に入る。


 やっぱり来ないで欲しかった。ひながここに来ないで欲しかった……。

 幼い頃からずっと周りの人たちに愛されてきたひなが、あの時と同じ悪夢を私に見せようとしている。そして今のひなは……あの時の私が欲しがっていたすべてを持っている。どうして? どうして選ばれるのはいつもひななんだろう。分からない。


 今更、昔のことなんか思い出したくないけど、最近どんどん置いて行かれているような気がする。

 それは……気のせいじゃない。


「…………」


 全部……、私の物だったのに———。


 ……


「奏多くん! 一緒に遊ぼう! みんなが待ってるよ!」

「あっ、ごめんね。俺……今日予定があるから、また今度にしよう」

「大事な予定なの?」

「うん……」


 あの時の私はみんなと仲良くなるためにずっと頑張っていた。

 その中にはもちろん奏多くんとひなもいる。私は積極的でクラスの人気者だった奏多くんが幼い頃からずっと好きだった。クラスの中心だった奏多くんはいつもクラスメイトたちと楽しく遊んでいたから、私もひなと仲良くその時間を過ごしていた。


 その短い時間をね———。


 でも、奏多くんの行き先はいつもうちだった。

 そこには退院したひながいたから……。いや、幼い頃からずっとそうだった。友達を作らないひなのそばには、いつも奏多くんがいた。私との約束はいつもひなによって破られる。何度も、何度も……、私はひなに奪われていた。


「奏多くん! 今日、橋口の家でパーティーやるって! 一緒に行こう!」

「ああ、今日はちょっと。でも、早く家に帰ってきたら一緒に遊べるかも。うみもすぐ帰ってきてよ」

「…………」


 私が欲しがっていたのはそんなことじゃない。

 みんなと仲良く外で楽しい思い出を作ることだよ。なのに……、いつも部屋に引きこもってアニメやゲームばっかり……。ひなの体が弱いから……、私よりひなのことを気遣っているのが気に入らない。


 そして体が弱いならゆっくりした方がいいと思うけど、いつも楽しそうに奏多くんと遊んでいた。

 そんなひなを見るたびに腹が立つ———。


「ねえ、奏多くん」

「うん、うみ。どうした?」

「どうして……、いつもひなと一緒にいるの? みんな、奏多くんのこと待っているのに。どうして……、いつもひなのところに行くの?」

「えっ? だって、ひな一人じゃん。病気のせいで学校ずっと休んでるし……、可哀想だから」

「患者は家でゆっくり休んだ方がいいと思う。私たちと一緒に遊ぼう! ひなはゆっくり休んだ方がいい。奏多くんがそばにいてあげると病気が悪化するから!」

「そんなことより、うみはさ。どうして……、ひなと一緒に遊ばないの?」

「学校に来ないし、いつも部屋に引きこもってるから」

「それでも、双子だろ? うみの方がお姉ちゃんなのに、どうしていつも赤の他人のようにひなを無視してるんだ?」

「…………」


 あなたたちは幼稚園に通っていた頃からずっとあんな感じだった———。

 あの時の私は何も知らなかったから、何もできなかったけど、今は違う。ひなはいつもあんな風に私から奏多くんを奪った。体が弱いから、可哀想だから———。馬鹿馬鹿しい。実は二人っきりで遊びたかったくせに……。そう考えたくなかったけど、なぜか否定できない。


 体が弱いのは私と関係ないでしょ? とそう思っていた。

 だから、あの時……奏多くんの話に上手く答えられなかった気がする。


 もし、二人が付き合うことになったら私はどうすればいいのか、そんな不安を感じていた。奏多くんはすぐ隣に住んでいたけど、クラスメイトたちは家の方向が正反対だったから、夜になると必然的に二人と過ごす時間が長くなってしまう。


 そしてあの二人と一緒にいると……、なぜか壁を感じる。

 同じ小学生なのにどうして私の知らない話ばかりするのか分からなかった。

 それほど二人は仲がいいってことだから、それがすごく気に入らなかった。


 そしてお母さんも……、いつもひなの話ばかり聞いていたから。

 一体、私はなんのためにここにいるのか分からなかった。


 置いて行かれる。二人はいつもそこで楽しく遊んでいた。

 そして私はそんな二人を見つめるだけだった。


「うみちゃん! 何してるの?」

「別に……、なんか気持ち悪いなと思ってね」

「誰?」


 何気なく、クラスの隅っこにいるひなを指した。


「ああ……、確かにうみちゃんの妹だったよね。いつも一人だから……。なんか、話しかけづらい」

「うん……」


 私はひなが嫌いだ。


 ……


「…………」


 そして今は何も残っていない。


「はあ……」


 まさか、あんな風にみんなが消えてしまうなんて……。

 予想はしていたけど、役に立たないね。

 そして冬子ちゃん、クズのくせに今更楽しい学校生活を過ごしたいだなんて。もう私のことなんか気にしないように見えるけど……。あの二人に許されたからかな? 前より明るくなった。


 気持ち悪い。


「ただいま…………」

「うっ、また酒飲んだの?」

「あはははっ、仕方ないだろ? うみ〜」

「はあ……」


 倒れているお父さんを見ると、本当にため息しか出ない。

 私はどうして……、こんな人生を生きているんだろう。

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