56 私のヒーロー③

 布団の中に入っていた。

 自分で考えても馬鹿馬鹿しいことだったから、恥ずかしくてみんなと夕飯を食べたくなかった。私は、勘違いをしていたんだ。いつも私のそばにいてくれたから……、ずっと二人きりだったから……、奏多もきっと私のことが好きだと勝手にそう思っていた。


 でも、うみを見て笑っている奏多を見た時、心がすごく痛かった。

 よく分からないそんな感情が私を苦しめている。

 布団の中に入っていても、その感情だけは消えないままずっと残っていた。どうして? 苦しいよ。


「ひな、どうした? 具合悪いのか? 入ってもいい?」

「…………うん」


 距離を置きたいのに、その顔を見るとまた甘えたくなる。

 ずっと奏多しかいなかったから———。


「薬は飲まないの? ひな。持ってきたよ?」

「飲む……。う、うみは?」

「うみは部屋に入った。今頃、宿題やってるかも」

「そうなんだ……」

「それより……、どうして夕飯全部食べなかった? ひな。ちゃんと食べないと後でひなのお母さんに怒られるよ?」

「いいよ……。食欲ないから……」


 あんな些細なことでずっと落ち込むなんて、本当にバカみたい。

 でも、それが頭の中から消えないから……、ずっと我慢するしかなかった。


「そうか。次はちゃんと食べてね」

「うん……」

「あ、あのね! 奏多」

「うん?」

「今日……帰るの?」

「そう……だけど、一緒にいてほしいの? ひな」

「…………」


 何も言わずこくりと頷いた。


「そっか。じゃあ、俺部屋着持ってくるからさ。部屋でちょっと待ってくれない? ひな」

「うん……! 待つよ!」


 そのまま奏多が戻ってくるまで、しばらくベッドで本を読む。

 そして、すごくドキドキしていた。眠る前まで奏多といろいろ話すのがすごく好きだったから、今日はどんな話をしようかなと一人で悩んでいた。思わず、笑いが出てしまう。それほど、奏多との夜を期待していた。


「ふふっ」


 すると、扉を開ける音が聞こえてくる。


「かなっ……!」

「何がそんなに楽しいの? ひな」

「うみ……、宿題は?」

「やってるけど」

「そう? 頑張ってね」

「ちょっと話があるけど、ひな」

「うん、何?」

「どうして、いつも周りに迷惑ばかりかけるの?」

「えっ? わ、私は別に……何もしてないよ?」


 いきなり私に怒るうみ。

 私は何もしてないのに……、どうしてうみにそんなことを言われないといけないのかな? 迷惑って、私……仲がいい友達奏多しかいないから、誰かに迷惑をかけるようなことは全然しないない。


「みんな、そう言ってるから」

「…………」


 クラスメイトたちとあまり話さないからよく分からなかった。

 どうして———?


「なんで、いつも奏多に頼ってるのか分からないよ。一人じゃ何もできないの? 周りの友達がいつも私にひなはちょっと暗くない? とか、聞いてるから。もう面倒臭いんだよ! 私たち双子だから、いつもあんなことを言われてるの。私は、ひなと違うのに」

「ご、ごめん……」

「そしてひなのせいで奏多がまた私たちとの約束を破ったよ……。どうして、いつもそんな風に私たちから奏多を奪うの? ひな」

「そ、それは……」

「はあ……、もういい! 話して損した」

「…………」


 そう言った後、すぐ自分の部屋に戻るうみ。

 私は知らなかった。やっぱり、私のせいかな……? 私が奏多と一緒にいるとみんなから奏多を奪うことになるのかな……? でも、みんな友達たくさんいるでしょ? どうして、私にだけ。私は奏多一人しかいないのに。みんなと仲良くなれないし、すでに仲良くなったグループにも入れないし、私も寂しいよ———。


 どうして……私にだけそんなことを。ひどい。


「ひな〜! どうした? ぼーっとしてて」

「か、奏多!」

「遅くなって、ごめんね」


 悲しくて、悲しくて、すぐ奏多を抱きしめた。


「ど、どうした?! ひな……」

「遅い……! ずっと……、待ってたよ」

「ごめんね〜」

「もっと早く来てよぉ……!」

「はいはい〜」


 私の話し相手は……、奏多しかいない。

 うみと話すのも好きだけど、うみはいつもクラスメイトたちと仲良く話していたから、なんか話しかけづらい。そして家にいる時はなぜか距離感を感じてしまう……。私は知らないうちにうみに迷惑をかけちゃったのかな……? どれだけ考えても分からない。


 分からないよ。


「ひなの手、冷えてるね」

「…………」


 さりげなく奏多のシャツの中に手を入れた。


「うぅぅ……! 冷たい……!」

「温かい〜」

「じゃあ、俺も手入れるから……!」

「あっ!」

「逃げるなぁ〜!」


 逃げても私の部屋はそんなに広くないから、すぐ奏多に捕まってしまう。

 そしてさりげなく私のシャツの中に手を入れる奏多だった。


「ううぅ……! 冷たい……!」

「ふふふっ、どうだ! あっ、ごめん! ひな……、大丈夫? そういえば、ひな風邪治ったばかりだよね! ごめん!」

「えへへっ、大丈夫。風邪はもう治ったし、薬もちゃんと飲んだからね」

「そうか……」

「奏多、そろそろ寝よう!」

「うん!」


 ベッドが狭くて奏多と寝る時はくっつくしかない。

 私は当たり前のように奏多を抱きしめていた。

 そうすると温かいし、寂しくないから。ぎゅっと……、奏多を抱きしめる。


「ひな、寒いの?」

「ううん……。奏多を抱きしめると気持ちいいから……」

「そうなんだ……。あのさ、眠れないならすぐ俺を起こして、分かった?」

「分かった……」


 実はね、うみに言われたことを奏多に相談したいけど、我慢した。

 私のせいで、私たちの関係が壊れるのが嫌だったから———。その疑問は聞かないことにした。


「あのね……、奏多」

「うん?」

「私……、迷惑?」


 でも、それだけはどうしても聞きたくて、つい口に出してしまった。

 もし、迷惑だったら……そのまま奏多と距離を取るつもりだったから。


「いきなり……? なんで、そんなことを聞くのか分からないけど。迷惑だったら、俺……ひなのそばにいるわけないだろ?」

「そうなんだ。逆に言うと、私のことが好きだからここにいるってことだよね? そうだよね? 奏多」

「そう。ひなは俺の大切な人だからさ」

「ひひっ♡ そうなんだ……」

「ちゅ、ちょっと……い、息が……ひなぁ……」

「あっ、ごめんね」


 やっぱり……、私は迷惑じゃなかったんだ。

 奏多が私のことを大切な人って言ってくれて、とても嬉しかった。


「おやすみ〜」

「ひな、おやすみって言いながらこっそりシャツの中に手入れるのやめて」

「バ、バレたぁ……」

「バーカ」

「ひひっ」


 奏多はいつも私のことを支えてくれた。

 すぐそばでね。

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