彼女に裏切られた俺は、彼女の妹とキスをする Ⅱ

54 私のヒーロー

 私たちは双子なのに、どうして……私だけこんなに体が弱いのか分からなかった。

 うみはいつもクラスメイトたちと仲良く過ごしているのに、私はそうできない。たまに挨拶くらいはするけど、ほとんどの時間を家と病院で過ごしていた私に友達ができるのは無理だった。


 ひどいと思うけど、子供はみんなそうだから……仕方がない。

 でも、うみは私の家族なのに……学校にいる時はまるで赤の他人のよう、私のことを無視していた。友達がいない私はいつもクラスの隅っこで静かに本を読むだけ。うみも奏多も学校にいる時は友達と仲良く過ごしていたから……。いきなり「私も混ぜて」と言うのは無理だった。


 奏多はいつもうちに来てくれるけど……、学校にいる時は迷惑をかけたくなかったから、ずっと黙っていた。奏多もきっと友達と遊びたいはずだから、消極的な私はそんな奏多を邪魔したくなかった。相手がどう考えているのか全然知らないのに、すぐそうやって勝手に決めてしまう。悪い癖だけど……、勇気を出すのは私にとってとても難しいことだった。


 でもね。すごく寂しい、誰も私と遊んでくれないから———。

 その時だった。


「あっ! ひな! 教室にいたのかよ。学校に来たら俺に声かけてもいいじゃん。クラスが違うから全然知らなかった! ごめん〜」

「か、奏多……」

「どうした? 奏多。サッカーやんないのか?」

「ああ、俺は今日パス!」

「ええ! なんでだよ、奏多いねぇとサッカーできねぇんだよ〜」

「ああ、ごめんごめん。今日はパス!」

「ええ」


 みんなとサッカーをやってもいいのに、奏多はそれを諦めて私の前に座った。

 いつもの笑顔で私の方を見る奏多に、恥ずかしくてすぐ目を逸らしてしまう。そして、奏多に迷惑をかけたくなかったから、そのままじっとしていた。クラスメイトたちにからかわれるかもしれないし、変な噂が流れるかもしれないから、ずっと緊張していた。


「体は大丈夫? ひな」


 声が震えている。家にいる時はすぐ答えたのに……。

 あいにく、学校にいる時はどうやって話せばいいのか分からなかった。


「うん……」

「なんか、元気ないね。どうした? ひな……。家にいる時はテンション高かったのに……」

「私……、大丈夫……! 奏多はみんなとサッカーやらなくてもいいの? さっき、奏多がいないとできないって言われた気がするけど」

「サッカーか〜。それもいいけど、サッカーはいつでもできるからさ。今はひなと一緒にいたい。一人じゃ寂しいだろ?」

「うん、寂しい。久しぶりに学校に来たら、誰も私に声かけてくれないし……。みんな、友達と仲良く遊ぶから……寂しい」

「何言ってるんだよ! ひなには俺がいるだろ!? 今日学校に来るって言ってくれたら、すぐひなのクラスに行ったはずなのに。俺、全然知らなかったから……」

「ごめん」

「謝らなくてもいいよ。ひなが元気になって何よりだ! ふふっ」


 いつも明るい声で私の名前を呼んでくれる奏多。そんな奏多がすごく好きだった。

 静かな教室で何もしてないけど、それでも奏多と過ごすこの時間が好き。

 そして、みんなとサッカーやらないのって聞いたけど……、実は私のそばにいてほしかった。


 でも、そんなこと……そう簡単に口に出せるわけないから……。

 それは迷惑だから———。


「奏多」

「うん?」

「今日、うち来るの?」

「当たり前だろ? ひなが退院したから、久しぶりにアニメでも観ようか!? ゲームもいいし、どうする? ひなが選んで」

「な、何にしようかな……」

「なんでもいいよ。でも、お母さんがこの前に新しいソフト買ってくれたからさ! ふふふっ」

「えっ? そうなの? なになに?」

「〇〇カート!」

「やりたい! やっぱ、ゲームにする!」

「うん!」


 奏多と一緒にいるのはやっぱり好き、この時間が永遠に続いてほしい。

 そして、早く……家に帰りたかった。奏多と一緒に遊びたい———! そればかり考えていた。


「奏多———、なんであの暗い北川と一緒にいるの? キモい」


 一人ずつ……教室に入ってくる時、私のことを嫌がっていた女の子が奏多に声をかけた。私はあの人とどんな接点もなかったし、あの人に迷惑をかけたこともないのにね……。なぜかすごく嫌われていた。男子は分からないと思うけど、女子たちはすぐその雰囲気に気づいてしまう。


 露骨に嫌な顔をされた。


「うん? 暗い? 誰が?」

「奏多の前にいる人に決まってるんでしょ? 北川ひなのことだよ」

「なんで、お前がひなのことを暗いって言ってるんだ?」

「ちょ、ちょっと待って! なんで私に怒るの? みんな、そう言ってるよ? そして、その前髪も! 気持ち悪いから!」


 確かに、そう思われるかもしれないね……。

 人と話すのが怖くて、ずっと前髪を伸ばしたけど……、気持ち……悪かったんだ。

 

「いきなり、暗いとかキモいとか、お前マジで気持ち悪いな」

「いや、どうして私に怒るの?」

「か、奏多……。喧嘩はよくないよ……。やめてぇ……」

「分かった。ごめん、ひな」

「チッ……」


 舌打ちするあの人を後にして、私は奏多を人けのないところに連れてきた。

 私を庇ってくれたのはすごく嬉しいけど、そんなことはやめてほしかった。


「ど、どうした? ひな」

「か、奏多……。あの人と喧嘩するのはやめて……。私は、ひどいことを言われても平気! なぜ嫌われているのか分からないけど、私は構わない! でも……、奏多はダメ! あの人たちに嫌われたら、奏多もあんなことを言われるかもしれないよ?」


 私は怖かった。いけてるグループの人たちに奏多が嫌われるのが。

 地味な私はどうせあの人たちと仲良くなれないから気にしないけど、奏多は私と違うから———。

 

「…………」

「ご、ごめん……。気持ち悪いことを言い出して、ごめん……。あの人の話通り、私は……暗くて気持ち悪い人かもしれない」


 消極的な私は、ずっと自分のことを否定するだけ———。

 奏多はこんな私を庇ってくれたのに、私はそんな奏多を否定していた。

 本当にバカみたい。


「何言ってるんだよ! ひな」

「えっ?」

「ひなのどこが気持ち悪いんだよ! なんで、ひながそんなことを言うんだよ! 俺は一度もひなのことを気持ち悪いとか、そう思ったことないから! あれか? あの人に前髪が気持ち悪いって言われたから、それを気にしているのか? ひな」

「う、うん……。でも、私……、可愛くないから」

「俺はひなの長い髪の毛が好きだよ?」

「えっ? そ、そうなの……?」

「そう!」


 そう言いながらさりげなく私の前髪を後ろに流す奏多、目の前に奏多の顔がいる。

 すごく近くて、緊張していた。


「うん! 可愛いよ。ひな」

「えっ?」

「あの人の話は無視して。ひなは可愛いし、俺はひなの長い髪の毛が好きだから」

「…………」

「そして、俺のことは心配しなくてもいい。あんな人たちに嫌われても気にしないから! 俺はさ! 何があっても……、ひなのだよ? 何があっても!」

「奏多……」

「分かった!?」

「う、うん……」


 いつの間にかぎゅっと奏多の手を握っていた。

 そのまま教室に戻る。


「ひなはさ! あのキャラに似ている!」

「あのキャラ?」

「ほら! あの……、名前うっかりしたけど、ミント色のドレスを着ているキャラいるじゃん」

「ああ……、そ、それはちょっと……。似てないよ……」

「えっ!? そうか。でも、ひなは可愛いから! それでいいと思う」

「は、恥ずかしいからやめてぇ…………!」

「ふふっ。だから、あの人の話は無視して、ひな」

「う、うん……」

 

 奏多は本当にバカ。

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