49 バレンタインデー④
ひなにはトイレに行ってくるって言っておいたけど……、いきなり「話がある」ってなんだろう。今まで全然連絡をしなかった如月がいきなりあんなことを言うから、仕方がなく1階に来てしまった。
自販機があるところって言われたけど、話ってなんだろうな。
やっぱり気になる。
「あっ、み、宮内くん…………」
「如月。話って……、何?」
どうして、またそんな顔をしているんだ……?
ひなとバレーボールをしていた時はそんな顔しなかっただろ……? 何かあったのか? とはいえ、如月。さっきからずっと下を向いていて、どうしたらいいのか分からなかった。
このままじゃ話が進まない。
「あの……、あのね……!」
「如月、言いづらいことなら無理しなくてもいいよ」
「そんなことじゃない……。私の話を……聞いてほしい」
「そうか」
とはいえ、しばらく二人の間に静寂が流れた。
そんなことじゃないって、どういう意味? 如月は俺に何を話すつもりだろう。
「ごめんね」
「えっ?」
「全部、私のせいだよ……。宮内くんがクラスメイトたちに責められたのは全部私のせいだよ」
「ま、待って。ど、どういうこと?」
「斉藤くんがみんなに見せてあげたあの写真、あの写真は私が撮った写真だよ……。うみちゃんと浮気をしていたのを知っていたから、二人を別れさせて……、私が宮内くんと付き合いたかった。でも、私の考えが甘かったよ。結局、宮内くんに迷惑をかけちゃったから」
「如月…………」
「そして、ひなちゃんの制服をゴミ箱に入れたのも……私」
あの写真を撮ったのは如月だったのか、それに……ひなの制服をゴミ箱に入れたのも如月。
なぜだ? なぜ、そんなことを?
「あのさ、如月」
「うん……」
「如月はひなとどっかで会ったことあるのか? どうして、ひなの制服を……?」
「私は……、ひなちゃんにあんなことをしたくなかったけど———」
そう、ひなと如月の間にはどんな接点もないからさ。
それをやらせたのは多分……、北川うみ。如月のこと100%知っているとは言えないけど、少なくとも彼女はあんなことをするような人じゃない。1年生の時にはそうじゃなかったからさ。どうしてだ……?
「そうか、うみか」
「うん…………」
「念の為、聞いておくけど……。あれかな? うみに弱みを握られて、そうするしかなかったってことか?」
こくりと頷く如月に、何を言えばいいのか悩んでいた。
「私……、宮内くんのことがずっと好きだったからね。うみちゃんと付き合うようになった時は仕方がないとそう思っていたけど、斉藤くんと浮気をしていたのをこの目で確かめた時、別れさせようとしたの。でもね、二人はそんな関係じゃなかったみたい。二人はしょっちゅうくっついてたけど、付き合わなかったよ。そして、その写真を送ってしまった私のせいで、宮内くんがみんなに責められたの。私は怖くて、ずっとその事実を言えなかった……」
「…………」
「ひなちゃんの制服は……、うみちゃんが自分の話通りにしないと全部話すって言ってたから。仕方なかったよ……、ごめんね」
震えている声———。
確かに如月が悪いことをしたのは事実だけど……、謝りに来た人を責めるなんて、俺はできない。そして、それを俺の前で言い出したのは多分もううみに振り回されたくないからだろう。
その気持ちを分からないとは言わない。俺も……、そうだったから。
「全部……、私のせいだよ! ごめんね……。そして、今度は……ひなちゃんのチョコを盗んでって言われて、もうダメだから。もう…………」
「そうか? 如月、大変だったな」
それ……、覚えている。
多分、小学生の時だったと思う。誰かずっとひなの物を盗んだり、ひなの上着を空き教室に隠したりして、いじめていたからさ。誰があんなことをしたのか、結局犯人は明かされなかったから、俺たちもそのまま諦めたけど。それ……、うみの仕業だったのか?
ひなは……ずっと自分の物がなくなるから、それがトラウマになったのにな。
あっ、そうか。
あのハンカチ———。俺がひなに———。
「…………」
「それで、どうしたい……? うみと絶交するのか?」
「もう……、あの人に関わりたくないから。ずっと弱みを握られたままうみちゃんに振り回されるのは嫌だから……。だから、二人に嫌われるのを覚悟して、それを全部話したかったよ。一人になっても構わないから、ちゃんと話したかったよ……」
「一人になる必要……あるのか? 如月は他の女子たちと仲がいいだろ?」
「仲がいいとはいえ、本物の友達じゃないからね。いいよ、私みたいなバカはそれでいい。私は二人にやってはいけないこともしたからね。そして、ひなちゃん……。すごく可愛くて優しい女の子だった」
「…………」
ぼとぼと……、如月の涙が廊下に落ちる。
自分がやらかしたことをちゃんと反省しているのか。
でも、可哀想に泣いている女の子をほっておくわけにはいかないからさ。さりげなく如月にこう話した。
「じゃあ、友達になろうよ。如月」
「どうして……、私にそんなことを言うの? 私は……宮内くんのことが好きでやってはいけないことをしたのに……? どうして……」
「今日の体育授業、ひなと一緒にバレーボールやってただろ? ひな、めっちゃ楽しそうに見えたからさ」
「…………」
「ひなならきっと……、理解してくれるはずだから。だから、ちゃんと謝って……ひなに。そして、友達になるんだ」
「うん……。全部話すから……」
「そして、うみのことは無視して。何があっても、うみと関わらないでくれ、如月」
「うん……」
ひなに言われた「誰かにやらせた」は正解だった。
まさか、それを如月にやらせたとはな。そして、教室に戻る前に如月はうみとあったことを俺に話してくれた。如月の片想いとか、うみがこっそりやってたこととか、全部俺に話してくれた。でもさ、一体何がしたかったのか……いまだに分からない。そんなことまでして、何を手に入れたかったんだろう。
ひなの話通り、周りの評判で自分の価値を決める人なのか。
そして、その評判が下がって、ひなに八つ当たり?
そんな意味のねぇことを……。
「奏多! おそーい! ずっと待ってたよ!」
「ごめんごめん」
「あれ? 冬子じゃん!」
「そうだよ〜。そして、ひなと仲良くなりたいって」
「えっ! 仲良く!? いいよ! 仲良くなろう! 私も冬子と仲良くなりたい!」
その話を聞いて、また涙を流す如月だった。
「……えっ!? 冬子!? どうしたの? どうしたの!? えっ!?」
「あっ、俺! ティッシュ持ってるから! ちょっと待って!」
「奏多〜、早く〜」
「はいはいはい」
ティッシュをひなに渡して、ひながさりげなく如月の涙を拭いてあげた。
きっと……、つらかっただろ。ずっと…………。
その涙の意味を知っていたから、何も言わなかった……。そのまま如月が落ち着くまで、じっと二人の方を見つめる。それしかできなかった。
「落ち着いたの? 冬子」
「うん……。ありがとう、ひなちゃん」
「えへへっ」
「そういえば、ひな。バレーボールの練習はちゃんとしたのか?」
「うん! 冬子とめっちゃ練習したからね!」
「よかったね。そして、ありがとう。如月」
「えっ? な、何を?」
「ひな、幼い頃からスポーツ苦手だったからさ……。俺以外の人と楽しくバレーボールするの初めて見た」
「…………」
「私、冬子と一緒に練習してすっごく楽しかったよ! 奏多は……教えるの下手だから全然楽しくない〜」
「なんだとぉ〜? それはさ! 感覚的にさ!」
「知りません〜」
「ええ!?」
「…………」
仲良く口喧嘩をしている二人を見て、思わず笑みを浮かべる冬子だった。
「あっ! そうだ」
「どうしたの? 冬子」
「これ! 二人にあげる! 義理チョコ!」
「あ、ありがと……!」
「ありがとう、如月」
そう、これだよ。俺は……お前がいないこの日常が欲しかった。
ずっと、ずっと———。
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