48 幻滅

 どうして、私を呼び出したのか分からない…………。

 また、斉藤くんの話をするのかな? 私は……感情のゴミ箱じゃないから、もううみちゃんの話は聞きたくなかった。そして、クラスメイトたちに言われたことはほとんど事実なのに、どうしてそれを否定しようとしているのか分からない。そんなことをして、何が残るの? そんなことをしても、うみちゃんを見ているクラスメイトたちの視線は変わらないからね。


 クラスの雰囲気は変わった。

 しょっちゅう斉藤くんとくっついていたからそうなるんでしょ? うみちゃん。

 それを……、私に話しても無駄だと思う。


「頼みたいことって……、何?」


 人けのない廊下、私を呼び出したうみちゃんはあの時と同じ笑顔をしていた。

 そして、私に頼みたいことって———。


「冬子ちゃんは宮内のこと好きだよね?」

「…………」

「どうして、何も言わないの? 好きでしょ? 今も」

「別に……、私はもう宮内くんのこと諦めたから。でも、どうして……いきなり宮内くんの話をするの?」

「ふふっ」


 また私に変なことをさせるつもりだよね?

 今度は誰? またひなちゃんなの? あるいは……、宮内くん? 分からない。どうして、あんなことをさせるのか。そして、あんなことをして何が楽しいのか分からない。私の弱みを握ってるから……、うみちゃんの話ならなんでも聞くしかないとそう思ってるのかな? 怖い。


 本当に怖いよ。


「そんなに緊張しないで、簡単なことだから。三木の机の中に、今朝宮内にもらったチョコが入ってるはず」

「…………えっ?」

「それを持ってきてくれない?」

「それはひなちゃんのチョコでしょ? どうして、さりげなく持ってきってって言ってるの?」

「持ってきて、冬子ちゃん。好きでしょ? 宮内のこと」

「…………」


 うみちゃん……、笑っている。


 私はバカだ。それでも、自分が何をしたのか、それをして何を失ったのか、ちゃんと知っている。だから、もうあんなことはしない。もううみちゃんに振り回されたくない。そして、私は……相変わらず宮内くんのことが好きだ。多分、この感情は卒業するまで変わらないと思う。


 でも、私はひなちゃんに勝てない。

 そして、ひなちゃんと争いたくない。

 ただ……、いい友達になりたかった。宮内くんと、そしてひなちゃんと———。


 私の恋は失敗した。

 私の愚かな選択が私を壊したから……、自業自得。


「うみちゃん、欲しいの? 宮内くんのチョコが」

「ううん……。どうかな? 私は冬子ちゃんがそれを美味しく食べてほしい!」

「…………えっ?」

「どうしたの? 好きでしょ? 宮内のこと。そして、まだもらってないんでしょ? チョコ」

「そんなの、いらない……! 私は…………」

「じゃあ、宮内にそれを話してもいいの? 冬子ちゃん。本当にいいの?」

「…………」


 やっぱり、私はうみちゃんのオモチャ……。

 なぜ、そんなにひなちゃんのことを嫌がっているのか分からないけど、もしかして嫉妬かな? ひなちゃんが宮内くんと仲良く過ごしているから? 最近、クラスメイトたちもよく二人のことをからかってるし、さりげなく応援してるような雰囲気だからね。知らないうちに、二人はクラスの人気者になっていた。


 そして、うみちゃんはそんな二人と違って、変な噂が流れていた。

 それが嫌なのは分かるけど、二人をいじめたのはうみちゃんでしょ? 理解できない。だから、知りたかったよ。どうして、そんなに嫌がっているのか。そして、ひなちゃんはどんな人なのか、知りたかった。


 でも、ひなちゃんはうみちゃんと全然違って、可愛くて優しい女の子だった。

 そして、明るい……。うみちゃんと一緒にいる時と全然違う。

 一緒にバレーボールの練習をしただけなのに、なぜか楽しいなとそう思っていた。


「やめてよ、もう……! そんなことをして、何が楽しいの? うみちゃん」

「…………」

「他人を傷つけるのはやめよう! 意味ないから!」

「意味……ね」

「…………」

「宮内がみんなにいじめられて何もできなかった時……、冬子ちゃんは無視したんでしょ? 自分が撮った写真のせいで、あんなことが起こったのに……他人を傷つけたくないって言ってるの……? 面白いね、冬子ちゃん。そして、三木の制服をゴミ箱に入れたのも冬子ちゃんでしょ?」

「…………そ、それは!」

「違うの?」


 どうせ、うみちゃんとここで口喧嘩をしても意味ない。

 なぜ、そんなことしかできないのか分からない。もうどうでもいい。私は……うみちゃんが嫌いだ。早くこの関係をどうかしないと、私はもうあの二人に迷惑をかけたくない。そうするためには……、私が変わらないといけない。うみちゃんにずっと振り回されることより、クズになった方がましだ。


「忘れないで、冬子ちゃんはクズだよ? 斉藤が退学になっても、冬子ちゃんがやったことはなかったことにできないからね? でも、冬子ちゃんは私の大切な友達だから、私は誰にも言わない。私の話通りにしてくれるなら———」

「…………」

「そんな顔しないで、私が悪いことをしているように見えるじゃん」

「分かった。そのチョコ……、持ってくるから」

「そして、美味しく食べてくれるよね? 私の前で」

「うん……」

「そんな顔しないで、冬子ちゃん。ただのチョコだからね?」

「うん。じゃあ、私……教室に戻るから…………」

「よろしく〜♪」


 もう……どうでもいい。

 私も……、それをずっと秘密にしたくないし……、悪いことしたのは事実だから。

 私はバカだけど、自分が間違っているってことくらいちゃんと知っていた……。もういい。あの二人にはもう嘘をつきたくない。もし、友達にならないんだとしても、全部私のせいだからそれを受け入れるつもりだった。


「…………」


 ゆっくりと息を吐いて、宮内くんにラ〇ンを送る。


(冬子) 宮内くん、1階の自販機があるところに来てくれない? 話があるの。


「…………」


 そして、ぎゅっと拳を握った。手が……、すごく震えていたから。

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