43 変わった雰囲気②
「ひなちゃん、ひなちゃん……! 肌綺麗だね〜、赤ちゃんみたい!」
「ひなちゃん、リップ何使ってるの? すごい可愛い色だね……」
「えっと、私…………」
そして、昼休み。当たり前のように、クラスの女子たちがひなに寄ってくる。
やっぱり……、ひなは人気者だな。
今、ひなに声をかけたこの人たちは数日前までうみと仲良く話していたけど、どうやら斉藤の件で距離を取っているみたいだ。二人はすごく目立つ人だったし、しょっちゅうくっついていたから付き合ってるって噂されたこともある。もちろん、本人はそれを認めなかったけど、あのクズと関わっただけで評判が下がった。
前にはたくさんの人たちに囲まれていたけど、今は如月しか残っていない。
そうだよな、今朝クラスメイトたちと口喧嘩をしたから。
「待って、リップね……! これ! 私『HINA』のリップ使ってるよ!」
「あっ! 『HINA』なら私も持ってるよ! 香水だけどね。友達がめっちゃいいっておすすめしたから、私も買っちゃった!」
「えっ? そういえば、ひなちゃんと同じ名前じゃん!」
「うん! うちのお母さんがね。どうしても私の名前を使いたいって、そう言ってたから……」
「えっ!?」
「えっ!? マジ!? ひなちゃんのお母さん、あの三木ゆりえさんなの!?」
「うん! そうだよ? どうしたの?」
「私、ミツキの化粧品しか使ってないよ!? うちのお母さんもね!」
「えっ? そうなの? あ、ありがとう……!」
「へえ……。まさか、あの『HINA』がここにいるひなちゃんだったとは……。びっくりしたよ。そういえば、三木さんもすごい美人だったよね! ひなちゃんがこんなに綺麗なのは理由があったんだ……」
「そうそう! ひなちゃんは綺麗だからね〜」
騒がしいクラスの中。
こっそり女子たちの話を聞いていたうみが奥歯を食いしばる。
「えへへっ……。そうかな……?」
「ひなちゃん、照れてるのも可愛い!」
「えへへっ、恥ずかしいね……」
「そうだ。宮内くん!」
「えっ?」
いきなり、俺の名前を呼ぶ女子たちにビクッとした。
てか、俺……さっきから静かにサンドイッチを食べていたけど……、どうしたんだろう。
「もっと……! ひなちゃんに優しくしてよ!」
「えっ?」
「そうよ! 奏多! 奏多はもっと私に優しくしてよ! もう……!」
「そうそう! ひなちゃんの幼馴染でしょ!?」
なんで……、俺……みんなに一言言われてるんだろう。悪いことしてないのにな。
それに……なんだよ、ひな……。そのドヤ顔は。
そんなことより……、ひなめっちゃ嬉しそうに見えるけど、普通にからかわれているだけか。でも、クラスメイトたちと楽しそうに話していて、ほっとした。くすくすと笑っている。
「まったく……、分かったよ」
「えへへっ」
なぜか、女子3人とお昼を食べるようになったけど……。
やっぱり苦手だな。
「そういえば、そろそろバレンタインデーだよね?」
「そうだよね〜」
「ねえ、ひなちゃんは誰にチョコあげるの?」
「私? 奏多!」
その話を聞いて、びっくりする女子たち。
即答ですかぁ……。
まあ、すごく嬉しいけど、普通……そんな話は女子同士で話すべきだと思うけど。恥ずかしい。
「へえ、宮内くんはいいね〜。ひなちゃんにチョコもらって〜」
「あっ、ああ……。う、うん……」
「何、その反応。まさか、宮内くん嬉しくないの!?」
「そうなの!? 奏多!!」
「えっ? いや、す、す、すごく嬉しいけど……。ちょっと……、トイレ行ってもいいかな」
「ダメ! 我慢して!」
「はい……」
いや、チョコだなんて……! チョコだなんてぇ……!!!!!
それを堂々と俺にあげるって言わないでくれぇ……! そばで聞いている俺の立場も考えてくれぇ……! ひなぁ! と、言いたかったけど……、今は黙々と3人の話を聞くことにした。
てか、トイレ行きたい。
「奏多はね! それが問題だよ! 私の話に全然集中しないから、いつも私に怒られるんでしょ?! 分かる?」
「えっ?」
「文句あるの?」
「ありません……。生きててすみません…………」
「あはははっ、二人とも何してんの? おもしろーい!」
「宮内くんって意外と面白い人だね〜」
「何もしてないけどぉ……」
「あはははっ、私たちは昼休みが終わる前にちょっとトイレ行ってくるからね」
「うん!」
そうやって、やっと静かになった。
知っていたけど、陽キャはやっぱりテンションが高いな。友達がいなかった俺にはちょっと苦手だったけど、ひなと楽しそうに話していたからそれでいっか。ひなもすごく楽しそうに見えたからさ。
てか、三木さんがあの『HINA』というブランドを作ったのか、すごい……。
陽キャたちの間でけっこう流行ってるみたいだからさ、よかったね。ひな。
「奏多」
「うん? どうした?」
「唇の荒れがひどい、リップクリーム塗ってないの?」
「あっ、そういえば……。持ってくるのうっかりした」
「もう……、この時期は荒れやすいから……」
そう言いながら俺の方に近づくひな。
な、何をするつもりだろう。
「じっとしてよ、奏多」
「えっ? な、な! 何を!? ひな……?」
「えっ? リップクリーム塗ってあげるだけだよ? なんでそんなに慌ててるの?」
「…………」
まさか、自覚……ないのか!? マジ?
あごを持ち上げて、さりげなく俺にリップクリームを塗ってくれるこの状況。この状況を…………。
どうしたらいいんだろう。近い、近すぎる……。
「…………」
いや、ちょっと……緊張しすぎて息ができないんだけど。
どうしよう……。
しかも、それ……、ひなが使ってたリップクリームじゃん…………。ひなの、リップクリーム。
「ふん♪ ふん〜♪」
「…………」
鼻歌……。
てか、これ……俺の好きなひなの匂いだ。
「よっし! 動いてもいいよ!」
「…………」
「どうしたの? 奏多」
「いや、なんでもない……」
真っ赤になった耳と照れている奏多の顔を見て、ひながくすくすと笑う。
そして、こっそり頬を染めた。
「ふふっ」
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