42 変わった雰囲気
斉藤が犯したあの犯罪行為はあっという間に校内に広がっていた。
あの時……、職員室で再生したひなの録音を先生以外の生徒たちも聞いたからさ。
そして、朝から斉藤の悪口ばかり話しているクラスメイトたちに、俺とひながびっくりする。その中には、普段から斉藤と仲良くしている人たちを責める人もいた。
お前らはクズだと———声を上げる。
まさか、クラスの雰囲気が完全に変わるとは思わなかった。
「奏多……、朝からみんなテンション高いね」
「そ、そうだな。俺たちは席に行こう……」
そして、あのうみもクラスの女子たちに一言言われているような気がした。
さっきからずっと自分の席でいろいろ話している。
どうやら、周りにいる女子たちと斉藤の件について口喧嘩をしているらしい。あの二人はしょっちゅうくっついてたから、当たり前のことか。それに、クラスメイトたちに声を上げるうみは初めて見た。
まあ、俺たちとは関係ないことだから。いっか。
「ひな、さっきから何見てるの?」
「奏多と撮った写真〜!」
「はあ?! なんで……!?」
「なんでって言われても、ロック画面にしたいから! お母さんに新しいスマホをもらったし、奏多と可愛いケースも買ったからね。その後は可愛いロック画面に決まってるんでしょ!?」
そういえば……、家を出る前に制服姿でひなと写真を撮ってたよな。
なぜ、一枚で満足できないのか分からないけど……、鏡の前で二〇枚くらい撮った気がする。そして、その中からロック画面にする良い写真を選んでいるひなだった。でも、普通……そういうのは恋人同士でやるべきことじゃないのか? 俺たち、まだそんな関係じゃないと思うけど、ひな……。
とはいえ、本人はめっちゃ喜んでいた。
まあ、ひなが喜んでるなら俺もそれでいいけど……。
「ひなちゃん、ひなちゃん。だ、大丈夫? えっと、話聞いたけど…………」
「うん、大丈夫! 奏多が三日間、私のそばにいてくれたからね」
「へえ……、そうなんだ。みんな、心配してたよ……。ひなちゃんがあの斉藤に殴られたって言われたから」
「心配してくれてありがと……! でも、もう大丈夫」
「うん! 元気でよかった!」
「うん……!」
「あっ! ひなちゃん! そのスマホケース可愛いね!」
「そう!? ありがと〜。でもね! このケース、実は〜」
そう言いながら俺の手首を掴むひな、まさか……俺のスマホをみんなに見せてあげるつもりなのか!? それは……できない! それだけは!
そのままポケットの中から手を出さなかった。
「…………っ!」
「早く〜! みんなが待ってるんでしょ〜!」
「恥ずかしいからやめてくれぇ。俺は……! まだ心の———」
そして、俺のスマホに電話をかけるひな。
「あっ、机の中にあったんだ〜。みんな! どう!? 可愛いよね! 奏多と同じケースなの!」
「へえ〜、いいね。可愛い!」
バカか、俺!
「あっ! 二人とも、もしかして……あれかな?」
「あれ?」
首を傾げるひなとこくりこくりと頷くもう一人のクラスメイト。
何を肯定しているんだよ……!
そんなことより、この状況はなんなんだ……!?
「ふーん、そういうことなんだ〜」
「なになに!?」
「二人! 付き合ってるよね! そうだよね? ひなちゃん」
「えっ!? ち、ち、ち…………あうぅ……」
すぐ顔が真っ赤になるひなを見て、精一杯笑いを我慢している女子たち。
そして、もう一人の顔が赤くなる。そう、俺のこと。
いや、「違う」って言いたいなら早く言えよ……! なんで、だんだん声が小さくなるんだよ。はっきりと言ってくれ、ひな。俺たちは仲がいい友達って、そんな関係じゃないって言うんだよ……!
とはいえ、俺が言ってもいいけど……、なぜか声が出てこない。
この雰囲気に慣れていない俺だった。
「ああ〜、宮内くんも照れてる〜。やっぱり〜! 二人、そういう関係なの〜?」
「…………」
「や、やめてぇ。恥ずかしいからぁ……」
「お、俺……! ちょっとジュース買いに行ってくる! の、喉渇いた! ひ、ひなは?」
「わ、私もぉ……!」
「あっ〜、恥ずかしくて逃げるんだぁ〜」
「ち、違う! そ、そんなことじゃない!」
なんか、あの二人にめっちゃからかわれてるような……。でも、嫌じゃなかった。
やっぱり、自販機の前が一番楽だな。
「はあ……、本当に……みんな恋バナ好きすぎ〜」
「まあ、高校生は普通そうだろ? 恋バナが好きなのは仕方がないと思う。そして、ひなが可愛すぎるからみんなにからかわれてるんだよ……」
「えへへっ、そ、そうかな……。私、奏多に可愛いって言われるの好きぃ……!」
「は、はい……」
謎の敬語。そう言いながらひなの好きなアップルジュースを買った。
そして、しばらく隣のベンチに座る二人。
今教室に戻ったら、またあの人たちにからかわれるかもしれないからさ。こうやって、ジュースを飲みながらひなと二人っきりの時間を過ごす。それもいいことだと思う。
「ひゃー! いいね、アップルジュース!」
「そうか?」
「あっ、そうそう! 私奏多に言いたいことがあったけど、うっかりしてた」
「うん? 言いたいこと?」
「一応、奏多にも教えてあげた方がいいと思ってね」
「うん……」
「斉藤一馬は退学になった。だから、もうこの学校にはいない」
「そ、そうなのか?」
「うん。お母さんに私が持っている録音とりおにもらった写真を送ったからね。そして、私のスマホも壊したし……」
「そうか」
「…………」
「教えてくれてありがとう、ひな。その話を聞いて、ほっとした」
「そして、奏多……」
「うん?」
「あの時、本当に危なかったからね……。私のこと、守ってくれてありがとう。そして、二度とあんなことしないから……、ごめんね。バカみたいな私を……許してくれない?」
そう言いながら、そっと手を重ねるひなだった。
「バーカ」
「へへっ……」
「もうそんなことするなよ、ひな」
「うん……!」
そして、さりげなくひなの頭を撫でてあげた。
このバカ。
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