41 一緒④
そういえば、三木さんの料理を食べるのは久しぶりだよな。
しかも、俺の好きなピーマンの肉詰めもあるし……。まさか三木さんもそれを覚えているとは思わなかった。懐かしい雰囲気……。ひながそばに座って、向こうに三木さんがいる。小学生の頃によくこうやって……、一緒にご飯を食べていたからさ。
本当に……、懐かしい。
「そうだ。ひな、スマホ壊れたよね?」
「えっ? ああ、液晶が壊れただけだから、まだ使えるよ?」
「はい、これ使って」
そう言いながらショッピングバッグから新しいスマホを取り出す三木さん。
それは昨年10月に販売された〇〇フォーン15プロ……。確かに……、あいつがひなのスマホを床に投げたからもう使えないよな……。液晶が壊れたままじゃ傷ができるかもしれないし、危険だから。
よかったね、ひな。
「い、いいよ……! こんなのいらない! 私は今のがいい!」
「何言ってるの? ひな。液晶が壊れてもう使えないよ? あれは」
「でも……」
「じゃあ、奏多に聞いてみようか?」
「はい? な、なんでしょう……」
「今使ってるスマホ何年使ったの?」
「えっ? ええ……、7年くらいですかね」
「いいね。ひなもそれくらい使ったから……」
いきなりスマホのことを聞いて、どうしたんだろう。
そして、今度は俺にひなと同じスマホを渡す三木さんだった。
それ、2台も買ったんですか……?
「はい。これ、もらってくれる?」
「えっ? そ、それをですか? いいえ! いいえ……! さすがに、それはちょっと! えっと、まだ! まだ使えますから。いいです!」
「もらってくれるよね? 奏多」
「…………」
「もらってくれるよね?」
なんですかぁ……? それ、めっちゃ高い機種だと思いますけどぉ……。
でも、「はい」って答えないといけないような気がする……。その視線が怖い。
てか、俺がこんな高いスマホをもらってもいいのか? なぜか、不安を感じる。とはいえ、どう見ても断れない状況だから素直にもらうことにした……。三木さんがそうしたいなら———。
その箱に触れただけですぐ緊張してしまう。
「は、はい……。あ、あ、あ、ありがとう……ご、ございます。だ、大事にします! ほ、本当に! ありがとうございます……!」
「さて、ひなはどうする? お母さんは同じ色のスマホを2台買ってきたからね。液晶が壊れたあのスマホを使うことと、奏多と同じスマホを使うこと。どっちいい? ひなが選んで」
「ほ、欲しい! それ……、欲しい!」
「ふふっ、はい」
「あ、ありがとう……。でも、いいの……? これ、高いじゃん」
「いいよ、今のお母さんは……あの時のお母さんじゃないからね?」
「ありがと……」
「ふふふっ。でも、お母さんはセンスがないから……。スマホのケース、買ってくるのうっかりしちゃった。それは二人でゆっくり選んで」
「う、うん…………! 分かった!」
なんか、俺……いきなりひなと同じスマホを使うようになったけど…………。
しかも、めっちゃ高いスマホをさ。
お母さん……、ごめん。断るのができなかったぁ……。
「そして、奏多。ちょっといいかな?」
「はい?」
「車内に置き忘れた物があるけど、ちょっと手伝ってくれない? 力が足りなくて一人じゃ無理だから」
「は、はい! 分かりました!」
「わ、私も行く!」
「ひなはゆっくり休んでて、すぐ戻ってくるから」
「うん……」
……
「あ、あの……!」
「うん?」
「やっぱり、スマホは……」
駐車場に来た時、やっぱりそれはダメだと思っていた。
他人からそんな高い物をもらうのは無理……。しかも、その相手が三木さんだからさ、ずっと心に引っかかる。
俺は……ひなのお母さんにそんな高い物もらえないよ。
「いいよ。むしろ、もらってくれないとこっちが悲しくなるからね?」
「えっ? そ、そうですか?」
「そう。そして、荷物の話は嘘。実は……奏多と話したいことがあったから」
「話したいこと……」
「うん。ひなは幼い頃から奏多以外の人に頼るのを嫌がってたから、自分のスマホが壊れても『新しいの買ってくれない?』とは言わない。そして『お小遣い足りない』とか、『新しい洋服が欲しい』とか、普通の女子高生なら親にそんなことを言うはずなのに、ひなは一度も私にそんなことを言わなかった」
「…………は、はい」
「私はひなの母だから。ひながもっと可愛い服やそんなものに興味を持って欲しかったけど、ひなはいつも『いいよ、そんなの』と私の話を断った。そして、毎月お小遣いを増やしてあげても、結局ひなは貯金するだけで自分のためにお金を使わない」
「そ、そうですか? でも……、この前にめっちゃ高い部屋着を———」
「それは奏多と同じ部屋着が着たいからだよ、さっき言ったよね? ひなは自分のためにお金を使わないって。でも、奏多と一緒にいる時は、一緒に幸せになるためならお金を使う。あの時も今も、奏多はひなの大切な存在だから……。そして、私にできないことを奏多ならできるから……」
「なんか……、すみません」
「気にしないで、そういう話じゃないから」
「はい……」
そうなんだ……。
俺にはよく分からないけど、どうやら複雑な事情があったみたいだ。
でも、ひなはどうして俺のために———。
「でも、ひな……。ここに引っ越してきた時に、服たくさん持っていたような……」
「ひなが持っているほとんどの服や化粧品は私が一方的に買ってあげただけだから、女子高生が……自分の服を買わないなんて。高校時代は二度と戻ってこないのにね」
「ああ……」
「だから、奏多がひなのことを幸せにしてくれない? まだ一年残っているから、ひなと最高の一年を過ごしてほしい。無理かな?」
「い、いいえ! 絶対、そうしますから……! 信じてください!」
「うん。そして、大人の私がこんなこと言うのは恥ずかしいけど、指切りをしよう」
「は、はい……!」
三木さんは……ひなのことをずっと心配していたみたいだ。
でも、こんなことしなくても、俺はひなのことを幸せにしてあげるつもりだった。
絶対に———。
「そうだ。これ、持っていって」
「はい?」
車のドアを開けた三木さんが、茶色の箱を俺に渡してくれた。
「ちょっと早いと思うけど、バレンタインチョコ。ひなの分もあるから、一緒に食べて」
「あ、ありがとうございます!」
なんだろう……、この欧州にあるめっちゃ有名なお店でしか買えないようなチョコレートは。それに……アルファベットが書かれているけど、全然読めない……!
「そして、これからまた仕事だからね。今日はひながどう過ごしているのか見に来ただけだから」
「は、はい……」
「奏多」
「はい!」
「よろしくね、うちのひなを」
「は、はい……!」
そう言った後、三木さんはすぐ会社に向かった……。
てか、チョコレート一箱で8千円はやばくない?
「…………」
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