33 部外者②
斉藤くんのその一言に数ヶ月間何もできなかった私は……、結局宮内くんに告白できずただの友達になった。そして、宮内くんと付き合うようになったうみちゃんはなぜか私にだけその事実を話してくれた。誰にも言わないでって、二人が付き合っているのはみんなに内緒にしたいって———。
そして、私はうみちゃんと友達になった。
きっかけはよく分からないけど、宮内くんのことでいろいろ話している間、少しずつ仲よくなったと思う。でも、今までクラスの誰とも話をしなかった宮内くんが、なぜうみちゃんにだけ声をかけるのか不思議だった。
二人の間には私が知らない何かがあると思う。
私と話す時とは違って、うみちゃんと一緒にいる時は幸せそうに見えたから。
やっぱり、男子はあんな可愛い女の子が好きなんだと思いながら、うみちゃんに勝てない自分を責めていた。普通だから———、私は。
そして、ある日……うみちゃんから電話が来た。
「どうしたの? うみちゃん」
「冬子ちゃん、私ね。冬子ちゃんにお願いしたいことがあるんだけど、聞いてくれない?」
「えっ? お願いしたいこと? 何?」
「私の彼氏、どうやら浮気をしているみたい……」
「えっ? 宮内くんが? 勘違いじゃない? そんなわけないでしょ?」
そう、宮内くんは浮気などしない。
私は半年以上そばで見てきたから、宮内くんは絶対あんなことをするような人じゃない。
なのに、どうしてそんなことを言うのか分からなかった。
「ねえ、そのお願いって何?」
「奏多くんのそばにいてくれない? もし、変なことをしたらすぐ私に報告するの。難しくないよね?」
「…………」
「冬子ちゃん?」
「あっ、うん……。分かった」
普通の人なら「何それ」が出てくると思うけど、あいにく私はそう言えなかった。
むしろ、いいチャンスじゃないの? と……。そう思っていた。
斉藤くんと違って、宮内くんはいつも私に優しくしてくれるし。放課後、二人っきりの教室で得意科目を教え合うのも楽しかったから、その話を断れなかった。一緒にいられるなら、そんな些細なことどうでもいいと思っていたから———。
すごく楽しかった。
うみちゃんは学校が終わった後……、忙しいって言いながらすぐ家に帰ってしまうから。私はほとんどの時間を宮内くんと過ごしていた。目標はまだ決めてないけど、まずはいい大学に行きたいって言ってたから……、私たちはそこで一生懸命に勉強していた。
私はその時間がすっごく好きだった。
でも、なぜ自分の彼氏が友達の私と一緒にいるのを許してくれるのか、それも気になる。そして、ほとんどの時間を勉強とバイトに使っていた宮内くんは怪しいことなど一度もしていない。だんだん疑問が増えるだけだった。
なぜ、私にそんなことを頼んだのか分からない。
私と過ごした2週間、本当に何もなかった。むしろ、私にうみちゃんの好きなものを聞いたから……もう意味ないと思っていた。
そして———。
私は街中で仲よく歩いている二人に気づいた。
うみちゃんと、そのそばで笑っている斉藤くん。
どうして、あの二人が一緒にいるのか分からないけど……、すごく仲良さそうに見えた。
まるで———。
「…………」
もしかして、あの二人は…………。
私もバカじゃないから、あの雰囲気を見るとすぐ分かってしまう。うみちゃんは最初から宮内くんのこと好きじゃなかった……。あんなところで斉藤くんとデートをしていたのは、最初から宮内くんには興味がなかったってこと。それが確信に変わる。
だから、ほぼ一年間二人から目を離さなかった。
そして、探りを入れる。
「斉藤くん、最近好きな人でもできなの? いつもクラスにいたのに、最近全然見えないね」
「俺……? ううん、好きって言うより興味があるって言うか。あはははっ」
知っていた。
斉藤くんがずっとうみちゃんと一緒にいたのを、そして興味を持っていたのを。
それを知っていたから、私はうみちゃんと宮内くんを別れさせたかった。私に変なことを頼んで……、自分は斉藤くんとみんなの知らないところでこっそり楽しんでいる。そして、私にそれを頼んだ理由は斉藤くんと一緒にいるのを秘密にしたかったからでしょ? バカみたい。
だから、二人がファミレスに行ったあの日……私はこっそり二人について行った。
でも、私がそこで見たのは二人の浮気現場ではなく……。知らない女の子と一緒にいる宮内くんだった。そして、手を繋いでいる二人の写真を撮ってしまった。それがきっとうみちゃんとの関係を壊してくれるとそう思っていたから———。
でも、私の考えが甘かった。
もっといい方法があったはずなのに、私は二人を別れさせて……宮内くんと幸せになることばかり考えていたから。それを斉藤くんに送ってしまったのだ。
クズは……クズと付き合えばいい。
私は間違っていない。
それが正しいと思っていた。あの二人は嫌いだから———。
「…………」
なのに……、あんなことまでするとは思わなかった。
新学期、私を呼んでいる宮内くんを……、私は無視するしかなかった。
私はあの人たちと同じクズだから———。
どうすればいいのか分からない。
そのまま逃げてしまった。自分の味方が必要だったあの瞬間、私は宮内くんを捨ててしまった。
「結局、冬子ちゃんも私たちと同じじゃん。全部知っていたくせに……、ずっと黙っていたのは冬子ちゃんでしょ?」
「…………」
「全部、話してあげようか? 冬子ちゃんの好きな宮内に。どこから話そうかな? 好きだったことから? どう思う? 冬子ちゃん」
「………やるから、もうやめて……」
私はずっと利用されるだけだった。
ずっと手に入れたかったその小さな幸せが、知らないうちに私を壊していた……。
なんのために……?
私は……、うみちゃんのおもちゃ。
彼女を満足させるためのおもちゃ。
結局……、宮内くんのそばにいたかったその小さな夢も消えてしまった。
私が勝てるわけないでしょ?
ひなちゃんもうみちゃんも私より可愛い女の子だから———。
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