32 部外者
「うみちゃんと……、付き合うんじゃなかったの……? 斉藤くん」
「ううん……。まあ、うみちゃんも可愛いけど、俺はまだ冬子ちゃんのことを諦めてないからさ」
「…………」
私のベッドから、私が一番嫌いな人の匂いがする。そして、タバコの匂いも……。
今、裸姿で私を見下している斉藤くんはあいにく私の元カレだ。
すごく虚しい、何も感じない。私は自分が何をしているのかすら分からなかった。
……
私たちの関係は中学生の頃から始まったと思う。
私は自分のことを可愛いと言えないけど、それでもクラスメイトたちにけっこう人気があった。みんなと仲良く過ごしていたから。そして、当時の斉藤くんはいつもクラスの中心にいて、知らないうちにみんなの憧れになっていた。
性格もいいし、お金持ちで、カッコいい人。
いわゆる、完璧な男。
その中には斉藤くんに惚れた女の子たちもけっこういたけど、なぜか彼に選ばれたのは私だった。いきなり「あのさ、冬子ちゃん。俺と付き合ってくれない?」と向こうからそう話したから……、私もさりげなく彼の告白を受け入れた。
思い返せば、斉藤くんの恋愛は遊び半分だった気がする。
その告白を他の女の子にしても、あの子は断らないと思う。イケメンだから。
私たちは付き合ったあの日……、すぐキスをした。そして、斉藤くんの家であの行為をする寸前まで行った。「好き」という甘い言葉で私を惑わす斉藤くんは、何気なく私の体あちこち……好きなだけ触っていた。
当時の私はまだそういう行為について詳しくなかったし、カッコいい人に告白されたからそれで十分だと思っていた。でも、それは私の勘違いだった。中学校を卒業する前に私は斉藤くんとセックスをしたから。私を抱きしめたままもう我慢できないって……すごく甘えてくる彼に、好きという感情が溢れてしまった。
そして、斉藤くんのその感情はあっという間に冷める。
その後は他の女の子たちと楽しそうに話していた。私と付き合っていても、そんなこと気にしなかった。もちろん、他の女の子と話さないでとは言えない。でも、少なくとも……女の子に何カップって、そんな汚いことを聞くのはやめてほしかった。
私の彼氏だから———。
「斉藤くん、私たち付き合ってるよね? そうだよね?」
すごく悲しかった。
どうして、そんなことをするのか私には分からなかったから。理解できなかったから。
「うん? 付き合ってるよ? 俺たち、セックスもしただろ?」
「…………」
もっと私のことを大切にしてほしかったけど、それは無理だった。
なぜなら、斉藤くんは私以外の女の子を見ていたから……。私は、私のすべてを斉藤くんにあげたのに、斉藤くんは知らない女の子と仲良く話していた。何もなかったように……、あの子とくっついて……仲良く話していた。
その関係が高校生になるまで続いて、どうしたらいいのか分からなかった。
斉藤くんのこと本当に好きだったから、そして別れるのが怖かったから……。ずっとその意味のない関係を維持してきた。でも、いつかきっと私のことを好きになってくれるとそう思っていたから、もう少し我慢することにした。
そんなことないのに、本当に馬鹿馬鹿しい。
「…………」
みんなの前ではしっかりしているけど、斉藤くんの前ではそうできない。
だから、その関係を終わらせる必要がある。
そして、その鍵は宮内くんとうみちゃんだった。
高校一年生の時……、私が初めて見た宮内くんはクラスの隅っこでいつも寝ている陰キャだった。なんのために生きているのかよく分からない……そんな人。学校に来て、授業を受けて、家に帰る。そんな学校生活を過ごしていた。
そして、私が初めて宮内くんと話をしたのは隣席に座った時だったと思う。
いつ落ちたのか分からないけど、床に落ちた私の消しゴムを拾ってくれた時、宮内くんと目が合った。髪の毛伸ばしていて、クラスのみんなにいつもキモいって言われていたけど、近いところで見たら意外とカッコいい人でびっくりした。
隣席になったのがきっかけになって、だんだん話をする日も増えていた。
そして、私は斉藤くんとの関係を終わらせようとした。みんなが言ってたことと全然違って、宮内くんは優しくて、意外と可愛い人だったから———。
もう、斉藤くんとの関係はいらない。
別れるのはそんなに難しくなかった。
最初から私なんか好きじゃなかったからね、斉藤くんが見ていたのはクラスの可愛い女の子たちで私じゃなかった。すごく悲しかったけど、そんなことはどうでもいいと思う。そのまま私は宮内くんと仲良くなろうとした。
そして———。
「冬子ちゃん、あいつに興味あんのか? 二人、いつもくっついてるね」
「ああ、宮内くんのこと? うん。宮内くん頭いいからね」
「ふーん。でも、あいつは知らないよな?」
「うん? 何を……」
「冬子ちゃんの初めては俺だったのを」
「…………な、何を……」
「冗談、冗談〜。あはははっ」
「…………」
私はうっかりしていた。
斉藤くんは最初からあんな人だったのを、顔だけの……クズだったのを。
そして、怖かった。あの……誰とも仲良くしている斉藤くんが宮内くんにその事実を言うかもしれないから、一人ですごく怯えていた。宮内くんはあんなこと気にしないと思うけど、それでも……嫌だった。すごく怖かった……。
だから、あの人を敵に回すのはできない。
そして、あの一言に……私は自信を失ってしまった。
どうすればいいのか分からない。そのまま時間だけが過ぎていく。
「ねえ、奏多くん! 久しぶりだね」
「…………」
その時———、うみちゃんが現れた。
そのタイミングで。
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