31 私の世界

 今日も、イ〇スタに写真を投稿した。

 だんだん増えるハートやコメント、そしてフォロワーの数を見ると少しは満たされるような気がする。100%満たされるわけじゃないけど、それでも私は意味あることだと思うからイ〇スタをやめなかった。


 その数字が私の価値を決めてくれるから、20万のフォロワーが私のことを認めてくれるから、それ以外私が幸せになる方法はないと思っていた。友情とか、恋とか、そんなくだらない関係に私は何も感じない。どうせ、人との関係はいつか壊れてしまうから、そこに力を注ぐ余裕など私にはなかった。


 私を裏切らないのはお金だけ。

 それ以外のことはいつか消えてしまう何かに過ぎない。

 それが真実だった。


「…………」


 暗い部屋、暗い居間、そして誰もいない家。

 今日も一人で配達を頼む。


「ああ……、一馬くんがまた制服を汚した……。あんなに注意してって言ったのに」


 制服を脱いで、そのままお風呂に入る。

 この時間はすごくいい。

 そして、ちょっとだけひなとあったことを思い出す……。


 ……


 お父さんとお母さんが離婚した後、私はお父さんと一緒に都会に来た。

 そして、ひなとの関係もそこで終わる。

 もう他人だからわざわざ私の方から連絡する必要もないし、そのまま連絡先を消して、その存在も私の記憶から消した。


 でも、ある日……ひなが私の前に現れる。本当にびっくりした。

 まさか、向こうから私に会いにくるなんて……。知らなかったから。


「うみ! うみだよね……!」

「…………」

「やっぱり! うみじゃん!」


 いつもと同じ笑顔をして、何もなかったように……私に笑ってくれるひな。

 その顔を見ると吐き気がして、どうすればいいのか分からない。

 また……何も知らないって顔をして、何もなかったように……私に声をかける。そう、いつもそうだった。ひなは私なんか気にしない、自分だけが幸せになればそれでいいと思っているから———。


「何しにきた?」

「うみに会いたくて……、お母さんにうみの住所を聞いて———」

「そう? 私は帰るから、さようなら。早く帰って、私はひなと話したいことないから」

「ま、待って……! どうして、どうして…………」

「さっき言ったでしょ? 帰れ!」


 また、すぐ泣き出しそうな顔をして……。ムカつく。


「私はみんなに会いにきただけなのに…………」

「ああ……。そういうこと? そういえば、奏多くんも都会に住んでいるって聞いたよね? ひな」

「う、うん……」

「他の人と会うのは構わないけど、奏多くんには近づかないでほしい」

「ど、どうして……?」

「私たち、付き合ってるから」

「…………そ、そうなんだ」

「そうよ。だから、奏多くんには近づかないでほしい。あんた……、?」

「…………」

「その顔、やっぱり忘れてないよね? ひな。でも、あんた男好きだからどこ行っても彼氏は作れると思う。そして、奏多くんに会って何をするつもり? どうせ、ひなは興味なかったじゃん」

「ど、どうして……そんなひどいことを言うの? 私は……うみの妹なのに……。どうして……?」


 涙を流しているその姿を見て、私は何も言わなかった。

 ひながどこで何をしても私とは関係ない。

 私が欲しいのはたった一つ、もうひなと会わないこと。それだけで十分だった。


 失せろ———。


 ……


 やっぱり、私はひなが嫌い。

 その顔を見るのも、話をするのも、全部嫌い。消えてほしい。私の前で……、消えてほしい。二度と会いたくなかったのに、どうしてうちの高校に転校してきたんだろう。


 二人はいらない、私一人で十分だよ———。


「…………」


 そして、夕飯を食べながらスマホをいじっていた。

 すると、とある化粧品広告に気づく。

 現役女子高生や女子大生に大満足大人気の香水……、『HINA No.3』。


 この香水……私の周りにも4、5人くらい持っていたよね。気持ち悪い。


「…………チッ」


 そのままイ〇スタを開くと、知らない人からD Mがたくさん来ていた。

 やっぱり、私は可愛い。そう、私はあんたみたいな人たちに返事などしない。

 私に必要なのは私を愛してくれる人だけ、みんな私を愛するんだよ。報われない愛を注ぐの。


 届かないところにいる私にね。

 だって、私は可愛いから———。


「…………」


 そして、奏多くん。昔のことをすっかり忘れたように、ひなとくっついている。

 すごく気に入らない。私と一緒にいる時はそんな顔しなかったくせに……、ひなと一緒にいる時は幸せそうな顔をしている。私の方がもっと可愛くて、私の方がもっともっと……人気あるのに、どうしていつもあんな消極的な女を見ているのか分からない。


 しかも、私を振るなんて。奏多くんのくせに……。


「気に入らない……。気に入らない………。気に入らない……………」


 それは、私のためならなんでもやってくれる大切なおもちゃだったのに。

 そして、ずっと不満を言えなかった奏多くんが急に「別れよう」って言ったのも、急にイメチェンをしたのも、全部ひなの仕業だよね?

 また……、余計なことをしている。クソ女が。


「ただいま……」

「酒臭い……。またそんなに飲んだの?」

「あははっ、酒飲まないと耐えられないから。仕方がないだろ? うみ」

「…………」


 いつもお酒を飲んで、会社の悪口ばかり言っているお父さんに私は飽きた。

 あんな風に生きるのは嫌だ。

 私は……私の幸せを見つけて、お金をたくさん稼ぐ。あんな人生は本当に嫌だ。


「ああ、ゆりえと離婚したのはやっぱりミスだったのかぁ。くっそ〜。まさか、あんな風に成功するとは…………」

「…………」

「ああ…………。ゆりえに会いたい。くっそぉ!!!」

「…………」

「うっ……。トイレ…………」


 このクズはいつになればお母さんのことを諦めるのかな……。情けない。

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