30 変わる空気④
これをどう説明すればいいのかな……?
その前に……、ひなの前でうみのことを話してもいいのか? でも、うみのことで不安を感じさせた俺が悪いんだから、ここははっきりと言うしかないよな。そうしないと今夜寝れないかもしれない。証拠はちゃんと持っているけど、正直……ひなが巻き込まれるのが嫌だったから、ずっと黙っていた。
やっぱり、言うしかないのか……。
そのまま体を起こして、ひなの方を見る。
「あのさ……、俺今日本屋で参考書を買った後、ショッピングモールでひなのケーキを買おうとしたけどさ……。そこで知らない男とデートをしているうみを見て……」
「知らない男って……?」
「うん、同い年の男じゃなくて……。あの……、ちょっと…………」
「〇〇活でもしてるの?」
「…………」
「なるほどね……。だから、うみのS N Sを見ていたんだ……」
「俺さ、ひなが転校して来る前まで……正直諦めてたよ。あいつらに何を言われても仕方がないって。でも、ひながここに来て俺の味方って言ってくれた時、何があってもひなを守りたかったからさ。だから……」
「うん、分かる。奏多は……私のためにずっと頑張ってくれたよね?」
そう言いながら俺の顔を触るひなに、すごく癒されていた。
なんっていうか、ひながいてくれればなんでもできそうな……そんな感じ。
その笑顔を見るたびに、ひなとあったいい思い出を思い出してしまう。
「少なくともS N Sに何をアップロードしているのか、知りたくて。ずっと見ていた」
「うん……」
「俺と付き合った時にはさ。こんな風に写真をアップロードしなかったけど、俺と別れた後……、ほぼ毎日こんな写真をアップロードしている。友達と一緒に撮った写真とか、そういうことなら俺もあまり気にしないけど、ずっと……高級ブランドのアクセサリーやバッグなどをアップロードするからさ」
「…………」
「そこに……、絶対何かあると思って」
「そして、偶然ショッピングモールで知らない男と一緒にいるうみを見たってことだよね?」
「うん」
そのままじっと俺を見つめるひな。
少しの静寂が流れた後、再び口を開けた。
「うみはね、昔から自分の承認欲求を満たすためならなんでもする人だったの」
「えっ?」
「ねえ、奏多。生きるために必要なのはなんだと思う……?」
「ううん……。お金? ご飯?」
「そう。生きていくためにはちゃんとご飯を食べて、ちゃんとお金を儲ける必要があるの。世の中の人はみんなそんな風に生きている。そして、もう一つ『愛』」
「愛……?」
「奏多は私と二人っきりになった時に何を感じるの?」
「えっ? い、いきなり? そりゃ……、楽しいとか、そういう感情だろ?」
「私と一緒にいて、ドキドキしないの? 奏多」
いやいやいや、なんで……いきなりあんなことを聞くんだろう。
そんなことより、ひなの手のひらがいつの間にか俺の胸元に……! 落ち着け。
確かに……、ひなと一緒にいるとすごくドキドキするけど、そんなことをひなの前で言えるわけねぇだろ?
「ドキドキするよね? 奏多」
「は、はい……。そうです」
謎の敬語……。
それに、ひなの前ですごくドキドキしている……。恥ずかしい。
「もちろん、私もそうだよ? 奏多とくっつくとすごく気持ちいいし、離れたくないとそう思ってしまう。それが愛だよ。そして、愛で心を満たしたことある人は分かると思う。たった一人、大切な人がそばにいてくれればそれだけですごく幸せになるってことを。でも、あいにくうみは愛を感じたことももらったこともない人だよ」
「ってことは……」
「自分の価値を知らない。ただ、周りの視線、評判で自分の価値を決めるの。意味のないことに力を注いでいる。奏多が見た高級ブランドのアクセサリーやバッグ、確かに同い年の女の子たちには羨ましいって言われるかもしれない。でも、そこにどんな価値があるの? ブランドは人の価値を決めてくれない。見た目だけじゃ何も変わらないのにね。可哀想な人」
「うん……。そうだよね」
「他人に愛をもらったことない人は愛をあげる方法を知らない。そして、周りの人たちにいつもチヤホヤされていたから、多分……自分のことをすごく偉い人だと思っているかもしれない」
「そう……。正直、あれがあってもうみの評判はあまり変わらないと思う。ファミレスのこともそうだ。一緒に話をしただけって言えばそれで誤解ってみんなそう思うはずだからさ。俺の時と違って、みんなうみのことを可愛くて優しい女の子だと思っている」
空気が変わっても、うみの評判はそのままだった。
どうせ、うみは可愛くてみんなのアイドルみたいな存在だったからさ。
「うみは……いつか自分が持っているすべてを失わなければならない。それは物じゃなくて、うみが一番欲しがっていた何か———」
「あのさ、ひなの制服をゴミ箱に入れたやつ。やっぱり、斉藤かな?」
「分からない。私はうみの仕業だと思うけど……、それをゴミ箱に入れたのは多分うみじゃない。誰かにやらせた可能性が高いよ、あの時みたいにね」
あの時……って。
「そっか。じゃあ、犯人はクラスメイトたちの中にいるってことだな」
「うん……」
そして、さりげなく俺に抱きつくひな。
そのままじっとしていた。
「でも、それをバラす時は今じゃないよ。奏多…………」
「そ、そうか?」
「もっと……、もっといいタイミングがあるはず」
「うん」
「奏多……、私眠い…………」
「うん。そ、そろそろ寝よう。ひな……」
「やっぱり……、奏多を抱きしめると落ち着くね。そして、奏多の匂いもいいし、すごく……気持ちいい」
うとうとしているひなをそばに寝かせた。
「おやすみぃ。奏多」
「うん……。おやすみ、ひな」
そして、うみ…………。お前は……、一体何がしたいんだよ。
どんな人生を過ごしてきたのか俺には興味ないけど、少なくともひなには迷惑をかけないでほしい。頼むからさ。
「ううん……。奏多…………」
そのまま寝ようとしたら…………。そばにいるひなが俺に抱きつく。
いや、磁石かよ……。
いつの間にかひなの抱き枕になってしまった。
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