29 変わる空気③

 どう見ても、あれは……〇〇活だよな?

 そのまま二人を尾行したかったけど、あいにくひなからラ〇ンが来て、そうする暇はなかった。でも、まさかあんなところで知らないおじさんと堂々とデートをしているとは……。そして、あのおじさんに好きなものをたくさん買ってもらって、今夜は一緒に食事をするのか。自分の目で見たけど、信じられない。


 いろんな意味ですごかった。うみ……。


「奏多……! あーん!」

「な、何それ……」

「ササミチーズかつ!」

「お、美味しそうだね!」

「あーん」


 家に着いたら、エプロンをしているひながさりげなくササミチーズかつを食べさせてくれた。そんなことより、エプロン姿すごく可愛いんですけど……。小学生の頃によくままごとをしていたから、もう慣れたと思っていたのに……現実と遊びは全然違うんだ……。


 綺麗……。


 落ち着けぇ———! 俺たちは幼馴染だ。本当にそれだけだから、落ち着け!

 意識してはいけない。奏多。


「どー?」

「美味しいね! てか、ひなが作ったのは全部美味しいからさ」

「ひひっ、奏多はいつも美味しそうに食べてくれるからね。その顔が見たくて知らないうちに料理が上手くなったの……」

「ありがと〜、ひな。そして、ひなの好きなケーキ買ってきたから、夕飯食べた後に食べて」

「わー! ありがと〜! 奏多!」

「うっ———!」


 なんで、すぐ俺に抱きつくんだろう…………。

 それに、その笑顔……、破壊力すごいんだからやめてぇ。

 てか、ただケーキを買ってきただけなのに、あんなに喜ぶなんて……。知らなかった。うみにケーキを買ってあげた時は何も言ってくれなかったからさ。そして、あんな些細なことに喜んでくれるひなを見て……、すごく嬉しくてどうすればいいのかよく分からなかった。


 なんだよ……。この気持ちは。


「食べよー! 奏多」

「うん」


 ……


 食事を終わらせた後、ひなはすぐお風呂に入った。

 しばらく一人の時間ができた俺は、テレビをつけた後スマホをいじる。当たり前のようにうみのS N Sを見ていた。今日はあのおじさんに高そうな財布を買ってもらったからさ。


 てっきり———。


「…………」


 やっぱり、すぐ投稿したのか。

 そして「素敵なプレゼントをもらっちゃった♡」とコメントを残したうみ。以前投稿した写真にも、似たようなコメントがたくさん残っていた。うみはずっとあれを続けていたかもしれない。なら、斉藤との関係はただの遊びかな? だんだん分からなくなってきた。


 一体、うみは何がしたいんだろうな。


「奏多、何してるの……?」

「うわっ! び、びっくりしたぁ…………」


 後ろから聞こえるひなの声にすぐスマホを隠したけど、バレてないよな?

 マジでびっくりしたからさ…………。それに足音も全然聞こえなかったし、怖いすぎ……。


「お、お風呂入る……!」

「うん! 着替えは用意しておくからね」

「ありがと、ひな」


 ひなにバレてないよな……? うみのS N Sを見ていたのを……。

 余計に気になる。

 でも、またあの時みたいに変な噂を流すかもしれないから、その時に備えて証拠を集める必要があった。バレたら困る。それに、変に思われるかもしれないし、未練が残ってるように見えるかもしれないし、いろいろやばいからさ。


「はあ……、俺はただ普通の学校生活を過ごしたいだけなのにな」


 髪の毛を乾かした後、うみのことは忘れることにした。

 今はひなの家に来てるし、証拠もちゃんと残したから。


「あれ? これ……前と違う部屋着だな。まあ、いっか」


 そのまま居間に来たら、ココアを飲んでいるひながソファでじっとしていた。

 てか、俺のも作ってくれたのかぁ。

 そういうところ……! めっちゃ嬉しい……。


「……っ!」


 そして、ソファに座ろうとした時……、視界に入ってくるひなの部屋着。

 あれ……? なんで俺の部屋着と一緒なんだ……? ひな。


「どうしたの? 奏多」

「同じ部屋着……」

「あ、これね! どう? 可愛いよね!」

「いや、そんなことより……。なんで、俺……ひなと同じ…………」

「ふふふっ、これ! 好きなブランドのルームウェアだからね! 肌触りとかすっごくいいから、前に奏多のもこっそり注文したけど…………。いきなり同じ部屋着を出すのは恥ずかしいから……。ほら……! 昨日、私を幸せにしてくれるって約束したでしょ!? 私……、これやってみたかったから……ペア部屋着。だから……」


 なんで、だんだん声が小さくなるんだろう。

 さりげなくひなの頭を撫でてあげた。


「へえ……、そうなんだ。でも、これけっこう高そうに見えるけど、いくら?」

「そんなに高くないよ? 1万円くらいかな?」

「そ、そうなんだ……」


 うん? 1万円……? そんなに高くない?

 その穏やかな笑顔……意味がわからない! なんだよ、1万円しかしないから買っちゃったみたいな顔は……。

 やっぱり、ひなはお金持ちだな。


「そろそろ……、部屋に入ろうか…………」


 でも、もう俺のシャツは着ないからそれでいっか。

 いつもシャツばかり着てて、下着が見えそうになるからさ。マジでやばかった。


「うん……」


 そして……、さりげなく俺をベッドに連れて行くひな。手首を掴まれてしまった。


「ひなさ……」

「うん? どうしたの? 奏多」

「たまには一人で寝てもいいんじゃね? 俺、床で寝てもいいから……」

「そ、それって……。つまり……、私のことが嫌いってことかな……?」

「んなわけないだろ? ただ……、くっつくのが恥ずかしいっていうか」

「今まで……、私奏多に弄ばられたの? ひどい……、奏多…………」


 そう言いながら急に涙を流すひな、俺はすごく慌てていた。

 こういう時は男の方から先に謝るべき……!

 てか、なんで泣いているのか全然分からないんだけど……!? 俺……。


「ひ、ひな……泣かないで! な、なんでもするから泣かないで……!」

「ほ、本当に……?」

「うん、ごめん! なんでもするからもう泣かないで」

「じゃあ! 一緒に寝よう! 奏多」


 そう言いながら笑みを浮かべるひな、やられたのかぁ———!

 まさか、あのひなが俺を騙すとは…………。


「へへっ、なんでもするって言ったよね? 奏多」

「……今のはなかったことに……」

「ダーメ!」

「はいはい……。まったく、一緒に寝よう!」


 そして、今夜も……ひなとくっついて寝ることになった。

 てか、ひなの温もりとそのいい匂いに俺寝れないんだからさ、勘弁してほしい。

 それにすぐそばに女の子がいるから、緊張してしまう。当たり前のことだけど、いろいろやばい。


 落ち着け……、落ち着けぇ———! 宮内奏多!

 ひながすぐそばにいるから、落ち着け! エッチなことは考えるなぁ———!


「奏多」

「う、うん……」

「奏多……、まだうみのこと好きなの?」

「えっ? どうして?」


 そばから俺をぎゅっと抱きしめるひなが小さい声で話していた。


「うみのS N S…………」

「あっ……」

「お風呂から出てきた時、急にいたずらがしたくてね。こっそり奏多の後ろに行ってみたら、奏多うみのS N Sを見ていて……。それ、もしかして…………」

「いやいやいや、違う。俺はうみのこと全然好きじゃないから……」

「…………」


 やばい、やっぱりひなにバレたのか……。

 それに、俺を抱きしめているひなの体がすごく震えている。


「私じゃダメなの……?」

「…………」

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