28 変わる空気②

 イメチェンをしただけなのに、なぜかクラスの女子たちが寄ってくる。

 どうしてだ……? 一体、以前と何が違うんだろう。

 そして、寄ってくることより、ひなにめっちゃ睨まれていてどうすればいいのか分からなかった。今朝もそうだったけど、女子たちが寄ってくるたびに、その視線が感じられるからさ。怖い。


 てか、ひなは怒る姿も可愛かった。本人には言えないけど……。


「ああ……、奏多はいいね。ずっと女の子たちに囲まれて…………」

「よくねぇよ。そんなひなも、しょっちゅうクラスの男たちに狙われてるんだろ? すごく気に食わないんですけど……それ」

「そうかな? でも、私は奏多しかいないよ? それは絶対変わらないからね!」

「俺も……ひなしかいない。だから、もうそんな目で見ないでぇ」

「だって、奏多……。女の子たちに声かけられるとどうすればいいのか分からないって顔するから! それが心配なんだよ! 私は」

「そんなことないって……」

「じゃあ、約束して!」

「はいはい。約束!」


 またひなとの約束が増えた。

 そんなことで心配しなくてもいいのに、どうせ俺は他の女子たちと仲良くなるつもりないからさ。


「ひひっ」


 そして、音楽室から戻ってきた時、ちょうど教室から出てくるうみとばったり会ってしまう。なんか、機嫌悪そうに見えるけど、それも当然か。斉藤の前で堂々とそれを言い出したからさ。


 その一言でクラスの空気が変わった。

 もうあの時みたいにクラスメイトたちに責められる状況は作れない。

 

「奏多、今日のお昼は何?」

「お昼……。コンビニで買ってきたサンドイッチかな?」

「ええ、たまにはお弁当作ってよ〜! 私、奏多のお弁当が食べたい!」

「ええ……、俺料理下手だからさ」

「じゃあ、一緒に作ろう! うちで!」

「それって、つまり今日……ひなの家に泊まらないといけないってことだよな?」

「そう! その通り!」

「うん……、いいね」


 そのままひなと廊下で話していたら、今度は如月が教室から出てきた。

 でも、なぜかじっと俺の方を見ているような……。気のせいだろう。


「ねえ、奏多。さっき奏多をじっと見つめていた女の子如月だよね?」

「うん。やっぱり、そうだったのか。俺の方を見ていたのかぁ」

「うん……。でも、如月。なぜか、悲しそうな顔をしていたよ」

「ふーん……。なんだろう」


 確かに、ひなの話通りだ……。

 ずっと元気なさそうな顔をしていたけど、何かあったのかな……?

 でも、どうせうみの友達だからそんなこと心配しなくてもいいと思う。うみの友達だからさ。


「あの二人……、お似合いだね」

「そうだね。仲もいいし、なんか羨ましい…………」

「でもね、まだひなちゃんと付き合ってないから私にもチャンスあるかも?」

「それ……! 俺たちにもチャンスあるってことだよな?」

「男子たちには無理だよ。ひなちゃんみたいな可愛い女の子が、あんたたちと付き合うわけないでしょ?」

「いやいや……。じゃあ、女子たちはなんで宮内と結ばれると思ってるんだ?」

「私たちはね。普段から化粧とか、髪型とか、いろいろ気にしてるけど、男子たちは何もしないんでしょ?」

「くっ……! そんなことで、結ばれると思ってるのか!」


 うるさいな……。


 てか、なんでクラスメイトたちが口喧嘩をしているんだろう。

 そんなところで話すと全部聞こえてくるんだよ……。

 そして、そばでくすくすと笑うひな。一人だけ……すごく楽しんでいるような気がした。


 まったく……。


 ……


 放課後、今日はすぐひなの家に行くつもりだったけど、本屋に寄って参考書を買わないといけないからさ。

 ひなの頭を撫でてあげた後、校門前で別れた。

 なんか、俺たちちょっと恋人っぽくないか? 頭を撫でてあげたのは俺だけど、なぜかすごく照れていた。馬鹿馬鹿しい。


 そして、せっかく繁華街に来たからショッピングモールに寄ってひなの好きな甘いものでも買っていこう。ショートケーキとか、ロールケーキとか、めっちゃ好きだったからさ。中学生の頃まで好きだったから、多分……今も好きだろ? そして、女の子は大体甘いもの大好きだし、うちのお母さんもケーキとか大好きだから、なぜかそうだと確信してしまう俺だった。


「あはははっ、おもしろ〜い! すごいですね」

「あははっ、そうかな? そういえば……、女の子はこういうの好きだった気がするけど」

「はい! 私はこっちのショートケーキが好きです!」

「うん。これください」


 この声は……? 気のせいだと思ったら……、ケーキ屋の前にうみがいた。

 しかも、斉藤ではない男と一緒にいる。

 確かに……、二人が付き合っているのかどうかまだ分からないけど、それでも二人は学校でしょっちゅうくっついていただろ? どうして、うみのそばに知らない男がいるんだ……? 分からない。

 どういう状況なんだ……? あれは。


「…………」


 びっくりして、バレないようにすぐ身を隠す俺だった。

 見た目では30代後半に見えるけど、一応……北川さんではない。

 ということは……、まさか……。まさか…………? あれか?


「あはははっ、いつもありがとうございます〜」

「可愛いうみちゃんの頼みだから。ふふっ」

「この財布もありがとうございます。ずっと欲しかったんです!」

「あはははっ、よかったね」


 おいおいおいおい、マジかよ……!

 うみ、お前は……あんなことまでしていたのか? 正直……、あれはネットでしか見たことないから、自分の目で見るのは初めてだった。本当に、信じられない。そして、俺はこんな人と一年間付き合っていたのか? ずっと裏切らないって、そう思っていたのか? また……、ショックを受ける俺だった。


 マジかよ……。


「次はどこに行く?」

「ううん……。そろそろ一緒に夕飯食べたいんですけど〜」

「そうしよう」


 斉藤の前ではあんな風に言わなかっただろ? すごく可愛い声を出している。ファミレスにいた時よりも……。

 そして、学校にいる時と全然違う。あんなに甘えるうみは見たことがない。

 そのままこっそり二人の写真を撮った。


「…………」


 思い返せば、うみのS N S……。

 顔は出なかったけど、写真だけで分かるっていうか。そこに写ってる人は斉藤だけじゃない。

 そう、いくらお金持ちだとしても斉藤一人であれを全部買ってあげるのは無理だ。


 なら、結論は———一つしかない。


「……うわぁ、うみ。一体……、何をやってるんだよ」

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