27 変わる空気
いつもと同じ日常、騒がしい教室、俺だけすごく緊張していた。
イメチェンとはいえ、目立つのはあまり好きじゃないから……。
そして、朝から鏡ばかり見ていたのに……、まだ慣れていない。ひなに変って言われたらどうしようとずっと心配していた。てか、頑張るって決めたのに……、どうしてうじうじしているのか俺にもよく分からない。
バカみたいだ。
(ひな) 今日は遅いね。奏多。
当たり前のようにラ〇ンを送るひな。
仕方がなく、こっそり教室に入ることにした。
「あれ? 誰?」
「うん?」
「うちのクラスにあんな人いたの? カッコいい」
「知らない……。誰だろう」
なのに、すぐバレてしまうなんて……。
クラスメイトたちがこそこそ話していたから……、席に座っていたひなもそれに気づく。
そして、俺と目が合った。
「あっ!」
「あ……」
その場で何を言えばいいのか少し悩んでいた。
まさか、すぐこっちを見るとはな……。
それに、ざわざわするクラスメイトたちの声が聞こえてくる。目立つのはやっぱり苦手だな。じっとひなを見ているけど、俺の方を見ているクラスメイトたちの視線がもっと気になる。
なんだろう、この雰囲気。
「お、おはよう……。ひな」
「奏多……! 髪!」
「うん…………。へ、変かな?」
「似合う!」
「あ、ありがと……。ひな」
いつもと同じ笑顔でそう話してくれたから……、すごく恥ずかしかったけど、すごく気持ちよかった。ひなは俺が悪いことをしない限り何があっても俺のことを肯定してくれるからさ、昔からずっとそうだった。
そして、にっこりと笑うひな。
どうやら、余計なことを心配していたかもしれない。
その笑顔を見ると、なぜか自信が生まれる。ひなはポジティブ女の子だから。
「へえ……、いいじゃん! 奏多。イメチェン?」
「う、うん……。俺……、ひなと楽しい学校生活を過ごしたいからさ」
「へえ、私のためなんだ〜。ふふふっ」
そう言いながら、俺の頭を撫でるひなだった。
……
そして、休み時間……。
なぜこうなってしまったのか分からないけど……、俺の周りに女子たちがたくさんいる。普段ならうみの周りでいろいろ話していたはずなのに、今はさりげなく俺の周りに集まっている。
なぜだろう……?
「ねえねえ、宮内くん。ごめんね……、誤解して」
「あ、ああ。うん。いいよ」
「そんなことより……。斉藤くん、どうして宮内くんをそんなにいじめたのか分からないね。二人の間に何かあったの?」
「いや、特に何もなかった。急に浮気者って言われただけだからさ」
「ええ……! もしかして、八つ当たりかな? 斉藤くん……最近うみちゃんとくっついてるから……」
「そうかもしれない。俺もうみと話したことないから、よく分からないけど」
「そういえば、私……学校に来た時、クラスメイトに『宮内くんが浮気したって知ってる?』って言われたよ」
「そうそう! 私も!」
「でも、うみちゃんは怖い怖いって言うだけだし。何も言ってくれなかったから」
「そうだよね」
「でも、私昨日のことで分かったよ! 宮内くんはそんなことをするような人じゃない!」
「ありがと……」
「そして、今朝ひなちゃんがいろいろ話してくれたからね……。ずっと……誤解していたよ、宮内くんのこと。ごめん」
「私も……。ごめんね」
なぜか、クラスの女子たちが俺に謝るすごい状況になってしまったけど。
その後ろでひなが笑っていた。
「でも、斉藤くん気持ち悪いね。変な噂を流したり、偉そうに宮内くんのことをいじめたりして……」
「その通りだよ! そして、ひなちゃんの制服をゴミ箱に入れたのも絶対斉藤くんたちだと思う」
「だよね……。裏で何を企んでいるのか分からないから、気持ち悪い……」
「そんなことより! 宮内くん、髪切ったね! 似合う!」
「そうそう! 前には髪の毛伸ばしてたから、全然知らなかったけど…………! 宮内くんイケメンだね!」
「今の方がいいよ! 絶対いい! 宮内くん」
「あはは……、ありがと」
そして、後ろからすごい殺意が感じられる。
もしかして、ひなかな……? ひなかな…………? ひなだよな?
ちらっと後ろを見た俺は、死んだ目で俺の方を見ているひなに気づく。すごく怒っているけど、どうしよう。緊張して固唾を飲む。そういえば……、俺今まで一度もひなを怒らせたことないよな? あんな風に怒るひなは初めてかもしれない。
ずっと仲良く過ごしてきたからさ……。
「み、みんな……! 俺、ちょっとジュース買いに行ってくるから。あはは……」
「うん!」
「そして、ひな! この前にジュースおごってもらったから! 今度は俺がおごるよ!」
「うん……」
声、低い———!
そのまま拗ねたひなを自販機の前に連れてきた。
てか、ずっと怒ってるし……。頬膨らませるし…………。難しいな…………。
「ひなはアップルジュースだよね?」
「そう……」
「えっと……、怒ってる?」
「怒ってないし! 別に…………、なんでもないよ! バカ奏多!」
そう言いながら脇腹をつねるひな。
いやいや、わかんない!
「…………」
もしかして、クラスの女子たちにカッコいいって言われたから怒ってるのかな?
もし、それなら……俺はひなに何を言ってあげれば……。
その時……、ふとお母さんに言われたことを思い出す。女の子があんな風に言うのはきっと理由があるから、すぐ謝った方がいいって。でも、俺は本当に何もしてないのに、謝らないといけないのか? この状況が少し難しい俺だった。
もし、女子たちにカッコいいって言われたことに腹が立っているのなら。
こう言ってあげるしかないよな?
「あのさ、俺はひなが一番可愛いと思う。クラスの女子たちより、いや! この学校で一番可愛いと思う!」
という、バカみたいなことを言い出してしまった。
いや、こんな感じじゃなかったのに、実際話してみたらめっちゃ恥ずかしい発言になっている。
「本当に〜?」
えっ! いつもの声に戻ってきた!
やっぱり、それだったのか。
「あ、当たり前だろ!? ひなは……、可愛い女の子だから!」
俺が言い出したことだけど、やっぱり恥ずかしいな。これ……。
どっかに隠れたい気分だ……。
「そう! 私は可愛いからね! だから、奏多はもっと私のことを大切にして」
「なんだ……。お母さんと同じこと言ってるじゃん」
「えっ? なんって?」
「なんでもな〜い」
「なんだよ〜。バカ奏多!」
「あはは……」
すると、急に俺に抱きつくひな。
いくらなんでも……、学校にいる時はちょっと———。
「ひ、ひな……?」
「奏多……、カッコいい…………」
「えっ?」
「カッコいい…………」
「う、うん……」
どうすればいいのか分からなくて、しばらくそのままじっとする俺だった。
この静寂が恥ずかしい。
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